ドッカン !! 33
*「見た?」
「見た!」
「目の前1メートルの至近距離だよ~」
はじめは、なんのことだ?
そう思った。
「代表~」
うっとりとした表情を天井に向けた女性社員の手の中にはガシッと握られた携帯がちらりと見える。
道明寺ホールディングス本社ビル内では良く見かける風景。
「今日はさ、特に良く目撃されてるのよね」
「10階フロアーでしょ!」
そのフロアーには私の居る法律事務所がいってる。
「私はエントランスを小走りの代表を見たよ。ほら!」
彼女はそう言って同僚に携帯画面を見せる。
「きゃーーー、全身じゃん。この真剣なまなざしって、なによーーー」
私には見えない画面が気になった。
彼女らのテンションは天井を知らないみたいに急上昇してる。
たぶん道明寺が追っているのは会社を出る私のはずで・・・
真剣なまなざしは私に向ってるはずで・・・
誰かに見られてるって思った熱い視線は道明寺だったってことで・・・
彼女らの反応だけで私まで熱くなりそうだ。
「いつもの邪魔なSPがいないと写真もバッチリ撮れるよね」
「今日は天国だー。仕事も頑張れそう♪」
その割には無駄な時間をここで使ってるって思う。
もう昼休みも終わったぞ。
私が道明寺だったら携帯を撮り上げてバキッと真っ二つ!
道明寺じゃなくても・・・
思うだけで行動は無理。
夢見心地の女子社員のもつ画像に嫉妬してる。
そのカッコいいのが私の旦那様だぞなんて自慢する余裕なんてどこにもない。
そのまま強い足取りで彼女らの前を通り過ぎた。
「さっき屋上からヘリが飛んだよね?」
「代表は午後から神戸だって」
「それじゃもう会えないんだ~」
彼女らの情報は正確で西田さんに確認しなくても確信できる。
居ないんだ・・・
さっきまでそばにいた道明寺から逃げるように部屋を飛び出したことを思いだしてる。
強い腕に抱き締められて、愛情を刻むようなキス。
強すぎる独占欲から逃れたはずなのに、私を見つめる表情を、私を呼ぶ声を、思い出して会いたくなる。
私も道明寺に負けないくらい独占欲が強いみたいだ。
「プルッ~~~~」
ポケットから聞こえる呼び出し音。
画面に表示された司の文字。
携帯だけは道明寺から司に変わってる。
司って名前を呼ぶのはまだ照れくさくて慣れなくて、頭に考えてないと言葉にならない。
あとどのくらい一緒にいたら司って自然に呼べるようになるのだろう。
高校からの6年間呼び慣れた道明寺を司に変えるのはそう簡単なことじゃない。
道明寺は簡単に「つくし」に変わってる。
あの順応性は流石だ。
「前から、つくしって名前で呼びたかった」
ベットの中で・・・
腕の中で・・・
耳元で・・・
囁かれた。
くすぐったくて、うれしくて、照れくさい顔を見られたくなくてあいつの胸の中に顔をうずめて・・・
今思い出すな!
「なに?」
携帯に出た声は不愛想で、それでいて少し戸惑ってしまってる。
「俺だ。今日は神戸だから、一人で帰れるか?」
一人で帰れるかって・・・
子供じゃないつーの。
心配げな声に道明寺の方が不安そうな表情をしてるんじゃないかと思えてくる。
「私の心配なんてしなくても大丈夫だから、そっちこそ仕事をしっかりやらなきゃ」
「仕事なんて難なくこなせる。意外にお前はドジだからな。心配なんだろ」
「ドジってねッ!道明寺に言われる筋合いはないからね」
寂しげだった声がいつもの調子を取り戻してる。
携帯の向こうからククッと漏れた声。
「なるべく早く戻るから」
「待ってる」
優しげな声につられるように素直な感情が声になった。
・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・?
携帯を切った後で、なんとなく気が付いた。
なにか見られてる視線。
・・・が、一つ・・・二つ・・・三つ・・・
頭を上げた先で瞬きが止まる。
道明寺の噂をしてはしゃいでた女子社員。
視線の先で浮かぶ苦笑いとぺこりと軽く下がる頭。
たぶん・・・
私が誰だかわかってる・・・
思い切り携帯に向って道明寺って叫んでたし・・・
「お騒がせしました」
言葉を噛みそうになりながら頭を下げて方向を180度変えて足を前に一歩進める。
数歩歩く度に速度は自然と上がっていく。
顔を上がることができないままダークな色合いの床をにらんで進む。
会社内では、もう絶対道明寺の携帯には出ないんだからッ!!!
楽しみいただけたら応援のプチもよろしくお願いします。