Fools Rush In 2
*「冗談が本当になっちゃいました」
道明寺本社ビル10階の法律事務所。
玲子さんと顔を突き合わせてつぶやいた。
気持ちいい朝に澄み渡る青空。
眺める時間の余裕もなく事務所に飛び込んで朝の挨拶を簡単に交わす。
職場復帰約1カ月すぎの月曜日の朝の玲子さんとの会話が妊娠の報告。
「おめでとう」
喜んでくれたのは言うまでもない。
「つくしちゃん手元に置いときたくて二人目すぐできちゃうんじゃない」
そう冗談交じりに玲子さんにからかわれたのはその前の週末。
育児休暇を3年とるつもりでいた気持ちが揺らいだのは司のせいだ。
ここ数カ月はお茶会にパーティーにどこかのチャリティだと司の名代の役割が重くのしかかっていた。
愛想笑いに囲まれるより悪口言われてた時のほうが気が楽だと感じる重圧。
失敗は司、いや道明寺の名に傷がつくと緊張しまくりだ。
これなら職場復帰の方がましと説得に取り掛かる。
「駿とも過ごせない」
「職場での方が時々司とも会える機会があったよね」
「疲れが取れなくて・・・すぐ眠たくなる。司の相手もできなくてごめんね」
すまなそうな顔を作って「弁護士の仕事に復帰してもいいかな」って切り出した。
仕事を持っているという逃げ道で私の道明寺司の妻としての役割は減少傾向になるはずだとの打算的考え。
『司の相手』が効いた様に緩んだ顔で「しょうがねぇ」と許可が下りた。
だからかッ!?
弁護士としての職場に復帰してすぐ妊娠発覚。
このやりとりだけは誰にもばらせない。
これじゃ、あわてて職場復帰しなくても良かった話だ。
妊娠で名代の仕事はできなくなったはずだから。
「駿君の時も弁護士になって就職して1カ月くらいの頃じゃなかったけ?」
玲子さんの声に何とか意識を今に戻した。
「そうなんですよね~」
しみじみと相槌を打ちそうになった私の前にニンマリ気味の甲斐さんと目が合った。
「なに、ニヤついてるんですかぁ」
照れを隠す様に言葉尻を強める。
「速攻つーか、やることに隙がないって言うか・・・。俺も見習うかな」
「子供の前に結婚でしょう」
「玲子さんに結婚の二文字をちらつかせてもらいたくないですよ。俺よりそっちの方が切実でしょう」
「それセクハラだって気がついてる」
腕組みの仁王立ち状態の玲子さんは威嚇十分だ。
「このくらいで訴えられたら俺に対するセクハラじゃ実刑確実ですね玲子さんの場合」
「最近へこたれなくなったよね」
「最大級の威圧感に威嚇は代表で慣れてますからね。玲子さんくらいじゃなぁ~」
甲斐さんは腰に手を当てて胸を張り今にも笑い声を上げそうだ。
「今度も代表ここに入り浸ると思う?」
「執務室の隣につくしちゃん専用の部屋作りそうな勢いだったもんな」
「二人目だから少しは慣れたんじゃない?」
「本社から外出するたびにここにきてつくしちゃんのお腹をなでですごい幸せそうな顔を見せてくれてたもんね」
「俺らなんて眼中にないって世界だったよな」
聞いていて恥ずかしくなる。
「もう、いいですから」
駿がお腹にいた頃を思い出して真っ赤になって両耳をふさぐ。
「ほほえましくてこっちまで幸せのおすそ分けって感じだったんだけど」
「俺達だけのベストショットいくつも見れたもんな」
「「別人の代表」」
二人の声がそろってにっこりほほ笑む。
「また昼休みは社員食堂でかいがいしくつくしちゃんの世話を焼く代表が見れるかな?」
「わ~見たいかも~」
「させません!」
恥ずかしさに泣きそうな声で叫んでしまってた。