ドッカン !! 37
*「どうかなさいましたか?」
道明寺フォールディングス本社ビル最上階執務室。
下げた顔が真正面の俺を見据えたまま表情筋をピクリともさせないままにつぶやく。
「なんでだ?」
「昨日までは100m先からも機嫌がいいと分かる状態だったので・・・」
西田の横を素通りするつもりの足の動きを止める。
お前!なにのんびりと俺を観察してたんだ!
俺の機嫌に一喜一憂してる社員なら無視できる。
西田の場合は俺の機嫌で仕事の濃度を代えてくる曲者。
今日はあんましノラねェからな。
心の中で吐く毒。
「西田、おまえは!」
なにを言ってもピクリとも動かない表情を目にして次の言葉を飲み込んだ。
つくしがもう一度屋敷から・・・本社から・・・俺の傍からいなくなるって事を西田が知らないはずがない。
「知らなかったですか?」
逆に呆れた表情で聞き返される気がして言葉を胸の奥に押し込んだ。
「いいや」
俺の能力がつくしで左右されるとは思われたくない。
それなりの束縛と責任と重圧。
それらを果たすために必要以上の仕事は熟してると自負してる。
日頃の緊張を解きほぐす場所がつくしだって事は西田も理解してくれてるはずだ。
「屋敷から修習所に通うってできねェよな」
心の声はそのまま口を飛び出した。
「無理ではないと思いますが・・・」
「本当か?」
速攻で西田の言葉に食いつく。
わずかに西田の唇が震えてるのが見えた。
微妙な笑。
餌を十分に与えられてないいけすのコイみたいな飢え。
今朝まで、心も体も飢えは十分に充填が出来ている。
落ちつけ!
ここで焦ったらまた西田の思いのままに操られる。
「問題はつくし様を納得させることです」
あっ・・・
あいつが素直に俺からの提案を受け入れるはずがない。
「特別扱いはヤダからね」
不機嫌に言い張るつくしの顔が浮かんだ。
拗ねられると扱うのが余計に難しくなる。
「俺の言うことはきけねぇのか!」
強引に言えなくなったのはいつからだろう。
結婚前の俺に戻って強引にあいつを言い負かす。
言いあうとどっちも引かねェからケンカになる。
後は無理やり寝技に持ち込めば・・・。
無理やりじゃない・・・。
流れだ。な・が・れ!
事の運びは大体こんなもん。
「ごり押しはことを複雑にしますよ」
俺の考えを見抜いてるように西田がつぶやく。
るせっ!
とにッ!
頭にくる!
一方的に何を言い出すんだかッ!
バンと勢いよく開けたドアをその反動を利用して思い切り絞めた。
あっ・・・
壊れてないよな。
思ったより大きな音をたててたドア。
慌ててもう一度ドアのノブをまわして支障がないことを確かめる。
今度はそっとドアを閉めた。
「つくしちゃん、頭から湯気が出てるけど?」
背中から聞こえた玲子さんの落ちついた声。
その声の柔らかさにのせられる。
なんでも喋りたくなるほほえみが目の前にある。
「玲子さん~」
出来るなら玲子さんの胸に泣きつきたい心境。
「あと1か月で実務修習も終わりますよね」
「ここでの修習が嫌だとか言うわじゃなさそうだけど・・・」
「あのバカ、後期修習は修習所に戻らなくていいなんて言い出したんです」
「それって修習を受けなくていいってこと?」
「修習を受けずに弁護士になれるんだったら、おれは喜んじゃうけどな」
横で何気に聞いていた甲斐さんが口を挟む。
道明寺の力なら何でも出来そう・・・
だからって国家の資格がそれじゃ困るでしょ!
「違います。家から修習所まで通えって言ってるんです」
「通うって言っても通える距離じゃないよね?」
ヘリなら楽勝って道明寺は涼しい顔でその問題を一笑した。
「俺、修習所まで直通の新幹線でも通すかと思った」
甲斐さん!
今から工事やってる間に私の修習は終ります。
冗談で甲斐さんが言ってることも笑う気にはなれない。
「玲子さん、これからはしばらくこの事務所に来なくても研修は出来ますよね?」
「確かに裁判所に行くことが多いから事務所に来なくても大丈夫だとは思うけど」
「まさか・・・?」
「しばらく家を出ます」
しばらく道明寺と顔を合わせず時間をつぶす。
私がどれだけ腹を立ててるか分ればいいんだ。
「家を出るって・・・どこに行くの」
「実家だとすぐにばれそうなので、玲子さん匿ってください」
「すぐに見つかるに決まってるでしょう!甲斐くんちとかどう?」
「「だめです」」
甲斐さんと綺麗にはまる声。
それがどれだけヤバイかは甲斐さんじゃなくても私もわかる。
「意外性で私よりは時間が稼げるって思うんだけどな」
「玲子さん!俺を抹殺したいんですか!」
「冗談よ。楽しそうだからつくしちゃん付きあいましょう」
豪快に笑って玲子さんの手のひらがいたいくらいに私の背中を数度叩かれてしまった。
玲子さんって道明寺で楽しめる人?
最初の意外そうな表情は楽しげに変わってる。
甲斐さんより男らしくないか?
居場所を特定されるのを防ぐため携帯をデスクの引き出しの中に放り込む。
後はSPに見つからない様にビルを出て行けば問題ないはずだ。
「玲子さん行きましょう」
「まだ、時間あるけど」
余裕のある表情で玲子さんは壁にかかる時計を眺めた。
楽しみいただけたら応援のプチもよろしくお願いします。
拍手コメント返礼
Gods&Death 様
大物は最後にドン~と存在感を示すものなのさ~。
ここは岬所長登場させるつもりでいましたよ。
どんな登場になるのかはお楽しみということで♪