甲斐君のつぶやき 6 (抱きしめあえる夜だから)

甲斐君目線のお話の第6段!

以前自分がなにを書いたかすっかり忘れているので『100万回のキス』を読み返しながらの作業です。

司と公平の対決は公平自身からどう語れるのか?

本来なら、何も知りませんと寡黙にさせたいところですが、そこはやっぱり、語ってもらわないと面白くない!

そんなところでしょうか。

あと1話ほどお話は続きます。

 *

「休憩時間終わりましたよ」

身を乗り出した俺は自分の体を持て余す。

「あっ・・・おっ・・・」

腕時計を確認しながら、席を立つ松岡を見送った。

その横に並んで歩く玲子さん。

「続き聞かせてよね」

しっかり催促を忘れてない。

「俺がいるとこでお願いします」

慌てて声を投げかける。

ここに来て最近自分を見失っている様な気がする。

俺の評価は出来る男!だったはずだ。

今から仕事って・・・

出来るかッ。

そんな気分で二人の後をしっかりと追いかけた。

「大学時代つくしは拉致されるっ~て良く騒いでました」

「拉致?」

「嫌がるつくしを道明寺さんが無理やり車に乗せる構図」

恒例みたいな、じゃれ合いみたいなパフォーマンスで真面目に受け取るとバカを見るのは自分だと学生は知っていたと玲子に説明してるのを耳を大にして聞いてる俺。

「私なら喜んで拉致されるけど」

玲子さんなら拉致しようとするツワモノはいないと思います。

外見から判断したら痛い目に遭うタイプ。

絶対自分じゃ米つぶくらいも思ってないはずだ。

「修習時代も道明寺さんがつくしを迎えに来たことがあって周りからは羨望の眼差しで見られてたな」

「あの時も女性陣に俺は周りを取り囲まれていろいろ聞かれ記憶があります」

「さすがにつくしもあのときは拉致される~なんて叫んでませんでしたけどね」

「その時かな、俺が初めて道明寺さんと口をきいたの」

そう言って悪戯っぽい笑いを口元に浮かべた松岡が俺を振りかえった。

それは、事務所の前にたどり着いた時で、いかにも今日はここまでって様相だ。

すっかり、松岡に主導権を取られてしまってる。

このままの状況じゃ、年上の面目もなくなりそうだ。

「仕事が終わったら付き合うよな」

「今日ってことですか?」

松岡!完ぺきにスッとぼけているだろうッ。

「もちろん、先輩のおごりですよね」

当たり前のようにほほえむ松岡。

憎めない表情を浮かべるこいつの顔はいい男の分類にはいる。

つくしちゃんの回りっていい性格のやつ集まりすぎだ。

人間がいいっていうか、出来ているっていうか・・・。

嫌味がない押しの強さ。

俺もその中に入っていると思いたい。

「甲斐がおごってくれるの?」

「玲子さんまで調子に乗らないでくださいよ」

スラックスのポケットから二つ折りの財布を取り出し、札の枚数を慌てて数えた。

俺って素直だよな。