下弦の月が浮かぶ夜35

*

「そんな態度取られるとな」

両腕で葵の華奢な肩を壁に押し付ける様に押した。

司みたいに120%の力を発揮する様な野暮はしない。

目をつぶった葵が「キャッ」と驚きの声を小さく上げる。

珍しく強引な感情。

何となく司の気持ちがわかる。

自分の予測した通りの反応を示さない女なんて初めてだ。

だから気になるのか・・・。

気にいったのか・・・。

そこにはまだ恋愛には満たない心の動きがわずかにある。

「俺に関係ないって態度を取るなら、このまま腕組んで社内を歩いてもいいぞ?」

「なっ・・・」

驚く表情のまま言葉が出てこない感じに口だけがパクパク動いてる。

「何考えてるのよ」

キッと俺を見上げるきつい視線。

女を怒らせて喜んでいるって今までの俺なら考えられない。

司と牧野の影響か?

「何笑ってるのよ」

「だから、用ってなに?」

笑みを浮かべたまま柔らかい感情を乗せた声が喉から洩れた。

これで落ちない女はいなかった。

・・・の、はずが・・・。

俺の目の前で壁と俺の腕の間のわずかな隙間から這い出ようと頭を隙間に入れ込んでモガク女が一人。

出れねぇよ。

「何やってるんだ」

「ここから出たい」

葵の頭は俺の脇に挟まれたまんま動きが取れずにモガク。

子供でも諦める状態。

「出てどうする?」

「逃げる」

「俺が追いかけるって言ったら?」

ようやく観念して元の壁に後頭部を張り付けた葵は乱れた息を整える様に呼吸を繰り返す。

まるで俺がこいつの髪を乱して呼吸を荒げる様な事してたと錯覚されそうな状況が出来上がってた。

今ここに誰か来たらそれだけでオフィスラブに脚色された噂が飛び交いそうだ。

「追いついたら見物人の前でそのまま抱きしめてやるよ」

何事かって視線を集める状況を作ることは間違いない。

ブサイク芸人の言い訳は通じないぞ。

俺を見上げた葵が困惑したように顔をしかめる。

「・・・仕事できなくなる」

しょうがないと観念したようにおとなしくなった。

「大事な話があるからって父親から連絡があったの。あなたのおじい様も来るみたいなんだけど・・・」

「どうして俺のじいさんが出てくるんだ」

「知らないわよ」

今回の俺と葵の見合いの首謀者。

俺に関係ないわけないよな?

何企んでる?

あの爺さんの考えが読めるはずない。

影のドンと言われて数十年。

人を何人殺したかわかない様な鋭い目。

あのくらいなきゃ今の地位なんてもてないと思わせる凄み。

自分の祖父じゃなきゃ付き合いたくない相手だ。

「俺もついていくからなッ」

「えーーーっ!」

叫んだ口元を慌てて手のひらで覆う。

「バカ、こんなとこで大声あげたら何かあったかと誰か飛んでくるぞ」

俺の手のひらの中でもごもごと動いてた口が静かになってコクンと頷く。

「ガチャン」

「どうした!?」

突然開いた部屋のドア。

見たことのある様な数名の顔がならぶ。

「・・・社長っ・・・に・・・東條君?」

女子社員の腰を抱いたまま片手で口元を覆っている状態の俺。

同意のもと抱きついてる様には見えないよな?

ばたっと力が抜けた様に葵に口元から落ちた俺の手のひら。

葵は茫然と身動きできずに一瞬で凍った。

驚愕の表情のまま背中を向けた社員。

葵の部署の部長にさっきのブサイク芸人の話題を共有してた女子社員が数名。

そのままバタンと閉められるドア。

閉められたドアの向こうから悲鳴じみた女性の声が上がってた。

「悲鳴を上げるなら私の方だよね」

放心状態気味に聞こえる力のない声。

「つーか、お前見捨てられたぞ」

「そんな問題じゃないでしょう」

殴られそうな勢いで迫る葵の顔が目の前にあった。

うっ・・・

この話先が見えないくなってきてる予感が・・・。

私はこの二人をどうするつもりなんだろう。

今のところ遊んでいます。(^_^;)

なんだか最近あきらが司に同化してる様な気がしてるのは気のせいかな?

拍手コメント返礼

b-moka

司&つくしに振り回されてるあきら君がどう変化するのか?

そんなところでしょうか(^_^;)