下弦の月が浮かぶ夜27
*「・・・なんだったの?」
きょとんとしてたのはどうやら牧野だけじゃなかったらしい。
「台風みたいだよな?」
「えっ?」
「慌ただしくやってきて全部さらって行ってしまった」
「なに?」
ますます分からないって困惑気味の表情が浮かぶ。
その表情に今は癒されている。
執ようにいろいろ聞かれては辟易する場面。
気になるが深くは興味がない見たいな素振りは新鮮だ。
「さっきの人って、この前、社長が一緒に食事してた人ですよね?」
会社以外で社長と呼ばれるのはどうも抵抗がある。
俺を社長と呼びながら口調が丁寧になるところもだ。
「その社長って止めてくれないかな?」
「気に障りますか?」
「普通に接してもらった方がありがたい」
「・・・」
「美作さん?」
小首をかしげて小さく口元が動く。
牧野に呼ばれた気分になった。
牧野の場合こんなに遠慮がちには発音しないだろうけど。
「牧野は司の彼女。牧野が大学を卒業したら結婚する予定だよ」
このくらいの説明なら台本を読んでるみたいにスラッと出てくる。
それは自分に言い聞かせてるみたいに聞こえる。
これで心に二重三重に蓋をしてしているみたいなものかもしれない。
それにご丁寧に司が鍵をかけていったそんな気分だ。
「好きなの?」
返事が出来ないままに葵の顔を見いってしまった。
「ただ、何となくそう思っただけだから」
ごめんとでもいう様な消え入りそうな声。
「もし、好きだったらどう思う?」
反射的に浮かぶ笑顔。
「どう思うって聞かれても・・・」
考え込むように葵がうつむく。
「辛いかなって思って・・・」
意を決したように俺を見上げる瞳。
優しげな光を宿したまま見つめられた。
「同情されるとは思わなかったな」
おどける様に取り繕う。
本当は葵から同情されてるとは感じてない。
それでも素直に頷くことはできない感情。
「俺・・・そっちの趣味はないんだけど」
「そっちって・・・」
「司のことスキって聞かれてもなぁ~」
「普通誰が男との関係を聞くのよッ」
葵が勢いよく立ちあがった瞬間に「ガタン」と大きく音を立てて倒れる椅子。
「すいません」
視線を投げる周りの客に慌てて頭を下げて椅子を元にもどした。
「ククッ」
喉元を声が鳴らす。
「俺より自分のこと心配する方が先だろう?」
「時間もあんまりないしな」
「行こう」
葵の腕をとったまま店を出た。
あいつらがいるはずのない路上を眺めて立ち止まる。
「ありがとな」
前を向いたまま呟く。
「えっ?」
背中越しに感じる葵の戸惑い。
それが・・・
無性に心地良く感じてしまってた。
拍手コメント返礼
hokuto☆raou様
このお話はあきらが絡むとやはり切ない感じから逃れられない様で、それは類も一緒かな?
you're my best friend's girlも切ないですもんね。
いい男二人をこんなに切なくさせる自覚はつくしにはないだろうな・・・。
RICO様
お久しぶりです。
来ていただいているのが分かるコメントはすごくうれしいです。
葵と美作さんの今後はどう絡むのか!?
どこまで書けるのかと言うところでしょうか?
葵とつくしが似てこないようにしないとなんて考えていますが似たような臭いがして苦労しております。