下弦の月が浮かぶ夜14

 *

「得したよね」

「昨日のランチ一生忘れられないわぁ」

「側で見られただけでも幸せだったのにーーーッ」

昨日のランチから会社に戻って一晩経っても続くテンションの高さ。

「アホらしい」と葵だけがその中から浮いている。

「君たち、会社の子だよね」

そこだけなぜか宝塚調のセリフの口調に変わる。

「声かけられるって一生ないって思っていた」

「ここは僕が払っておくからって伝票を持って行くところもスマートだよね」

「もう、社長にランチおごッてもらったって言っても誰も信じてくれないんだもん」

会話の中に社長が女性と二人で食事していた様子は見えてこない。

そのそばに偶然いた女子社員数名。

今の会話を聞いたら社長と食事していたのは私たちだと勘違いされそうな会話が続く。

「やっぱりアホだ」葵は小声でつぶやいた。

大体私に見合いの相手だと言ったその足で女性と食事だぞ。

普通するか?

それもやたら親しそうな雰囲気で、楽しそうで・・・

私に見合いを断られて困ってる感じ全くなし。

って・・・なに私が怒ってんだろう。

悶々とした気分を「関係ない!」と打ち消して葵は目の前のパソコンの画面を睨みつけた。

「・・・東條さん・・・」

受話器を握りしめたまま課長の困惑気味の声を葵に向ける。

「君、またなにかやったの?」

「なんですか?」

「社長からの呼び出しだ。すぐ来るようにと連絡があった」

「何もやってませんよ」

あんにゃろと心の中ではギタギタにあきらの顔を葵は丸めている。

もう私への要件は済んでるはずだ。

それなのに目立つように呼び出して同僚の好奇心旺盛の表情が見つめてる。

今さっきまでの社長の話題はどこかに飛んでしまっている。

昨日もどれだけごまかすのに苦労したことか・・・。

「同姓同名の別人だった」と誤魔化したのに今日も呼び出すなんてことされたらどう説明すればいいのか見当がつかない。

「社長が私の見合い相手らしい」

爆笑されるのが落ちだと思う。

万が一信じられても会社での居場所がなくなりそうだ。

「もう構うな」と宣言してやる!

その思いを込めて葵は「行ってきます」と口調も荒く席を立った。

社長室の前で大きく深呼吸を2回。

息を吸って大きく葵が吐く。

気を沈めるようにグッと口を閉じてノックをした。

すぐに開けられる重工なドア。

デスクの前までずんずんと歩いてその上にバンと1050円を葵は置いた。

「おごッてもらう理由はありませんから」

頭から湯気が見えてる様な形相。

「俺にお金を返した女を初めてみたよ」

こいつを怒らせるようなことしたつもりないけどな。

目の前のお金には興味がない様にあきらは椅子から立ち上がった。

「ギャッー」

あきらの目の前で葵が声を荒げる。

「若いころのお嬢さまに生き映しだ」

目の前には白髪頭のお爺さん。

ギュッと抱きしめられて身動きが取れない葵。

「な・・・なんですか!」

両手をバタつかせる葵から腕を離して「おっすまん、ついうれしくてな」と目の前で下がる頭。

「び・・びっくりした」

当然の抱擁にバクバクと葵の心臓が波打つ。

男性から抱きつかれるって・・・

記憶にない。

その相手が祖父に近い年齢でもドキドキする自分が情けない。

このお爺さんも若い時はそれなりの見ごたえのある容姿だったに違いないと葵は思った。

「おれの祖父だ」

「そうなんだ」

驚きを隠しながら憎たらしくしか聞こえない声に返事をする。

ダメだ・・・

社長!社長!

呪文の様に心の中で繰り返して「ご用は何んですか」とこわばる顔に葵は笑顔を浮かべた。

「用事があるのは俺じゃなくてうちの祖父だ」

「君に会いたいって突然やってきた」

葵の前でゆっくりとあきらの祖父が頷く。

優しく見つめるその表情に葵の緊張もわずかに緩む。

この顔が曲者だ。

葵の緊張感が移動したようにピンとあきらが背中を伸ばした。

「昨日ご母堂様にお会いしてまいりました」

「借金のこともすべて立て替えるとの申し出も、昔世話になったからと説明ましたが最初は頑なに拒まれて・・・」

「さすがは東條家の方と感服いたしました」

「そこで、うちの孫と葵さんが結婚を前提に付き合ってると説明してようやく受け入れてもらいました」

「ご両親も大変喜んでくださり、私も胸のつかえがおれました」

「おじい様っ!結婚前提って・・・何考えてるんですか!」

あきらには珍しく声を荒げる。

葵の方が驚きの為に言葉も失った様に開いた口を閉じることも忘れてしまってる様だ。

「ああ」

あきらの驚きなど問題ない様に祖父は無造作な返事を返す。

「まだ見合いもしてないのに?」

「お前、身辺整理は済んだと言ってたろう?」

「何か不都合でもあるのか?」

何も反論は聞かないという強い眼光。

この鋭さにたてつける程の要素を今のあきらは持っていない。

「そんな必要ありません」

「借金は私が返します」

「それに付き合いしてませんし、見合いも断りました」

あきらの態度に業を煮やしたように葵が顔をあからませながら反論を見せた。

「そうなのか?」

あきらを振り返りならつぶやく祖父の顔はやたらうれしそうに輝きを増している。

「振られました」

「お前を振るとは大したものだ」

鼻歌でも出てきそうなノリで祖父がニンマリと口角を上げる。

「8けたの借金はOLの給料では無理だと思いますが・・・」

「こいつも悪い奴じゃない、ためしにつきあうのも悪くないと思うのだが・・・」

「それだけで、借金を肩代わりしてもらう理由にはなりませんから」

意地でも付き合うもんかと気を吐く葵。

おッ!頑張れ!

側で祖父と葵の攻防を笑いをこらえながらあきらは見守っていた。

「このままじゃ今住んでるところもなくなる。それに最悪の場合は身を売るなんてことにもなりかねない」

それよりもうちの孫と付き合うだけでの方がましではないか?

どっちにする?みたいな究極の選択を提案されて葵は言葉を失った。

「あきら、お前会社の近くにマンション持ってたな?」

突然矛先を変える様に祖父があきらに視線を移す。

「寝に帰るだけの部屋ですが・・・」

「その部屋の管理を葵さんに頼んで管理費ということでどうだ」

めちゃくちゃな理屈。

マンションの管理費にしちゃ高いぞ。

「俺・・・その部屋を使ってるんですけど?」

「部屋は一つじゃあるまい」

「こ・・・困ります」

ギョッと凝視したままの葵の表情があきらに注がれる。

「心配しなくても無理やり女性を襲う様な事はこいつにはないでしょうから」

「悪さしないだろう」

「まぁ・・・」

「これで決まりだ」

「決まりッて・・・」

「「勝手に決めないでください」」

二人同時に重なる声。

祖父の笑い声が残る部屋に二人がポッンと残された。

続きは15で

この後の展開・・・

あっ・・・司とつくしはあの後どうなの?

その質問はこの次で~。

さあどうなるんだ♪

話の終末はまだ決まっていません。

みなさんのコメントで変わるいつものパタン。

今のところつくし以外はやだーの派とあきらにも幸せを~の派に別れて要望が舞い込んでいます。

どうなるんだろう(^_^;)

未知数だ

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このパタンで微妙な差ならどうなるのか・・・

拍手コメント返礼

しずか様

葵の性格はつくしよりだと書いてる私も思います。

しずか様は推進派ですね>

どうなるのか、同棲? ←「「 同居だ」」by あきら、葵

ぶーたん様

あきら君は世の中の女に子には平等に、つくしOnlyで~

否定派ですね。

司が暴れない程度で押さえないといけませんが(^_^;)

b-moka

うまくいった方が司的にはうれしいでしょうが(^_^;)

まだ先は決まっておりません。