watcher 2
*「珍しい取り合わせだな」
その最先端は道明寺司!君だと俺は思う。
自然と大衆向けの飲み屋になじんでたはずの俺とつくし。
今はここだけが異様に浮いている。
「洗面所に行ってくる」
我慢できない様につくしがガタンと席を立った。
俺も・・・
同伴したいが無理だよなぁ。
酔った方が勝ちという気分でビールをのどに流し込む。
「久しぶりに話が弾みましたよ」
「・・・そうか」
返答までのわずかな無言に心の余裕みたいなものを感じ取る。
道明寺がおもむろにサングラスを取ってカウンターのテーブルの上にカタッと置いた。
「相変わらずこんなの好きだよな」
皿の上に置かれたつくしの喰いかけの串を口に運んで食べる道明寺。
意外にもおいしそうな表情を浮かべる。
「ありがとうございます」
「お前に礼を言われるようなことをした記憶はないけど」
俺の正面に向けられた意外そうな顔。
「つくしが弁護士をやってることですよ」
「お前に礼を言われることでもないだろう」
苦笑気味に動く口元。
「結婚したつくしが変わっていたら恨みごとの一つも言ってやろうと思ってたんですけど」
一つ空いた席の空間がいい距離を保っている感じだ。
「ますます綺麗になったとか言うなよ。それは俺だけの特権だから」
臆面なくこんな言葉をさらりと口にするのは相変わらずだ。
それを本人が聞いたらきっと真っ赤になって声を上げるに違いない。
まだつくしは帰って来ないよなと洗面所の方へと視線を走らせる。
戻って来そうもなかった。
少しづつ活気を取り戻す店内。
気にしてないと言う様に無理に視線を外す客に何となく同情してる。
「褒める様な事は何も言ってませんから」
冗談にも言えやしない。
変わってないと言うのが今の俺にとっては精いっぱいの褒め言葉だ。
「あいつもいろいろ無理してるから」
淋しさの中にフッと漂う労りのある温かみの声。
以前は押し付け気味に見えた感情。
今は温かく包むおおらかな愛へと変わったんだなと感じた。
昔も今も・・・
勝てそうもない。
元からとって代われるなんて思ってもいない相手だ。
「思ったより仲いいね」
道明寺と同時に振りむいた視線の先ににっこりと浮かぶ笑顔。
「まあなッ」
俺より先に道明寺がつぶやいた。
3人でいたのは短時間。
あんまりここにいられそうもないと店に遠慮がちにつくしが席を立つ。
「俺は構わないけど」
「私が落ち着かないの」
道明寺に立つように催促するつくし。
今にも旦那のケツを叩き出しそうなつくしの態度。
思わず笑い声を上げそうになる。
「公平、悪い。また今度連絡する」
「俺の前で他の男と約束するな」
先にアルコールが回ったのは俺より道明寺の様だ。
「安心した」
つぶやいた俺を不思議そうに首をつくしが横に傾けて見つめる。
「またな」
言いながら小さく笑い声が口元から洩れた。
公平に見送られて車道に止まってる車に乗り込む。
軽く手を振ったまま車は静かに夜の街の中へ走りだした。
「今日はごめんね」
「あぁ」
けだるそうな返事のまま完全に不機嫌な顔でそっぽを向かれた。
車の窓から見えるのは流れる様なライトの明かり。
不安にさせられる気持ちもそのまま流されていく。
このままなくなってくれるとは期待はできそうもない。
「楽しかったんじゃないのかな?」
必死に作った笑いは少しわざとらしかったか?
「楽しいのはお前だけだろう」
どこでどう機嫌を曲げる結果を招いたのか?
低音の声は完全にへそを曲げている。
公平とそれなりに会話していたと思えたのは私の勝手な思い込みだったのだろうか。
修習時代の一発触発の睨みあいみたいな短気な性格は最近影を潜めたと思っていた。
最近は私が男性と話しても私の横でにこやかに笑みを浮かべて聞いてる態度を見せる。
時には「相手をお願いします」なんて言いおいて私の側を離れることもある。
だから私が公平といてもすんなりおとなしく横に座ったんだと思っていた。
・・・だけど、何かが違う。
「たくっ、類とあいつは気に食わねぇ」
は?
ここで花沢類の名前と同等に語られてるって公平のことだろうか?
花沢類のことは私の初恋だし、花沢類が私を好きだったことも司は知っている。
花沢類に見せる嫉妬は未だに健在だと思われる節もある。
だから花沢類と会うときは未だに私なりの気の使い方を心がけている。
「公平のことは1度も好きだとか恋愛対象に思ったことはないんだけど」
私に向き直った司の目が異様な光を放つ。
鋭さにビクッと筋肉が動いた。
さっきの発言って・・・
考えなおせば昔の私の初恋を司に連想させる発言だった。
機嫌が直るはずがないと気がついても今さら遅い。
「お前が信頼しきって頼るとしたら類とあの松岡だろう」
二人を並べられるとそこには結構な違いがあると思う。
公平にはドキッとなったりしないし・・・。
って、言ったらまた勘違いされるよ。
目の前に遭遇するつり上がり気味の眉。
目が・・・座ってる・・・。
誰だッ!こんなに飲ませたのッ。
「少し飲み過ぎたんじゃないのかな?」
「悪いか」
「・・・別に悪くはないけど」
酔っぱらってるよ。
「お前が頼っていいのは俺だけだ」
「くっ・・苦しい・・・・・」
骨が折れるかと思うくらいに抱きしめられた。
「冷静に見せるの苦労する」
「おとなしくしてるのストレスなんだからな」
力の緩んだ腕が今度は私を優しく抱きしめる。
根本的なものはやっぱり昔から変わってないんだよねとうれしくなる気持ちも確かにある。
抱き返す様にそっと両手を背中に回した。
「なっ・・・何やってんのよ」
離れたと思った指先は私のシャツのボタンまで伸びてきて外しにかかってる。
「脱げっ」
脱げって・・・。
ここはまだ車の中だぁぁぁぁぁぁ。
「部屋に着くまで待って」
飛びかかって押し倒されて顔をぺろぺろとなめてくる犬に「マテ、お座り、伏せ」の躾できなかった飼い主の後悔の心境。
お願いだから言うこと聞いてッ
そんな気分になった。