下弦の月が浮かぶ夜6

 *

鈍感なのか・・・

敏感なのか・・・

分からなくなる。

目の前でじっと見開いたままの真剣な瞳。

無邪気な色を乗せたまま心配そうな表情を向けられた。

抱きしめたくなる。

きっと・・・

こんな表情を無意識に作る牧野に司も弱いんだろうな。

ふと浮かぶ親友の顔に心がブレーキをかけた。

「悩んでるように見える?」

クスッと小さくほほ笑んでつぶやく。

それは自分の心を隠す様におどける。

「何かいつもと違う感じがしたから・・・」

困った様な表情に牧野が変わった。

「一人身になったら俺も淋しくなる」

身体の関係にあった女と別れてもこんなもんかとあっさりと思えてしまう。

牧野に会えないほうが淋しいと思う俺の方がおかしいかもしれない。

牧野に会えないほうが淋しくなる

心の中で置き換える名詞。

言葉にできるわけはなかった。

「ほら!また表情が曇ってる」

「もしかして、あの中に本命の人いた?」

牧野にしたら当たり前の分析。

その勘違いが俺を救ってる。

「司がうらやましいよ」

つぶやくようにこぼれた本音の部分に牧野がきょとんとなった。

「美作さんでもうらやましいと思うことあるの?」

「司みたいには生きられないからな」

「典型的な自己中だからねあいつは」

「そいつに振り回されるのも好きなんだろう」

俺の言葉にわずかに頬を染めて照れて笑う。

牧野が側にいることが一番うらやましいんだ。

そう思う心はどこにも解き放す場所はもうない。

「本当に好きな奴と一緒になれるってことは諦めてるからな」

「失恋でも・・・した?」

言いにくそうに牧野が俺の顔を覗き込む。

俺の思い人が自分なんて少しも思ってはいない幼い顔。

普通・・・

女と別れるって言ったら一人に絞ったとかそんな発想じゃないのか?

「なぁ、俺に本命が出来たとかは考えないの?」

軽い嫉妬を含んだ言葉。

「えっ!そうなの?」

「好きな奴とは一緒になれないとか言ってるから・・・」

「そうか・・・とうとう美作さんもそんな人が出来たんだ!」

「淋しいけど、応援するから頑張って」

手放しで喜んでほほ笑みを向けられる。

そんな態度を見せられてジンと胸が傷つく。

俺、何言ってんだ!

牧野といると調子が狂う。

「・・・でどんな人?」

今度は好奇心に輝く瞳をまんまるく見開いて詰め寄られた。

牧野お前だ!

心の奥に押し込めて数日前のオヤジの顔を浮かべる。

俺も相当我慢強い。

それは呆れるくらいだ。

「身辺整理しておけ。結婚相手を決めたから」の命令口調。

おふくろと妹達には甘いくせに俺には威圧的態度しか見せない親父。

「今まで好きにやらせていたのだから十分だろう」

その親父を尊敬してる俺に抵抗できるものはない。

「じーさんが乗り気でな」

親父だけでも半端じゃねえのにじー様まで登場って・・・

逃げ場ねぇと観念した。

どうでもいいけど・・・

そんな投げやりの気分で「会うだけなら」と返事した俺。

「まだ会ってない」

「なに、それ?」

少し口調を荒げる牧野にふと心の奥がゆるむ。

「司の時もあっただろう、勝手に見合い勧められたり婚約させられそうになったり」

「一緒だよ」

「断れないの?」

「断るんならいい方法がないわけでもないんだけどな」

あり得る可能性は0に近い。

それでも口にしてしまったのは俺の願望。

「牧野、このままあの噂に付き合うか?」

きょとんとなって考え込むこと数秒。

「えーーーッ!」

牧野が大声をあげて叫んだ。

続きは 下弦の月が浮かぶ夜7

さぁどんな展開になるのかな~

と・・・

ニンマリしてる私はドS応援隊です。

さて今回は一番被害に遭うのは誰でしょうか?