LOVE AND PEACE 3

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西門邸の日本庭園の一角に建つ茶室。

畳に埋め込まれた炉に乗せてる釜からは白い蒸気がゆるゆると上がる。

茶器の中で茶筅が動いて茶をたてる。

茶はその規則的な手の動きの中できめ細かな泡を生み翡翠色に輝く。

師匠によって点てられたお茶はスーと品のある作法の仕草の中で私の前にと置かれた。

つややかな黒色の色を持つ天目茶碗。

落として割ったらどうなるのか考えるのも怖い代物が並ぶ。

「本物を使うのも修行だぞ」

眉目秀麗でほほ笑まれたら優紀じゃないけどその気になってがんばれるものだと思う。

茶会が終わっても今日のダメ出しを行うために西門さんの指示を仰ぐ日々。

いつになったら解放されるのか?

本当に解放される日が来るのかと怪しく思う日々が続く。

「今日、元気なかったな?司となにかあったか?」

茶器を口まで運んだ手の動きが敏感に反応して止まってしまった。

やっぱりなと言いたげな西門さん。

言いたくないのにどうしてこう表情に出るのか、単純さに自分でもあきれる。

「着物を着たまんま俺を待ってろ」

ニンマリした顔でそう言われたなんて口が裂けても言えるものじゃない。

道明寺の屋敷についたころには西門さんから美作さんに伝わる情報網。

次に会った時にはからかわれる材料の一つになってる危険性がある。

「今日は帰る」

叫んだところで壁に押し付けられて唇を塞がれた。

自由を奪う様に頭の上に持ち上げられて強く握られた手首は今もわずかな赤みをおびている。

本当に手加減を知らない奴だ。

「無断で帰ったら、その倍の相手させるからな」

強引な力で押さえつけられてるのに唇の愛撫と肌に触れる指先はいつもに増してやさしく私に触れる。

それで頷くしかなくなった。

満足げに軽快な足音を立ててご機嫌に出て行く道明寺を見送ったのは5時間前。

帯をシュルシュルって本気でやるつもりだろうか・・・。

成人式の日に本気で抵抗したらビリっと袖が破けてその耳元で「数千万するぞ」と聞こえた西門さんの声。

あれで動けなくなった。

この着物の値段も考えたら即座に脱いで箪笥の奥に片づけたい。

必要以上の緊張が着物と一緒に私を包む。

坊ちゃんの遊びに付き合える気力は値段の高価さの前に消沈している。

もし破いたら・・・汚したら・・・

その意味は道明寺には理解できないだろうし・・・。

トラウマになってる気がする。

タマ先輩に相談したら・・・

ここは着物を脱がせたいみたいでなんて言葉を濁してタマ先輩に説明した。

お代官様~♪と時代劇のパターンをやりたいなんて恥ずかしい事を言える訳がない。

「裸体でベットで坊ちゃん待ってれば我慢できずにすぐに抱きついてくるはずだ。それ一番簡単」って・・・

それは絶対無理だーーーーーーッ。

「牧野・・・一人で蒼くなった赤くなったりすげーおもしろいぞ」

西門さんの声に茶器の中の緑の液体をグッと喉の奥に流し込んだ。

ブハーと息をつきそうな勢い。

しまった!

作法もなにもあったもんじゃない。

「減点一なっ」

「西門さんが変なこと言うからでしょう」

茶器を畳の上に置いて茶道の作法を進める。

今さら遅いと言いたげな西門さんの視線。

「牧野が勝手に自分で思いだして顔色変えてただけだろう」

茶器を自分のもとに戻しつつ西門さんがつぶやく。

「冷静さを保つのも修行だからな」

真顔の西門さんが、我慢できねェと呟いてブハハハと遠慮ない笑い声を上げた。