下弦の月が浮かぶ夜5
*連れられて行ったのは最上階のレストラン。
名前を告げる前にいそいそと黒のスーツを着込んだ支配人らしき人物が頭を下げる。
慣れた仕草で聞き流す様に挨拶を受けている美作さんを眺めてる数秒間。
「牧野」
名前を呼ばれて我に返る。
私・・・
こんな格好で大丈夫か?
お世辞にも1流レストランが似合う服装はしてない。
上下合わせても数千円。
これで美作さんの彼女の役出来るのか・・・。
不安になった。
通された奥まった個室。
ゆるやかに流れる音楽はどこかで聞いたクラッシック。
モーツアルトかな?
最低限の知識で頭の中を手繰りよせてる。
ドアを開けた瞬間に足元に冷気が流れてると錯覚しそうな視線を投げられた。
目の前のテーブルには美女の分類に入りそうな女性。
それが3人。
その視線は遠慮なく美作さんに注がれている。
優雅に流れているはずの音楽も聞こえなくなったシーンと静まり返える部屋。
場違いだ。
このなかで自分だけが浮いている感覚に襲われる。
帰りたい・・・
「帰さない」
声にしてないつもりだったのに、しっかり美作さんには聞こえていたみたいだ。
一歩後退しかけてた足を元に戻して固まったまま息をのむ。
「わざとこんな集まりを作ったの?」
真中の椅子に座る少し年上っぽい女の人が口を開く。
マダムキラーというのは今さらながらにウソじゃなかったと証明する様な相手。
「手違いで鉢合わせさせたわけじゃなさそうね」
「噂は本当だったんだ。あきら君」
修羅場じゃなく、落ち着いた声が聞こえるけど目は笑ってないよぉぉぉぉぉ。
このお姉さま方。
値踏みされてる視線がつま先から頭の先まで遠慮なく行き来する。
この手の視線を向けられるのは初めてじゃないけど慣れない。
「話しやすそうで良かったですよ」
動じない穏やかな声でにこりとほほ笑む美作さんもタダものじゃない。
「なんの約束もない付き合いは止めようと思いまして・・・」
そういいながら私の肩を抱く美作さんにギクッと肩が震えた。
思わず左右に視線を移動させて道明寺がいないことを確かめる私。
居るわけないつーの。
「すぐに飽きられるわよ」
言った台詞はどう聞いても私への捨て台詞。
恨まれるのは私じゃなくて美作さんじゃないのか?
何事もなかったようにお姉さまは達は部屋を出て行った。
「まあ、まずは第一段階突破だな」
「第1段階って第2段階があるってこと?」
背中に流れ出た汗が一瞬でスーと引っ込む様な感覚。
「あと二人よろしく」
悪びれない様子でシャンパングラスを手にもつ美作さん。
それをグッと喉元に流し込んだ。
私の方が喉がガラガラだよ。
似た様な展開を繰り返して「これで終わり」と美作さんがポンと肩を叩く。
「案外早く済んだ」
「噂って結構威力あるなぁ」
何となく楽しげに美作さんが見えてしまう。
「もしかして最初からそのつもりで噂流したとか?」
「そんなわけないだろう」
「俺だって司は怖い」
それはたしかにそう思える。
「うまい具合に助かった」
それを素直に信じていいものかどうか・・・
大体私をからかうときは西門さんとのツインズだ。
「西門さんがどこかで隠れて見てるとか?」
「今回は関係ないよ」
「牧野を見つけたのも本当に偶然だしね」
コハク色の液体が注がれたグラスを美作さんに渡される。
「変なこと頼んでごめん」
私に謝る美作さんは力なくさびしげにほほ笑む。
美作さんのこんな頼りなげな表情初めて見た気がして、心の奥がキュッと痛む。
「何かあったの?」
戸惑いを持ったまま不安げに声を上げていた。
続きは下弦の月が浮かぶ夜6で
拍手コメント返礼
しずか様
切ないあきら君。
どうしちゃった?と思える展開。
もうしばらくこそこそとUPする予定です。
私も引っ張るなぁ~。
ばれて暴れる司!
登場するかどうかこうご期待!。
まあこのお話は花男のサイドストーリ的要素で書くつもりです。
主役は美作あきら!
そうなると西門、花沢類のお話もとなったりして(^_^;)