君じゃなきゃダメなんだ 7
このお話は7話になりますが、考えれば長く書いてます。
あきら&葵のお話。
『下弦の月が浮かぶ夜』の連載を始めたのは今年の2月。
終んないですね。
今年中には終わるのかしら・・・(^_^;)
*ほっそりとした足首。
5センチの高さの靴に収まってる。
しっとりとしたパールの色合いのヒール。
コツコツと響くヒールの音。
心なしか緊張気味に聞こえる。
数歩歩幅を広げて葵を追い抜いた。
「今日は夜は明けといてくれ」
すれ違いざまにかけた声。
「親に会わせるから」
「わかっ・・・えっ?」
カクッと規則的な音が一瞬ずれて調整するように音が数歩分不規則に変わる。
つまずいた?
「クッ」
葵の心の動揺が手に取るようにわかる。
少し緩んだ口元を隠すように右手で作った拳を唇に当てた。
「そこまで動揺するか?」
背中に葵の気配を感じながら振り向く。
「いきなりでしょう!」
少し怒った表情。
拗ねてるような口元とは対照的な甘えてる瞳に映ってる俺の笑顔。
「仕事を終わんなくするかも」
不服そうに作る表情も本心じゃないと知っている。
葵はそんなことができる性格じゃない。
詰め込んだ仕事も夜の時間を空白にするために必死で調整してくれるはずだから。
真面目だもんなぁ。
それでいて不器用。
自分の都合のいいように仕事を調整するなんて無理がある。
葵!
君に俺が困るように動くことができる芸当はない!
今週はたいして忙しくないことは俺も把握済みだ。
うまい具合に俺の家族がそろう今日。
こんなことは珍しいんだぞ。
海外を飛び回ってるはずの親父も家にいるんだから。
親父が家にいるとおふくろも妹たちも機嫌がいいんだ。
この機会を逃がす手はない。
それにこの日を逃したらいつ家族に紹介できるかわからなくなる。
俺以上に忙しい親父を掴めるのは難しいのだ。
どこかで親父をあてにしてる自分が何となくおかしい。
しょうがない。
あの3人を相手にするには一人ではエネルギーが必要以上にいるのだから。
「早く葵を俺の家族に紹介したい」
葵と並ぶように歩幅を合わせて耳元で呟いた。
自分でも驚く甘えた声。
きっと今まで誰にも聞かせたことがない。
言ってる自分が照れくさくなる。
ごまかすように・・・
大げさに・・・
大きな動作で・・・
華奢な身体を引き寄せるように右手を腰に回した。
ピクンと緊張するように跳ねる身体。
そろそろ慣れろと言いたくなる。
強がる心がそう胸の奥でつぶやいてる。
俺の横で感じる葵のぬくもりが無性に居心地良くさせる。
それを離したくなくてしがみついてるのは自分自身。
慣れるのは俺の方かもしれない。
胸元で交差するように置かれた両腕。
その腕は仕事の書類の入った4Aサイズの封筒を大事そうに抱きかかえている。
前からやってきた社員が俺たちに気がついて頭を下げる。
葵は社員が通り過ぎるまでキュッと身体を強張らせたまま。
そして通り過ぎた後にふわ~と力が抜ける。
これで3回目。
それでも俺の腕を振り払りはらおうとしない葵の態度は俺を喜ばせてる。
エントランスを抜けて見あげた視線の先に広がる青空。
果てしなく続く空がある限りすべてが俺と葵をつなげてる様な気がした。
目の前に止まった車のドアを運転手が開く。
先に葵に乗り込む様に促した。
でも・・・
声もなく動く口元。
今までのように助手席に葵を乗せるつもりはない。
腰に置いていた腕を前に動かしながらその流れのなかで二人で車の後部席に乗り込んだ。
「秘書だって扱うつもりはないから」
葵が俺の顔を覗き込む様に首を左に回した。
「仕事中は秘書だから」
腰に回したままの俺の腕を気にするように葵の腕が動いた。
葵の指先が俺の指先を自分の腰から剥がすように動く。
触れ合っていた体は俺から数センチ離れてしまった。
車の密室の中。
誰の視線も受けない状態。
今さら離れる必要なないように思えるんだが・・・
・・・
無言のまま言葉を交わさないまま車は会社を離れていく。
俺が見つめた葵は見る間に頬を染めて俯いた。
もしかして・・・
今まで俺が葵の腰を抱いていたこと・・・
緊張して気がつかなかっただけか?
「ブッ!」
「どうして笑うの」
「いや、ごめん、俺はどうやら得したみたいだ」
そしてまた口元から笑う声が漏れる。
今日1日俺は楽しく仕事ができそうだ。