思い出は夢の中で (西田さんの観察日記番外編 )
たくさんの投票ありがとうございました。
結果は以下の通りでした。
つかつくの高校生カップルのお話 111票
西田さん&F3のお話 131票
まずは過去の西田さんサイドのお話から~。
*木の陰で気配を隠す公園の午後。
スーツ姿の自分はなんとなく場違いな気がした。
目の前を通りかかった犬が不思議そうに立ち止まって私を見ている。
坊ちゃんが彼女と向き合ってる間、私はこの犬と向き合って視線を交わす。
「キュ~ン」
小さく鳴いた犬が逃げるように飼い主のリードを引っ張って走り出した。
邪魔なものを排除出来るのは坊ちゃんだけじゃなかったらしい。
背中に感じる目の前のベンチ。
そのベンチに座る若い男女のカップル。
砂利道を挟んだ向こう側に未来の坊ちゃんがベンチに腰を掛ける。
それも彼女と二人でにこやかな微笑み。
熱く見つめ返す視線。
未来から坊ちゃんが来た場所は確定済み。
耳元から聞こえるイヤホンからの声。
「本当に、ここでこうしてるだけでいいの?」
「西田がここにいろって言ったんだから、しょうがねぇだろう」
ベンチの裏に仕掛けた盗聴器は感度良好。
盗聴というのは心外ですが、これはけして興味本位ではありませんからお許しいただきたい。
予想外の出来事に対処するための最小限の手配。
なるべく他人が公園に侵入しないようにあと数秒で閉鎖する予定です。
秒針が12の数字に近づくのを確かめる腕時計。
カチッと重なったところで右手を上げて送る合図。
今から邪魔者が入り込んでくることはありません。
邪魔なのは若者の二人だけ。
なんとなく坊ちゃんの視線がそのカップルに向いてる気配。
坊ちゃんの座るベンチの位置から慌てて身体を屈めて、斜め45度の位置へと配置を変える。
これで私の姿は坊ちゃんの視野からははずれたはずだ。
「俺たち・・・高校の頃はあんなイチャイチャしてなかったよな?」
「へっ?」
坊ちゃんが女性とイチャイチャどころか半径1メートル以内に近づける女性は、椿様と楓様しか見たことございません。
イチャイチャがどんなことか?
どんな意味かわかっているのか・・・。
別なところで心配がよぎる。
イチャイチャ。
ベタベタ。
坊ちゃんには似合うとは思えません。
「お前もだろ!」
私の心の中を見られたら、坊ちゃんにそういわれそうな気もします。
「俺さ、高校でお前を見つけるとドキッとしてた」
「どう接していいかわかってなくて、バカやってた気はするけど」
照れくさそうに染まる頬。
優しく緩む表情筋。
純粋な少年さを残す口元。
今、私が仕える坊ちゃんにはない温かな感情。
横柄さも傲慢さも冷酷さも全てが影をひそめる。
緩やかな感情の温かい流れを感じてる。
殺伐とした荒れ気味の坊ちゃんの報告が減ってきてる事実。
彼女と出会って少しづつ変化が起きてると感じずにはいられない。
5年の歳月がどれだけ坊ちゃんを、人間らしく変えていくのだろう。
このお二人を見られるのなら、なんとなく、楽しいかもしれないとそう思えた。
「牧野つくし」
その名前に顔をしかめたのは楓様。
本当にこの二人をお認めになるのか?
それが今は一番の疑問。
未来からの情報は、二人の幸せな時間を想像するには十分で疑う余地はない。
どんな物語があるのか聞くことができなかったのが、心残りと言えなくもない。
「今でも覚えてるよ。道明寺がクマみたいに机の周りをぐるぐる回って突然デートに誘ったセリフ」
「お前、俺を数時間も待たせっぱなしにしたよな?」
「なんでそこだけ覚えてるのッ」
「俺を待たせるのはお前くらいのもんだろう。ほかの奴なら待てねぇし、1秒でも遅れたらぶんなぐる」
坊ちゃんにズケズケという物言い。
乱暴な物言いの中にも感じる愛情。
聞いている私も二人の言い合いを楽しげな気分で聞いている。
「俺は、今からもお前にはいろいろ待たされるんだろうな」
「えっ?そんなに待たせてることある?」
「自覚ねぇやつ」
「一番待ってやってるのが結婚だろうがぁ」
「大学卒業してからって言うのは一般的でしょう!」
「学生結婚してるやつらもいるぞ」
「道明寺の嫁になるのは大変なんだから、大学の4年間でも足らないくらいなんだからね」
大学に進学する頃には楓様はお二人を認めてるってことになるのだろうか。
彼女が道明寺の嫁として認めてもらうには、ずいぶんと高いハードルが用意されてるような気がした。
「人目あるから!」
「見せつけてやればいいじゃん」
「恥ずかしッ」
「昨日は人目のある店の中で抱きついていたのは誰だッ」
「あのねっ、いい加減その話はわすれたら!」
「まだ、お前から抱きつかれてねぇーし」
「昨日、それ以上のことしてるでしょッ!」
思わず吹き出しそうになった。
遠慮ない掛け合い。
コロコロと変わる彼女の表情。
司様の感情を遠慮なく引きだして坊ちゃんの不機嫌さも楽しんでる。
こんなことができる女性がいるとは思わなかった。
「あっ!バカ!急に立ち上がるな」
「えっ!キャーーーっ」
少しとぼけた空気が一瞬でざわつく。
ドテッと音を立てて裏返しとなるベンチ。
目の前に4本の足がばたついたのが見えてたはずなのに、ベンチの4本の足だけが残った。
消えた・・・。
その場所に駆け付けてあたりを見回す。
運よく誰一人としていない広い公園。
今は私しかいない。
見上げた空の太陽は西に傾きかけている。
その光を遮るようにゆらゆらと天から舞い降りてくる白い影。
羽根の様に軽く左右に揺れて私の手のひらに落ちた。
印字された黒い数字の文字。
20××・・・。
それは今日から5年後の日付。
16時20分の時間まで印字されている。
これはきっと未来にお二人が帰った日を私に知らせる神のお告げ。
将来お二人の行方が分からなくなったとき、私はこの日付の間の予定をうまく調整すればいい。
なんと運がいいのか。
この日付は絶対忘れません。
念のため手帳に書き込む日付。
そして二つに折ってレシートを手帳に挟んだ。
この日付の時間の前後でお二人をお待ちしております。
未来の私はもうお二人に会えたでしょうか?
それだけが・・・
少しの不安。
拍手コメント返礼
美優様
卵が先か鶏が先か!
どっちでも♪
>サイボーグの着ぐるみ付けた西田様のお助けアイテムNO1のお方になるなんて~~~~
最強のお助けアイテムですよね。
最後に残すんじゃなく最初から使うアイテムつくし♪
なおピン様
盗聴まがいの西田さん。
会話を聞いたらなおさらそう思ったりして~。
バレタラ大変ですよ~。
未来の西田さん編もしっかりとご用意しております。