下弦の月が浮かぶ夜26
*私の恋愛歴なんて数えるほどない。
つーか道明寺一人。
けど・・・
ただ一つの恋愛が極上でハイクラスだってことはわかる。
障害も悲しみもドラマみたいにハードだったけど、今は幸せ。
思えるはずがない!
腕組みしたまま眉間にしわを寄せたままの道明寺。
どうみても美作さんにガンを飛ばしてる様にしか見えない。
なんの為に美作さんを呼び止めてまで一緒にいるのか分からなくなった。
「よっ」
道明寺に呼びとめられた美作さんは一瞬驚きの表情を見せる。
そのまま私に注がれた優しい視線。
それをさえぎる様に道明寺の背中が動いた。
「話せねえか?」
美作さんの横で口もきけないみたいに小さくなった女性にちらりと視線を送って威圧的に響く声。
道明寺の心の中では絶対服従しか認めてないことが手に取る様に分かる。
拒否できないことは美作さんも分かってるはずだ。
美作さんのため息が聞こえてきそうでごめんねと目で合図を送る。
目にとまった近くの店に四人で入る。
というより勝手にさっさと自分の歩調のままに先頭を切って歩いていったのは道明寺。
その後ろをゆっくりと美作さんが歩く。
美作さんの側にいた彼女と二人で顔を見合わせぎこちなく笑い合った。
「行きましょうか?」
どちらからともなく力ない声が漏れる。
二人で促しあいながら長身の男たちを追った。
目の前で注がれる熱い視線。
ざわつきに紛れる黄色い声。
周りから漏れだしている。
いつもの見慣れた反応。
彼女は慣れてないみたいで動きを忘れたみたいに立ち止まった。
「行きましょう」
「行っていいのかな?」
「このまま帰ります」
クッルと背を向ける様に方向転換した彼女の腕を逃がさない様にとっさに掴んだ。
「私一人じゃもたないから、お願いします」
悲鳴に似た心の叫び。
出来るなら私も帰りたい。
睨みあってる様な雰囲気の中に足を踏み入れるのは今でも勇気がいるものだ。
道明寺の不機嫌さがどこから来てるものか分かんないときはなおさら不安は大きくなる。
彼女を引っ張って連れて行くように丸テーブルを囲んで向かい合わせで座った。
「どうした?俺に何か用があるのか?」
口を開こうとしない道明寺に諦めた様な口調で美作さんが声をかける。
「用事がなきゃお前に会えないような関係だったか俺達」
「やぁ!とかきゃー!とか言う軽いノリで声をかけられた感じじゃないけどけな」
棘のある言い方も美作さんにしては珍しい。
とても話し合える雰囲気じゃない。
「牧野は会ったことあるよな。彼女は東條葵」
道明寺を無視するように美作さんが彼女を紹介する。
「こっちは一応俺の親友の道明寺司」
「牧野つくしです」
美作さんに紹介される前に名前を言ってぺこりと頭を下げた。
「美作さんをね、偶然見かけて・・・道明寺が急に追いかけてね・・・」
「デート中にごめんなさい」
目をつぶってシカッと頭を下げる。
「お前は喋んなッ」
突き落ちてくるような道明寺の声。
睨まれて黙り込むしかない。
今日の道明寺には無下に反抗できそうもない。
負のオーラーが強過ぎだ。
それでなくても今回の件では引け目を感じているのだからいつもの強気な態度が取れずにいる。
珍しく私は弱気だ。
「あんまり牧野につらくあたるな」
「お前に言われたくねぇよ」
一触即発!
この二人のケンカ腰は珍しい。
「もう、牧野は必要ねぇよな?」
しびれを切らした様に道明寺が美作さんの前に身を乗り出した。
「貸せって言っても無理だろう?」
そこにさっきの反抗的な色はなく・・・。
落ち着いた包む様な暖かさが含む色合いを見せる。
「当たり前だろう」
見合ったままクスとこぼれる柔らかい声。
へ?
空気が柔らかく一瞬で変わった。
なんだ?
「邪魔して悪かった」
椅子から立ち上がった道明寺。
「なに?どうしたの?」
「もう済んだ」
ぶっきらぼうな言い方だけどさっきとは全く違った優しい目になった。
「何が?」
機嫌の悪さはどこに行ったのだろうか?
「牧野、変なこと頼んで悪かった。もういいから」
にっこりとに笑みを向ける美作さんもいつもの穏やかさを取り戻してる。
やっぱり・・・
今日の道明寺は訳がわからない。
美作さんも・・・。
きょとんとなったまま二人を交互に眺めてしまってた。
拍手コメント返礼
りん様
つかつくオンリ―の方もいらっしゃるので読まれてない方多いんですよ。
お話の中にはところどころつかつくも登場しますので楽しめると思います♪