watcher 3

*

その機会は思ったより早めにやってきた。

テーブルに肘をついて雑誌をめくっているつくしを見つけたのは偶然の再会から3日目の午後。

都内ホテル1階の喫茶店。

「失礼」

少し気取った言い回しでつくしの正面の席に座る。

「あっ・・・誰かと思った」

「邪魔じゃないよな?」

「そんなわけないでしょう」

俺を見上げた目が笑った。

「誰かと待ち合わせか?」

すぐにやって来たウェーターにコーヒーを注文する。

「・・・の予定だったんだけど振られたみたい」

腕時計を眺めて30分は過ぎたとつくしはため息をつく。

「依頼人か?」

「友達というか知り合いなんだけどね」

「俺の知ってるやつ?」

「卒業してからの友達だから」

友達にしては会いたくなさそうな感情がつくしの表情に浮かびあがっている。

「気乗りしないんだけど・・・」

嫌なことでも頼まれると断れない損な性格だと言うことは知っている。

「相変わらずだな」

「なに、それ?」

「断りたかったけど断れなかったってことだろう?」

「悪かったわね」小さくつぶやいて膨らむ頬。

どうみても子持ちには見えないあどけなさを残す。

学生でも十分通じそうだ。

運ばれてきたコーヒーに口をつけながら笑いそうになった口元を隠した。

「ごめん、遅くなって」

茶髪のパーマネントの長い髪は肩を覆う。

つけまつげに覆われた瞳。

瞬きするたびにパサパサと音を立てそうだ。

ミニのスカートに派手目な柄の服装。

コギャル・・・そんなイメージが浮かぶ。

どこで知り合った?

そんな視線をつくしに向けた。

「この人かっこいい」

俺を見て真っ先に出た言葉。

好みじゃない子に言われてもうれしくもない。

「つくしちゃんの彼氏?」

言った彼女はつくしの横に座って値踏みをするような視線を俺に向ける。

つくしが結婚してるとか、道明寺財閥の奥さまなんてことは全く知らない態度。

そんなに深い知り合いじゃないらしい。

それでも乗り気じゃないこと引き受ける羽目になるつくしって・・・。

人がいいにもほどがある。

「お前・・・こんな子につくしちゃんって呼ばれてるの?」

背を伸ばして小声でつくしに確かめた。

「悪気はないから」

苦笑気味につくしがつぶやく。

「彼氏じゃないから」

「同じ弁護士仲間ってところかな」

「もしかして、私の為に?」

うれしそうに派手なメークの顔が輝く。

「そう言うんじゃないんだけど・・・」

言いかけたつくしの口の動きが止まった。

「キャー、やった!ありがとう」

立ちあがってつくしの手を握ってぶんぶん上下させている。

人の話全然聞いてねぇ。

自分の都合のいい様に解釈するタイプだ。

「俺はまだ何も知らないんだけど」

聞いても聞かなくてもこのままの状態じゃ俺の選択肢は一つしかない。

「公平、ごめん」

目の前で手のひらを合わせて拝まれた。

久しぶりに会えた再会の喜び。

つくしと接点持つたびに大きくなるのはそれだけじゃなく、ややこしさも増強してないか?

「何すればいいの?」

乗りかかった船を沈ませない様に進めてやるよ。

今度はつくしが満点の頬笑みを浮かべた。

その顔には・・・

俺も弱い。