下弦の月が浮かぶ夜18
*不機嫌がそのまま服を着て歩いてる。
そんな司を見たのは久しぶりだ。
「おい」と軽く片手を上げた俺をじろっと一瞥。
そのまま通り過ぎた。
あの状況の司を呼び止めるほどの心臓は運よく持ち合わせてはいないことに感謝。
どうせ牧野がらみのことだろうと苦笑しながら負のオーラ全開の後ろ姿を見送った。
・・・となると、考えられるのは一つ。
あきらの今度の相手がこの前俺達と一緒にいた女性だと噂されてることに起因しているとしか思いつかない。
司の耳に入るまで大きくなってるとは思わなかった。
ついでの様に立ち寄ったあきらの会社。
すんなり通される社長室。
「よっ」
軽く声をかけてあきらの目の前に立つ。
「総二郎、お前が来るなんて珍しいな」
「司ほどじゃないだろう」
ほほ笑みを残すあきらの顔からは司の不機嫌さがこいつに原因があるのかと疑いたくなった。
「お前も何か言いに来たのか?」
あきらの表情から笑顔が消えて真顔になる。
「付き合ってる女とすべて手を切ったって本当か?」
「よく知ってるな」
少し驚を作る表情にわざとらしく動いた。
「うちに集まるマダムの一人からの情報」
「新しいお前の相手が牧野だって噂もおもしれぇけど」
「おもしろいか・・・・・」
言葉とともに「ククッ」と失笑とも取れる声があきらの口元から小さく漏れる。
「結婚させられそうになって、牧野との噂をうまく使おうと思ったんだけどな、1日で司にばれた」
重ったるい感情を隠す様にわざと軽めの音階を付けて喋ってる。
「殴られたのか?」
さっきの司の様子じゃあきらに飛びかかってそうな雰囲気。
が・・・
あきらの容姿には少しの乱れも残ってはいない。
もちろん殴られた形跡もない。
「普通、そう思うよな」
「忠告だけして帰っていきやがった」
淋しげな影を作るあきらの横顔。
司のやつ大人になったもんだと、今までの俺らならあいつの成長を肴にしているところだ。
そんな雰囲気ならどんなに楽なのだろう。
うすうす分かっていた牧野を愛しげに見つめるあきらのまなざし。
俺ら4人にとっての牧野の存在は特別だ。
恋愛感情を呑み込んだ友情みたいなもん。
誰も司と牧野の間に割り込もうとは思っていない。
「あんまり落ち込んではいないんだな」
「もとから司から牧野をとろうとは思ってないし」
そんなもんだろうと力なくあきらが笑みを作る。
どれだけこいつはそう自分に言い聞かせてきたんだろう。
自分の気持ちを閉じ込めるのに一番労力を使ってるのを俺は知ってる。
損な性格だ。
俺らの中でお前が一番優しいよ。
気がついてないのは牧野と司だけだと思っていた。
司が気がついてるのは意外としか言いようがない。
来るべくとして来たと言うべきなのだろうか。
「みんな、らしくねえなぁ」
牧野との噂を否定しなかったあきら。
あきらのらしくねぇ行動が気になった俺。
あきらを殴らなかった司が一番らしくねぇ。
「一番変わったの司か・・・」
心の中のものを全部吐き出す様につぶやいた。
「これも全部牧野の影響だよな」
いい方向というよりもおもしろいというか予測が付かないと言うべきかその時間を楽しんでしまってる。
「そのうち類も顔出すんじゃねぇ?」
「類の場合は俺より牧野の方だろう」
すべて分かってるからこそ言い合える軽口。
「最近は司より牧野に振り回されてる様な気がしないか?」
「気がしないじゃないじゃなくて、振りまわされてるだろう」
見合わせてクスッと表情が緩む。
「気晴らしなら付き合うぞ」
あきらが返事をしようと口を開きかけたときに響くノックの音。
「あの・・・」
振り向いた俺の視線の先で凝視するまんまるに見開いた瞳。
「すいません、来客中だったらまた来ます」
バタンと勢いよく閉められるドア。
ドアにはさまれたスカートの裾。
ドアの向こう側から「ギャーッ」と上がる声。
スカートを引っ張る感覚が同時に伝わる。
焦った様にドアを閉めるやつを久しぶりに見た。
俺の後ろで軽快に聞こえる笑い声。
「誰?」
「今のとこ俺の婚約者つーか同居人」
「へっ?」
さすがに俺も驚きを隠せずに言葉が出てこない。
あきらを見つめたまんま視線が固まった。
総二郎に、類も登場させないと淋しいような気が・・・
このままどうなるのか(^_^;)
展開は未知数です。
拍手コメント返礼
なおピン様
今週3連休だと言うことをすっかり忘れていました。
いつもだと家を留守にするときにはお話を事前に準備しているのですが、今回はUP出来ないままでした。
ご心配ありがとうございます。
まだまだ花男ワールドにたっぷりつかりたいと思ってますのでお付き合いお願いしますね。