FIGHT!! 32
番外編からお話を本筋に戻します。
番外編もまだまだ楽しめそうなんですけどね(笑)
*のどかな初夏の昼下がり。
道明寺本社ビルを向かいに眺める喫茶店の窓際に席を取る。
きょろきょろと私を探す阿賀野さんが私を見つけて軽く会釈した。
「すいません」
どちらからともなく頭を下げる。
「ここって道明寺ホールーディングスのビルの前だったんですね」
「職場はこのお近く?」
にっこりと落ち着いた微笑を阿賀野さんが浮かべてる。
「あのビルの中なんです」
ここまでくれば気が付くはずだと緊張が走る私は視線で道明寺本社ビルを示した。
「同じ名字だと得なことってあります?」
無邪気過ぎる疑問を浮かべた表情が私を見つめる。
「えっ・・・」
この人この状況でも道明寺つくしと道明寺ホールーディングスは結びつかないらしい。
特価の買い物に夢中な姿を印象付けたのが悪かったのかもしれないけど、どこまで鈍感なんだろう。
そりゃぁね大学まで培われてきた価値観はすぐには変わりません。
日本有数のセレブって肩書は私には合わないし合わせられるはずもない質素な生活。
私自身は未だに牧野つくしの貧乏状況を脱却してない。
司がいればそれに合わせていいるけどあの価値観は未だに拒否反応が出る。
でもねッ!英徳で道明寺って言えば駿しかいないのにッ!
もうこのことで悩むのはやめよう。
「ところで私に相談ってなんですか?」
「そのことなんですけど・・・」
無邪気な表情が曇って言いにくそうに小さくなる声。
「私・・・離婚されるかもしれません」
切羽詰まった顔でテーブルの上に置いていた腕をガシッとつかまれた。
離婚したいじゃなくて、離婚されるって・・・
浮気を見つかったパターンか?
阿賀野さんはそんなことができる雰囲気じゃないんだけど・・・。
「いきなり離婚って何が原因なんですか?」
「これを見てください」
テーブルの上に置かれた数冊の雑誌。
表紙を飾る純白にドレスに包まれてこやかな笑みを浮かべるモデル。
ハネムーンの文字の横の写真は白い砂浜に透き通る海。
結婚情報誌だ。
私ってこんな情報誌を見て結婚式に胸をときめかせた経験ってなかったよな・・・。
いきなり結婚式だったし・・・
私が口出すことって出来ずに勝手に司が進めていた感じがする。
パラパラそれをめくって溜息が出た。
「つくしさん・・・もしかして結婚式を挙げてらっしゃらないの?」
「えっ?挙げましたけど・・・」
「どちらで?」
「式場じゃなかったんですけどね・・・」
恵比寿ガーデンプレイスでF4がプロデュースしてくれた贅沢な結婚式。
「友達が神父をしてくれてその前で誓ったんですよね」
花沢類の前で結婚を誓いあった。
司が私の薬指に指輪をはめた瞬間は今でも覚えてる。
照れくさくってうれしくってこれ以上の幸せな瞬間はないと思えた。
恵比寿ガーデンプレイスは司と私の思いが重なり合った神聖な思い出の場所。
家族が増えて年齢を重ねてもあそこに帰れば思い出す確かな愛の記憶。
幸せだよねっていつも思える。
「ちゃんとした式が挙げられなかったんですね」
うっすらと涙を浮かべる阿賀野さん。
えーと・・・
私の説明だと一般的な結婚式とは確かに違う。
でも式は挙げたって説明したぞ。
それでもたぶん、阿賀野さんの頭の中の私たち夫婦は結婚式も挙げられなかった貧乏な夫婦になっているはず。
これじゃどんどん道明寺から遠ざかる。
だから息子は英徳に行ってるんだってば!
「ごめんなさい、それなのにこんな雑誌をお見せして・・・」
阿賀野さんは雑誌をそのまますぐに紙袋の中にしまい込む。
訂正する気も起きない。
めまいが起きそうな錯覚に思わず頭を押さえて肘をテーブルに付いた。
「あの・・・その雑誌がどうして離婚されるになるんですか?」
阿賀野さんの勘違いはそのままにため息交じりに声を出す。
「この雑誌が主人の書斎にあったんですよ!」
だからその雑誌がなんで離婚につながるのかが私には理解できない。
確かにこの手の雑誌は女性が購入する場合が多いだろうとは思う。
司が持っていたとしたら仕事の資料としか思えない。
読んでる姿は見たくないかも。
「きっと主人は私と別れて誰か別な人と結婚するつもりなんだわ」
バックから取り出したハンカチを目元に当てながら阿賀野さんは涙声になった。
雑誌を見つけただけでそこまで悩んで騒ぐもの?
「これ、なに」ってご主人に聞けば済むことじゃないのかな。
もらったとか?
拾った?
それはないと思うけど単純な理由で終るって気がする。
いまだに私のことを勘違いしっぱなしの阿賀野さんの思考回路は常人と違うから離婚されるって発想?
そんな発想誰もしないと思うけど。
もしも私が結婚情報誌を見ていてそれに司が気が付いたとしたら・・・
「何のつもりだ」
うっ・・・
司なら俺と別れるつもりかなんて不機嫌に追及してきそうな気がする。
コッチの方が阿賀野さんの離婚より現実味があると思うぞ。
「つくしちゃん、ここで何やってるの?」
玲子さん・・・。
偶然に私を見つけてくれた玲子さんが天使に見える。
「私の職場の先輩なんです」
阿賀野さんに説明する私に付け足す様に玲子さんが自分の名刺を差し出した。
名刺を受けとる阿賀野さんに「いいかしら」と断りを入れて空いていた私の隣の椅子に玲子さんは腰を降ろす。
「修羅場じゃないわよね・・・」
「もしかして代表に一方的に言い寄ってる相手がつくしちゃんに別れてって直談判してるかと思ったんだけど」
耳もとでこそっと玲子さんがつぶやく。
「そんなことあるわけないじゃないですか」
非難する私の視線に「冗談よ」と軽く玲子さんは微笑みを浮かべた。
拍手コメント返礼
b-moka様
阿賀野さんの相談事子供のことにする?とか迷ったんですけどね。
天然なカン違いはこれかなって(笑)
ここに加川さんをねじ込んだら収拾がつかなくなりそうな感じもします。
なおピン様
おはようございます。
今日もお仕事かな?
この鈍感さが事件の予感。
ここに司が加わったらどうなるんだろう・・・。