ごめん それでも愛してる 3

*

仕事は順調に進み予定の時間より早めに終わった。

「話しがあるの、時間を作ってもらえないかしら」

今さら何の話があるのか・・・

思いがけない遥の言葉に唇の端を持ち上げる。

俺にしては珍しい尊大な笑み。

「仕事の話しは済みましたけど」

もう用はないはずだ。そんな想いをこめて呟く。

「仕事の話しじゃないのは分かってるでしょう」

俺の目をじっと見つめて遥はゆっくりと口を開く。

「キライで別れた訳じゃないから」

遥は俺から見ても十分に美人で華やいでいる。

その場の男たちの視線を集める存在感も群を抜く。

が・・・。

俺の心が揺れることはない。

俺に近づこうとする遥の動きを片手を前に出して止めた。

「振ったのはあなただ」

自分でこんな冷たい声が出るとは思わなかった。

昔の関係に戻ることはないと全身で拒否する。

「今、あなたの周りには女性はいないって聞いたんだけど」

「整理しただけですよ」

爺様の命令でやったことだが、今は感謝したい。

「私、諦め悪い方なの」

俺の胸元に添わせるように置かれた長い指。

息の触れる位置に近づく顔。

真っ赤に塗られてルージュは艶かしく輝く。

彼女が背伸びをするように踵を上げた。

触れた唇は冷たくて、なんの感情も感じなかった。

「それじゃ」

なにもなかったようににっこりとほほ笑んで彼女は部屋を出て行く。

この仕事が終わるまでは彼女との接点は続く。

だかそれまでの関係。

ニ度と唇が触れ合うことはないはずだ。

苦笑気味に笑みが浮かんだ。

この後の予定はなにも入ってない。

ホテルに戻ってゆっくりとした時間が持てるはずだ。

葵の機嫌は直ってるだろうか?

普段なら女性の喜ぶようなプレゼントを準備して、洒落たレストランで食事。

それで機嫌が直ってる様なタイプじゃない。

すぐにさっきのキスの相手のことなんて忘れてしまってた。

執務室を出て秘書室のデスクでキーを打つ葵の側に歩み寄る。

「なにやってる?」

「報告書を作ってるだけです」

「もう終わりますから」

俺を見上がる様に葵が頭を上げた。

そのまま凝視するようにじーっと見つめる。

キーを打つ指の動きも完全に止まった。

「どうかしたか?」

葵が自分のバックの中から取り出した小さなミラー

俺の問いには返事もせず素早い動作で俺の手にミラーを押し付けられた。

「ついてます」

低音気味に響く声はそのままの葵の不機嫌さを表現している。

ミラーの中に映し出された俺の唇。

赤いルージュの色が遥の唇の形のまま残っていた。

親指ですぐにルージュをふき取るために強く擦る。

「俺からした訳じゃないからな」

「でも・・・したんでしょう」

「されたんだ。不可抗力」

「最低ッ」

デスクにたたきつけるように置かれた葵の手のひらが大きな音を立てる。

俺を睨みつけたまま部屋を出て行こうとする葵。

その腕をつかむ様に思わず俺は手を伸ばす。

「イッ」

思ったより強く握りすぎたのか葵は眉間にしわを寄せている。

「放して」

「誤解するなよ。遥・・・赤西とは何でもないから」

「・・・遥って、呼び捨てなのに?」

背中にツーッと冷たい汗が流れる感覚。

こんな時はどうすんだ?

条件反射みたいにつかんだ葵の手首を自分の方に引き寄せるように動かした。

「パーン!」

俺の片方の頬が大きく音を立てる。

叩いた葵の頬に一筋の涙が流れてるのが見えた。

大きく上下する胸。

上がる息を整えるように葵がフーと息を吐く。

一連の流れが俺の胸を締め付ける様だ。

「失礼します」

振り向きもされずにそのまま部屋を出ていく葵。

「テッ・・・」

自分の手のひらでそっと頬に触れる。

俺の頬よりも痛いのはあいつの心。

それを感じる俺の心も結構痛い。

ゴメン・・・

葵の残像を追いかけて心の中で呟いた。

あいつどこに行った?

デスクに置かれたままの葵のバック。

これじゃどこにも行けないよな。

ここに戻ってくるしかないはずだ。

それが唯一の望みに思えて天井を仰いでフーとため息をついていた。

拍手コメント返礼

さくら様

二人を応援してますのコメントがいただけるのがなによりうれしいです。

この話自体私にとっては挑戦みたいなものですからね。

あきらがつくし以外はヤダとの感想もいただきましたが、やつぱりF3にも幸せになってもらいたいもので(^_^;)

このまま暖かく二人の応援のよろしくお願いします。