DNA で苦悩する 26
今は幸せだよね駿君・・・。
すっかりことの重要性は忘れてるんだろうなぁ。
そうさせてるのは誰だ!
ハイ! 私です(^_^;)
舞に睨まれた。
その横で戸惑いの表情を貼り付けたままの蒼。
不機嫌な父さんの横には余裕の表情の母さん。
その母さんを見てホッとした僕。
浮かれてるわけじゃない。
その証拠にシッカリ牧野家じゃなく道明寺の家に戻って来たぞ。
鮎川を送って一度牧野家に進みかけた身体をタクシーに乗り込ませて引き返したんだからな。
財布の中には3000円しか入ってなくて支払いが出来なくて焦った。
玄関の前に横付けされた高級車の運転席にいた里井さんを見つけて、足らない分を借りて支払を済ませた。
130円に慌てた心境は父さんにはわからないだろうなぁ。
ぼくも初めて。
ようやく母さんの言っていたお金の大切さが身に染みる。
「そういうときは、タクシーのメーターが上がる前に降りるものです」
しかし道明寺のお坊ちゃんがって、楽しそうに里井さんが笑う。
「ごめん、後で返すから」
「いいですよ、いいものを見せてもらいましたから」
バカにしてるような笑いじゃなく嬉しそうな笑い声。
そこまで笑われると僕も笑うしかない。
「舞と翼には絶対内緒にしてよね」
「承知しました」
里井さんの笑い声に見送られて僕は家の中に入った。
「賑やかだね」
なんとなく場違いの発言をしたことに気が付く。
この場合・・・
「ただいま」とか言える雰囲気じゃないし・・・
「どうしたの?」と聞いてもその理由は分ってる。
「ごめん、遅くなって」
付け足した声はわずかに曇る。
「駿、分ってるよな」
ツカツカと僕の前に歩み寄る父さん。
そこまで機嫌が悪いのは雑誌のことだけじゃない気がする。
「もう、これ以上雑誌で取り上げられない様に手は打ったんだから、いいじゃない」
僕をかばう様に母さんが動いた。
母さんが動いたと同時に父さんの眉毛もピクリと上に動く。
「美作さんがしっかり動いてくれてるから大丈夫よ」
「お前、あきらに頼んだのか?」
気分を害したってそんな父さんの声。
「だって、雑誌社とか芸能関係は美作さんの方が道明寺より伝手があるでしょう?」
父さんの不機嫌さなんて何とも思ってない調子の母さん。
この場合はどこで話を区切るべきだろうかと僕ら兄弟は悩むことになる。
「俺の方も西田に手を打たせたからお前が裏でこそこそする必要はない」
「必要ないってね。慌てて事務所に飛び込んできたのはどこの誰よ!」
「俺はお前の知らないと困ると思ってだな」
このままだと父さんと母さんの言いあいに挟まれて押しつぶされてしまいそうだ。
「駿もそう思うでしょ!」
「駿も俺が正しいと思うよな!」
なんて、二人から同意を求められる前にこの場から逃げたい気分。
ゆっくりと静かに足を後ろに引いて、二人の合間から身体を外に抜き取る。
たぶん今両親の目に中に僕は入ってないだろう・・・。
「ここで言いあいしないで!」
我慢できずに声を挙げたのは舞。
耳まで真っ赤だ。
父さん・・・母さん・・・
僕の友達が居ることを忘れないで・・・
蒼は慣れてないんだから驚いてると思う。
父さんと母さんは押し黙ったままで・・・
恥ずかしそうな表情と不機嫌な表情のままプイと二人で顔をそむけた。
案外この二人が言いあってくれた方がスンなり解決するんだよね。
「駿、俺・・・帰った方が良くないか?お前も帰ってきたし・・・」
小さく僕に耳打ちする蒼。
「蒼、おまえが居た方は僕は助かるって思う。泊まれよ」
「いいのか?」
「ああ」
「それなら、遠慮なく。俺もお前に聞きたいことあるしな」
元気を取り戻した声でポンと軽く背中を蒼が押した。
鮎川とのこと聞く気だ。
全部は話さないからな!
「駿、後で俺の書斎に来い」
威圧感満載の低い声が静かな邸内を突き刺す。
もう、終わったって思ってたんだけど・・・。
わっ・・・。
甘かった。
ずんと全身に緊張が走った。
帰ってこなかった方が、鮎川と思いが通じたうれしさの余韻を楽しめたはず・・・。
なんで告白したのが今日なんだと後悔。
僕の幸福な感情は1時間もたたないちに完璧にしぼんでしまってた。
楽しみいただけたら応援のプチもよろしくお願いします。
拍手コメント返礼
アーティーチョーク 様
この後は・・・
騒がしくなるのは間違いないですけどね。
蒼君の駿君をみる目が変わらないことだけを祈るだけであります。