不機嫌なFACE 17

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「気に食わないに決まってるだろう!」

そのままムスッとなって黙り込んだ横顔。

他の男を褒めたって言ったって、芸能人じゃない。

好きな俳優に、歌手、気軽に好きって言える相手。

恋愛出来る次元の好きじゃない。

・・・って、司に通じるはずがないのは分かっているのに失敗した。

黙り込まれるより怒鳴られてた方がましだ。

何を言っても「あッ」

不機嫌な錘が乗っかった返事しか返ってこない。

そっちがその気なら!

こっちだって無視してやる!

機嫌なんて取らないからね。

そっぽを向いたままの不機嫌なFACE が左右の車窓の中に映し出されていた。

あっ・・・。

ドアが開いた瞬間に輝く光。

その一瞬でざわめきが羨望のため息に変わる。

足を踏み入れた一瞬でその場の視線を一気にさらうカリスマ性。

その後ろで戸惑いがごくりと唾を鳴らした。

「気後れするな」

これは気後れというよりはこの状況にどう反応するのか迷っている。

いつもの事なんだけど・・・。

場数を踏んだつもりでも司の隣に立つ私にちらりと向けられた「だれ?」っていう視線はイタイ。

男性より女性の方が確実に鋭い。

会社関連の方がまだマシ。

私の存在は十分に浸透しているから、嫌みたらしい視線はずいぶん減少した。

「行くぞ」

するりと腰に回された腕。

その仕草に好奇の目が注がれてるのが分かる。

さっきまで怒っていたはずの司が私を気にかけてくれるのだから私も大人気なかったって気持ちになる。

「今日はわざわざお忙しいところをありがとうございます」

顔なじみじゃない人にまわりを取り囲まれるのはいつものこと。

クライアントとしても絶大で今回はCM出演者。

司がメインなのは間違いない。

頭を下げた中年男性に耳打ちしてちらりと私を見たのは私も面識がある道明寺ホールディングス広報部社員。

きっと私のことを知らせたのだろう「奥様まで来ていただけて!!!」感嘆符数個はついているような大げさな喜びの声を上げられた。

「こいつの世話は頼む」

その社員に言い残して私のそばを離れる司。

「待って!」

「食べものならいっぱいあるから心配するな」

誰が食べものを心配してるか!

いつまでも食べ物で釣られると思わないでよね。

横柄に遠ざかる背中。

その姿はそのまま人ごみの中に隠れる。

あっ・・・一緒に共演していた女性。

すらりと伸びた長い脚。

ボディラインを強調するワンピース。

長い薄い茶色がかった髪の毛はつややかにカールして肩を覆う。

実物はテレビの中より綺麗。

微笑みを浮かべる彼女に笑みを浮かべた司がちらりと私に視線を移す。

遠目でも目立つ容姿。

圧倒的な存在感は相変わらず。

少し片唇を上にあげてフッと漏らすように動いた口元。

「どうだっ」とでもいう様に、あれは確実に私を皮肉ってる。

絶対的に仕返しだっ。

いまさら妬かないつーの。

思い切り舌を出して見せた。

「何か食べますか?」

気を使う様に世話をやこうとする私を押し付けられた広報部社員の高野さん。

手に持っていたグラスを一つ私に渡してくれた。

きっと私の相手をするのはいい迷惑だと思う。

あんまり私に近付くと司が不機嫌になるって知ってる社員にとって私は扱いやすい相手ではないからだ。

グラスを渡す指先が触れただけじろりと鋭い視線。

機嫌が悪ければこれだけでアウト。

さっきも必要以上に気を使って渡されたグラスは私が受け取った途端に彼の指先は速攻で私から離れて行った。

0.1秒速ければグラスは床に落ちていきそうな絶妙の間。

危ない物が触れたような緊張感を漂わせる相手に私の方も緊張する。

私本人じゃなく道明寺代表を気にしてるのが分かるから気の毒でしょうがない。

「私の事は気にしなくていいですから、仕事で来てるんですよね?」

「僕は今回は代表の世話をする予定ですので、奥様の世話も仕事のうちですから」

「世話をしてもらうこともないと・・・」 

少し遅れて現れた西田さんを見つけてホッとしてる。

高野さんより気心の知れたというより司と無難に対応できる西田さんの方が私も楽だ。

「あっ西田さん!西田さんがいるから大丈夫です」

手を振った私に気が付いて西田さんが私の傍に来てくれた。

「代表はやはりつくし様を同伴されたのですね」

あっ・・・

もしかして・・・

「私を連れて行けとか入知恵しました?」

「いけなかったですか?」

動じない眼鏡の奥の瞳。

少しくらいにっこりしてくれればいいのに。

感情が読めないから追求しにくくなる。

「なかなか代表が今日の予定はウンと首を縦に振ってもらえなかったので助かりました」

やっぱり・・・

私は司をこの場に連れてくるためのダシに使われてた?

「餌にしないでくれます」

「簡単に食べられないでくださいね」

あっ・・・

わずかに西田さんの両目が微笑んだ。

これって西田さんなりの冗談?

一気に頬が熱くなったのが分かる。

何も言えなくなった。

拍手コメント返礼

なおピン様

本当に今年は未だに肌寒いですね。

こちらはしばらく晴れ間を見れそうもありません。

今日も雨~。

つくしと二人っきりにされても代表に気を使わなければならない部下って二重苦。

SP君とどちらが大変?

諸葛孔明=西田さん

私もそう思います。