LOVE AND PEACE 2

*

「あーーーーーッ」

声を上げた時には遅かった。

「ガン!バタッ!」

二つに折れた状態で携帯は床に転がって息が止まった。

「静かになったな」

目の前の顔は何にもなかったようにじっと一点を見つめている。

「静かにって・・・誰からの電話だったの?」

「気にするな」

「気にするなって・・・」

ゆっくりと迫る唇を手のひらで押し返した。

「なにする!」

自分の行動を否定されて怒の感情がこもる声。

道明寺の不満は慣れている。

さっきまでの甘えたい気分は携帯の壊れた音で冷めてしまっていた。

「聞こえない?」

「なにが?」

「ほら、やっぱり聞こえる」

微かに聞こえてくるのは私の方の携帯の着信音。

道明寺の身体の下から這い出す匍匐(ほふく)前進。

「でるな」

そんな訳にはいかないとソファーの上に置いたカバンまでジャンプするように歩く。

「携帯を壊した意味がねぇーーーッ」

携帯に出た私の後ろで厭味ったらしいわめき声が上がった。

携帯を耳にあてたままベッドの上に胡坐をかいている道明寺の元に戻った。

「さっきの携帯、西田さんだったんだ」

「その携帯の相手西田か?」

渋い顔で道明寺が舌打。

「投げないでよね」

つながったままの携帯を道明寺に渡した。

携帯を切った道明寺は完全に不満そうな色を浮かべている。

「会社に行かないといけなくなったぞ」

私のせいだと言いたげな態度。

「しょうがないでしょう。仕事なんだから」

仕事が忙しいのは私のせいではない。

「やっと出来たと思った自由時間だったんだぞ」

「でもなんで、お前と一緒にいること西田知ってんだ?」

道明寺が考え込むように右手の指で形のいいあごのラインをなでる。

「坊ちゃんが電話に出ない状態とか、出てもぶっきらぼうな返事しかしないときはつくし様が側にいる時でしょうからって、西田さん申し訳なさそうに言っていたけど」

申し訳ありませんがと冒頭から聞こえてきた西田さんから私への携帯電話。

この言葉から始まる時は道明寺への連絡事項だと分かる。

「あんまり西田さんに迷惑掛けると禿げるよ」

「あの七、三分けの剛毛は禿る心配ないだろう」

禿げたらおもしれーかもなんてククと道明寺が声を漏らす。

「お前、今日は総二郎のところだろう?」

時々催される西門邸でのお茶会。

最近は月一の割合で参加をさせられている。

場を踏むのも大切だし、上流階級とのつながり出来る。

「将来の道明寺財閥の若奥様としては必要だろう」と、なぜだか西門さんに義務付けられた。

「タマ先輩に着付けしてもらっていく予定だけど」

「自分で着物着られる様になったって言ってなかったか?」

「着付け出来ることはできるんだけど、タマ先輩の着せてもらった方が綺麗だし着ていて楽なのよね」

まだまだ、正式の場所に自分の着付けで行くのは不安が残る。

それに道明寺から贈られた着物は全部道明寺の屋敷の方に預けてある。

わが家の洋服ダンスに着物は似合わないし、着る機会もない。

着物が必要なのは道明寺のお母様から言われている作法の講義の時だけでそれも道明寺邸が教室だ。

おとといは生花だったんだよなぁ。

思いだしたら正座の足の痺れが再生してきそうだ。

「なぁ・・・」

「なに?」

「俺が帰ってくるまで着物を着とけよ?」

「なんで?」

終わったらすぐに脱いで楽になりたい。

まだあんまり着物を着ることには慣れていない。

「たまには違ったシュチエーションもいいだろう」

「お預けくらったそのお詫び」

一人でご機嫌な顔を作っている。

えっ?あっ!うっ・・・。

成人式の時みたいなことを考えている顔だ。

お代官様~ッて、帯をシュルシュルって道明寺はニンマリしてたんだよッ。

「今日は泊まれないからね」

この状況じゃそれは無理なのは分かっていても口から飛び出す否定形。

「アッ!」

すごみのある顔が目の前1cmに迫っていた。

お代官様~シュルシュル♪

バカなこと書いてたお話は『大人になるために 』です。

つくしの成人式のお話として書いた短編。

おまけのおまけまで書いて結果は・・・?

司のご希望は叶ったのかは・・・微妙なお話でした。