下弦の月が浮かぶ夜9
*どうして・・・
今ここにいるのか。
自分から会いに行く必要はない。
身の置きどころがない淋しさで眺めるネオン。
黒猫の絵の書かれた看板がじっと俺を見据えてる。
黄色く光て見つめるネコ目。
冷たく感じた。
「いらっしゃいませ」
静かな口調で明けたドアの先で身を低く頭を下げる黒服。
普段行く店ならすぐに奥まったVIPルームに通されるところ。
「お一人ですか?」
軽くうなずき店の中に一歩歩みを進める。
俺の顔を見て緊張しない対応の店は久しぶりだ。
「うちは初めてですよね」
つーか、キャバク自体が初めてだよ。
今ままでキャバ嬢をはびこらせる必要なんてどこにもなかったもんな。
「ペルシャってどの子?」
お客さん目が高いって本当か?
自分の源氏名にペルシャって付けることからセンスねぇって思うのは俺だけだろうか。
中央の席に通されてしばらく待つように言われて一人座る。
呼びもしないうちに香水の匂いを撒き散らして左右に座り込む女たち。
「何飲みます?」
「一番いいボトルを入れてくれ」
そのあとは会話をする気にもなれず渡された水割りをギュッと喉に流し込んだ。
「いらっしゃいませ。ご指名ありがとうございます」
目の前に静かにたたずむ女性が視線を外さず俺を見つめる。
ご指名ってことはこの女がペルシャ?
俺の見合い相手。
少しあどけない感じでつくる笑み。
俺より年上には見えねぇ感じ。
まあ・・・
10人並みって容姿。
夜の蝶というには少し目立たない仕上がりの控えめなメーク。
今まで付き合った事のないタイプ。
「どこかで会ったことあります?」
「いや・・・ない」
「そうですよね」
からになったクラスにカチッと入れた氷が音を立てる。
まだ少し慣れてない仕草が幼く見せた。
「今すぐこの店辞めて元の生活にもどれ」
「何いきなり言ってるんですか?」
俺に渡そうとしたグラスが手の中でわずかに震える。
俺と付きあわなくてもこんな生活がさせられるわけがない相手。
一応は爺様のお気に入りだ。
つーか、会社でバイトは禁止だろう。
「はした金の為に身を切り売りする必要はないんじゃないか」
「似あわねぇよ」
女がガタッと席を立った拍子に倒れるブランデーのボトル。
「初めて会った相手に言われる必要はないわよ」
「私には私なりの理由があって働いているんだから」
バシャッ
女が手に持っていたグラスの仲の茶色の液体が俺の顔に張り付く。
「人のこと馬鹿にして、ニ度とくんな」
女に啖呵切られたの初めてだ。
「分かった、ニ度と来ない」
黒服が数人タオルを持ってきて「申し訳ありません」と頭を下げる。
「見かけによらず気が短いんだな」
睨むように勝気な瞳は不快感を隠そうともしてない。
女にそんな目でみられたのも初めてだ。
この女・・・
自分の勤めてる会社の社長が俺だと気が付いてないのも面白い。
俺ってそんな人気なかったか?
会社では俺を一目見ようと隠れて待ち伏せしてる女子社員もいる。
思ったより楽しめそうだと思っている自分に苦笑したまま店を出た。
つづきは下弦の月が浮かぶ夜10で
拍手コメント返礼
hanairo様
あきら君の恋はどうなるのか?
今からですよね。