下弦の月が浮かぶ夜40
*「葵、久しぶり、元気だった?」
廊下で数日ぶりに会った元部署の同僚。
以前と変わらず・・・。
いや・・・。
以前より親しいと言うか気さくな反応・・・。
どうした?
社長との関係をどう誤魔化すか考えがつかなくて逃げていた状況。
「元気だった・・・けど」
戸惑ったまま返事を返す。
社長とのあの状況をなにも聞かれないことにホッとするんじゃなくて、無視されてる様な感覚が不安だとは思いもよらなかった。
「ごめんね。変な噂立てちゃって」
変?
あれ変なの?
噂はカタチを変えて私が社長を押し倒したことになっている。
確かに迷惑だった。
『だった』って・・・過去形だよね?
いまは迷惑じゃないとか思ってる?
いや、そんなはずはない。
迷惑だ。
さっきも社長から『おふぃ~すらぶ』とか冗談を言われた。
大丈夫か私。
「あーでも、社長カッコ良かったよね」
「私たちますます社長のファンになっちゃった」
みんなの目が・・・ハートになっている。
「葵、社長にあの部屋で偶然一緒になってびっくりして声を上げたんでしょう」
「社長も驚いてそれを止めようとしただけなんだって?」
「社長がねわざわざ総務部に来たんだよ。『下手な噂で影響を受けるのは僕より彼女だろうから、目撃した君たちには実際の説明をする必要があると思った』なんて、ほほ笑まれたらねぇ~」
3人が心ここにあらずの表情で視線を宙に向ける。
「葵、社長のおじい様と知り合いなんだって?」
知り合いと言えば知り合いだけど・・・。
もっとも関係あるの私のおばあ様なわけで・・・。
こんな説明は今は必要ない。
「葵は年寄りにはもてるからなぁ」
社長じゃなく私の知り合いがおじい様ならいいのか?
変なところで納得してる同僚。
私たちが葵を守るなんて手をガシッと三方向から握られた。
「あ・・・ありがとう」
困惑気味のまま同僚と別れて最上階の社長室へと急ぐ。
いいのかな・・・。
でも私の知らないところであの人が私の為に動いてくれてると言うのは少し感動した。
秒刻みのスケジュールを管理してる身としてはそれを抜けて総務室まで行ったってどのくらい大変か知ってる。
いいとこあるじゃん。
見直した。
これだからモテるのかもな。
浮かんだ気持ちに口元がやさしくほほ笑む気分だ。
秘書室を通りすぎて社長室のドアをノック中に一之瀬さんになにか言いたそうな視線を向けられた。
「失礼します」
気にとめながらもドアノブを回す。
「あっ」後ろから聞こえる一之瀬さんの声。
振り返ると気まずそうな顔がそこにあった。
不思議に思いながら開けたドアを閉めることもできず自分の進むべき方向に視線を向ける。
目に飛び込んできた光景に思わず目を見開いた。
社長の首に巻きつくように両手を絡めつける長身の女性?
どうみても女性。
洗練されたしなやかな美人。
それも映画のワンシーンみたいな甘い雰囲気。
社長がさっき私に試すかと言っていた『おふぃすらぶ』が繰り広げられてる。
「失礼しました」
慌てて部屋を出ていきドアを閉める。
思わず閉めたドアに背中を押しつけて倒れそうになる気持ちを持ちこたえた。
「来客中だったんだけど・・・間に合わなかったわね」
一之瀬さんの気まずいままの顔が目の前で力なく笑顔を作る。
「気にしなくても大丈夫だから」
「気にしてません」
頬が強張ってくるのが自分でも解かる。
あのヤローーーッ!
見直して損した。
「東條さんそれ重要書類じゃないの?」
手の中でぼろ雑巾みたいに絞られるA4サイズの用紙。
「えっ!あっ!すいません!」
一之瀬さんの声にデスクの上で書類を伸ばす。
元に戻るはずはなかった。
このお話も40話まできました。
最初の設定と違う方向にぐんぐんと向かっています。
どうしたいのか自分でも分からなくなりそう(^_^;)
ここであきらにちょっかい出す美女の投入。
こんなことしたらますますややこしくなるのにな・・・。
やっぱり『おふぃすらぶ』か~
拍手コメント返礼
b-moka様
ややこしくすると抜けだせなりそうで(^_^;)
つくしちゃんじゃあんまり嫉妬する場面がなさそうなので葵ちゃんにたっぷり♪