Fools Rush In 3

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職場復帰したばかりのつくし。

妊娠を告げられたのが二人っきりの時じゃなかったのを差し引いても喜びは顔に出てしまう。

「育児休暇を取ったまんまにしておけばよかった」

恥ずかしいなんてつぶやきながらも最高に優しい笑顔を浮かべたつくし。

「駿もお兄ちゃんだよ」

言われた駿はきょとんとした表情を浮かべるだけだった。

まだ分かんねえよな。

「西田、家族が増えるぞ」

執務室の椅子に腰をおろしてデスクの前に立つ西田。

「今日の予定は・・・」と言いかけた西田の声が途中で止まった。

「おめでとうございます」

そして予定を確認する様に手元の書類に視線を落とす西田。

俺に移した視線は1秒もない。

「お前、嬉しくないのか」

飛び上がれとまでは言わないがまったく感動が伝わらない。

「うれしですよ」

それよりも仕事が先ですとでも言いたげな感情が顔に浮かぶ。

俺の不満げな表情に小さく洩らすため息。

「再現するつもりですか?」

「再現て何を?」

「つくし様が初めてのご懐妊の時、どれだけあちらの事務所にご訪問されていたか・・・」

読み上げましょうかとスーツの内ポケットから取り出す手帳。

あれには俺が喜ぶことは記載されてない気がする。

今度はそこまではしねぇよ。

たぶん・・・。

「駿で慣れてるから大丈夫だ」

「そうだといいのですが」

口の中でつぶやく声もしっかり唇の動きで読みとれた。

「今日は1日中こちらで仕事になっていますから、ウロウロする時間はありませんよ」

俺を落ち着きなく動き回る冬眠から覚めたクマみたいな言い方すんな。

今は妊娠くらいじゃおたおたはしない。

出産になったらわかんねぇけど。

まだ半年以上先の話だ。

「昼は会食を入れるなよ」

昼くらいつくしと一緒に食事する時間があればいい。

朝は一緒に出勤して昼の短時間で何もないと様子を確認して、夜は一緒に眠る。

充実した時間が過ごせるはずだ。

「その顔で、執務室から出られませんように」

「はぁ?」

西田に指摘されて思わず頬に手のひらを当てる。

「そんなにまずいか?」

「緩みきった表情は私どもよりつくし様が恥ずかしいかと・・・」

頬に触れていた手のひらで頬を持ち上げた。

あほらしい。

そのまま手のひらを頬から滑り落とす。

突然俺に背中を向ける様な体勢を西田がとる。

両肩が微妙に揺れている。

笑われた。