ソラノカナタ 8
『ホントにびっくりした。
いきなり爆竹みたいな音。
拳銃の発砲の音って説明されても日本じゃテレビの中でしか聞いたこともないし分からないわよね。
流石アメリカだね』
『お前は呑気でいいな』
道明寺のバカにしたような表情が優しく変わる。
『怪我がなくて良かった』
『お前に何かあったらって思ったら心臓がもたねぇ』
すぐに抱きしめられた道明寺の腕の中。
道明寺の香りを感じながら道明寺の声だけがリアルに私を包む。
そのままもっと感じたくて道明寺の胸元まで伸ばした腕。
頬に触れた髪は・・・
さらさらで・・・
柔らかくて・・・
いつもと違う手触り。
髪も少し短めで・・・
確認するように指先で触れる髪。
指が髪の中に巻き込まれてそして髪質のままに指に絡みついてくるはず・・・
絡みついてこないけど?
道明寺・・・ストレートにした?
クルクルじゃない道明寺のヘアースタイルは想像できないつーの。
「こいつなに考えるんだ!今日はじめて会った相手の肩を枕に寝たと思ったら抱きついて来たぞ」
「殿下、変わりましょうか?」
「起きられたらそれはそれでうるさそうだから、このままでいい」
道明寺の声と違う!?
私はエレベーターの中で閉じ込められていたはずだ。
それも道明寺の大事な仕事の取引の相手の王子様とそのお付きの男性。
ハンサムだったよなぁ。
じゃない!
夢の中から引きずり出されて現実はまだエレベーターの中だった。
まだ道明寺とは離れ離れのままで・・・。
さっきまで私のそばにいた道明寺は幻で夢!
こんな状況で夢まで見てるって、どこまで私は緊張がなくなってたんだッ!
私の抱きついた相手は優しいタイプのジェームズさんじゃないもう片方みたいだし・・・。
頭をずらそうと持ち上げかけた空間にする~と王子の手のひらが落ちないようにカバーする。
やっぱりこの人の根本は優しいみたいだ。
感心してる場合じゃない。
起きてるのバレタラそれはそれでどう取り繕う?
このまま目を覚ますのは怖い気がした。
寝たふりで少しづつ離れた方が笑ってごまかせそうだ。
そろりと腕から力を抜いて抱きついた身体から放す。
今はこれが精一杯。
「あっ、動いたぞ」
えっ?ばれた?
重力が動く感覚はエレベーターだ。
動いたのはわたしじゃなくエレベーターの方か。
ホッとしてる時ではない。
待ちに待ったはずの瞬間もタイミング悪すぎだ。
あと数分後で動いてくれたら目を覚まして「すいません」て言える気持ちまで持って行けるのにッ。
ガシッと目をつぶリ直して王子からすぐに離れたい気持を抑え込んだ。
残りは王子の肩に乗せた頭だけ。
なんでこんな時に寝ちゃったのか。
後悔しても後の祭りだ。
薄目を開けて覗いて見たら止まったエレベータのドアはスローモーションの様に開く。
「Isn't there any injury? 」
怪我はないかと聞かれた声は道明寺じゃなくてホッとした。
この状態を見られたら機嫌が悪くなるのはわかってる。
どこで目を開ける?
見られている視線にタイミングを外してしまってる。
もう寝たふりは限界だと私に教えてる。
数名はいそうな視線を感じてる。
どうかまだ道明寺は駆け付けていませんようにと願う私の矛盾した気持ち。
本当は真っ先に飛びつきたいんだからネッ。
言い訳を聞いてくれるかな?
頸をまっすぐに戻して瞼を開ける。
最初に絡んだ視線は射るように痛い。
「どうみょうじ・・・」
一番見られたくない相手が目の前で・・・
冷めた表情はますます冷たくて・・・
見据えられてすくんで動けない。
ごめん寝ちゃった!
夢の中の道明寺はすごく優しかったんだけど・・・
なんて軽い言葉では対処できないような雰囲気。
「この馬鹿!」
「なにやってる!」
怒鳴って強引にエレベーター引きずり出されるのを覚悟して目を閉じた。
が・・・。
スーツと冷たくなったのは私の両側。
触れるか触れないかの距離で感じた体温のぬくもりは立ち上がった拍子に私の素肌に冷たい風を送り込む。
男性二人が私を見下ろして立っていた。
「さぁ」
ジェームズさんから差し伸べられた手を取ることができるわけがない。
「大丈夫です」
立ち上がって足を1歩踏み出したその先で道明寺がクルッと背中をわたしに向けた。
えっ・・・
大きな不安はそのまま私の体温を直下で下げていく。
あんなに冷酷に拒否されたの初めて・・・
じゃない・・・
記憶の底辺で一度だけ。
高校時代にフランスから傷心で帰国した花沢類に抱きすくめられて慰めるように抱いていた私の腕。
道明寺がわたしに一度だけ見せた悲痛さと冷酷さが入れ混じった表情。
あの時も一瞬動けなくて・・・
戸惑いを生んだのを覚えてる。
「違うから」
声は喉に張り付いたまま言葉にならない。
走り出そうとして慣れてないパンプス脚を取られてよろけそうになる。
そのままパンプスを脱いで手に持って素足で道明寺を追いかけた。
長い直線の廊下で見失った道明寺の背中。
やみくもに追いかける私の腕がつかまれて左に曲がる廊下の方に引き込まれる。
「どう・・・みょうじ?」
「どこ行くつもりだ」
握られた手首に感じる道明寺の掌の熱さ。
冷たい視線は私の手首にかかる物理的痛みを麻痺させていく。
「どこって、道明寺を追いかけていた決まってるッ」
いきなり塞がれる唇。
強引に・・・
乱暴に・・・
口内に侵入する舌さき。
逃さないって言ってるみたいに絡みつく舌。
息をするのもダメだと虐げられてるみたいに飲み込まれる。
「誰にでも懐くんじゃねぇよ」
唇は触れ合ったままに道明寺の唇は苦々しげにそうつぶやいた。
拍手コメント返礼
なおピン様
とりあえず今のところは何事もなく?ってところでしょうか(^_^;)
これで終わるはずはない!
お手柔らかにいつもしてるつもりの私です(笑)
ゆげ様
寝ぼけて司と間違うのは基本中の基本。
バレバレですよね。
ここで襲われたら大変だし(^_^;)
司がカッコよく助けるのは無理。
となれば落ち着くのはここしかありません!← 言い切ってます。
3角関係?それとも4角どうなるんでしょう~。