下弦の月が浮かぶ夜25

 *

「ねぇ?」

「なんだ」

気のない素振りの声。

未だにあいつの機嫌はまがったままだ。

初めは30度くらいだった傾きは120度ぐらいにそっぽを向いてしまってた。

「楽しくないの?」

立ち止まって道明寺の顔を見つめる。

道明寺の動きを止める様に腕を掴んだ手のひらは心なしか汗ばんでいる。

久しぶりに重なった二人の時間。

道明寺の部屋で詰まりそうになる息を吐き出すために渋る道明寺の腕を引っ張って街に出た。

「お前はまだあきらのこと考えてるだろう」

淋しそうな色合いが瞳に見えたのは一瞬のこと。

「全部頭の中を俺だけのことに出来たら楽しくなってやるよ」

いつもの道明寺らしさを取り戻してる。

普段から道明寺のことばかり考えて生きているわけじゃない。

「そんなの無理」

いつもならすぐに反抗的な言葉を投げてる場面。

今は言えるはずがない。

「あきらは女と一緒に暮らしてるんだろうが、お前の役目はもうないだろう」

「それはそうなんだけど、気になるんだよね」

皆の態度が釈然としないのは理屈じゃなく本能みたいなものが教えてる。

何か隠してるそんな気がした。

「お前まさか、あきらがうまくいって淋しいとか思ってんじゃないだろうな?」

少し慌てた様な・・・焦った様な・・・道明寺の顔が目の前に迫る。

この反応は花沢類のことを責めるときの感じに似てる。

未だに初恋が花沢類だったことに自分から触れて機嫌を悪くする道明寺。

「もしかして未だに類のこと好きなのか」と本気で責められる。

美作さんを好きだとか言ったことは一度もないはずなのになぜそんな態度を見せるのか不思議に思う。

この前まで付きあう女性の切れることのなかった美作さんに今さら彼女が出来たからって淋しいなんて感情を

思うはずはない。

女性のうわさがない花沢類なら別な感情が浮かぶかもしれないけど。

それでもきっと祝福しちゃうはずだ。

どうしちゃったの?

そんな思いで道明寺の顔をまじまじと眺めてしまってた。

「なにきょとんとした顔してんだ?」

「なんで?なんでそう考えるの?」

「なにが?」

「美作さんの見合いがうまくいって私がどうして淋しいと思うのよ」

重なる視線の先で気まずさを隠す様に道明寺の視線が私から外れた。

「俺がやきもち妬くのはいつものことだろうが」

話まで誤魔化す感じに道明寺が数歩足を進める。

それも私を置いていくような足取り。

「待ってぇ」

走る様に追いかける。

やっぱり道明寺もなにか変だ。

「何怒ってるの?」

追いついて道明寺のジャケットの裾を片手で握りしめる。

「怒ってねぇよ」

「怒ってるじゃん」

「だから怒ってねぇて言ってるだろうが」

振り返りもせず立ち止まった背中。

すべてを拒否してる様に冷たく感じて握りしめていたジャケットの裾を放してた。

振り返って見つめてくれたならここまで悲しくなるはずはない。

いつもみたいにケンカして、言い合って抱きしめて仲直りできる雰囲気なんて皆無だ。

道明寺といてこんなに淋しい思いにさせられたのは久しぶりだ。

「今の方が淋しいよ」

「あっ?」

ようやく道明寺の視線が私を捉えた。

「美作さんのことより道明寺の冷たさの方が淋しい」

涙を流さない様に必死でこらえる。

「まっ・・・待て」

近づいて両肩に置かれた手のひら。

振りほどきながら見上げた視線の先の道明寺は私を通り越して遠くを見つめてる。

どうみょうーーーーーじッーーーーー!

抱きしめられるのを期待したわけじゃない。

甘い言葉を期待してわけでもない。

慰められるつもりもない。

いつもの道明寺が側にいて欲しいだけだ。

いったいない考えてるんだぁぁぁぁぁぁぁ。

怒りが悲しみを追い越した。

「あきら・・・」

「へっ?」

「あきらが女に引っ張られて走ってるぞ」

道明寺の視線を追いかけた先で確かに道明寺の言う状況が繰り広げられている。

確かに珍しい・・・。

「行くぞ」

「行くって?あっ?」

「あきらを追いかけるに決まってんだろ」

道明寺に引っ張られる様に私は走り出す羽目になっていた。

つづきは26で

F3登場!

総ちゃん登場で葵に優しく接するあきら君の反応が見たい!などいろいろご意見がありましたが、

私の構想はこんな感じでした。

あ~でも上記のリクエストも捨てがたかった(^_^;)。

お話の枝分かれのパターンは今回はやめときます。