我儘な僕に我儘な君

そろそろ翼に舞にもスポットを当てて書いてみようかと試みてみました。

翼君のお話でお楽しみください。

このお話は翼君高校生設定です

短編から長編に昇格ってありかな・・・

*

「ごめんなさい」

目を合わせないまま下げた頭の向きを変えて彼女は僕から遠ざかる。

廊下の端で待っていた女友達に頭を撫でられながら姿を消した。

慰められてる様子にフラれたの俺だろうって苦笑する。

別に悲しくもないけど。

「好きです」

告白されたからなんとなく付きあった。

その程度の関係。

「思っていたのと違う」って、勝手に想像して好きになったって告白して来るのも一方的で、別れを切り出すのも一方的。

告白されて断るのが億劫になったのはいつからだろう。

考えるより流される方が楽だって思えた。

「翼、これでフラれたの何度目だ」

生れた時から一緒に育ってる佑は僕には全く遠慮がない。

「まあ、翼の場合は、わざとフラせてるて言った方が正解だけどな」

「来る者拒まず去る者追わずってソロソロ卒業したほうがいいんじゃないか?」

「おまえだって誰とも付きあってないじゃないか」

「別に淋しくないもんな、おれ達は」

佑が、がばっと俺の頭を抱え込むように腕をまわした。

「少しは慰めようとか思わないのかッ」

「必要ないくせに甘えんなよ」

「それが親友のセリフか」

どちらとも軽く笑いあう戯言。

「翼が本気で落ち込んだときは俺も泣いてやる」

「それは遠慮する」

笑顔の視線の先で佑が教室の入り口を目で示す。

「次の子が来たんじゃないか?」

一瞬僕と目のあった女子がわずかに頬を染めた。

「佑に譲る」

気が付かない素振りで背中を入り口に向けて窓の外に視線をやった。

昼休みの校舎。

窓辺から眺める運動場。

ボールを蹴りあう集団にベンチに腰掛けてる学生。

昼休みの過ごし方は多分英徳も普通の高校と変わりがないって思う。

「アレ、槇だよな」

「翼は嫌いなんだよな?」

佑が意味ありげな表情を浮かべて俺を見る。

興味なし。

金持ちの集まるこの英徳で外から成績優秀で編入してきた槇。

俺の母さんと似たような境遇。

社長令息、令嬢の金持ち集団の中では目立つ異色な存在。

これ見よがしに見下す同級の態度にも屈しない強気な瞳も嫌いだ。

興味がないはずなのにやたらと視界に入ってくるのがたまらなくイライラする。

長くて癖のない真直ぐな黒髪もキライだ。

誰にでも愛嬌よくて、優しく向ける笑顔が一番ムカつく。

「また、フラれたんだって」

「るせ!ブス!」

わざわざ教室の下まで来た槇に叫んだ。

その笑顔を俺に向けんな。

イライラしてる僕の横で佑がニンマリとやたら楽しげに笑っていた。

放課後持て余した時間を音楽室で過ごす。

なにをするでもなく、楽器の置かれた棚の間は入り口からは死角になって見えない静かな空間。

椅子を並べたうえで横になって顔に読みかけの本をのせる。

なんとなく、すぐに家に帰りたくない時間は時々こうしてる。

聞こえてきたピアノの調べ。

へたくそッ

一音抜かした。

誰もいないことを確かめて遠慮がちに音楽室に入ってきてグランドピアノの前に座る槇。

その槇を見つけたのは高校に入ってすぐの頃。

それから槇がピアノを弾きに来る火曜と木曜は僕も放課後、ここにいる。

「相変わらず下手だな」

「また、いたんだ」

僕に振り替えることなく槇の指先は鍵盤を弾く。

「違うだろう、こうだ」

槇の間違えた一章節を弾いて見せる。

槙の指先が止まってピアノの音も止まった。

「なんだよ」

「道明寺って私がピアノを弾いてるときって何時もいるよね」

「ここは俺の安眠の場所なの。槇が邪魔してんだろう」

「お前、キライ」

「知ってる」

表情も変えずに槇がつぶやく。

「帰ろう」

その一言で僕は必然と槇と一緒に音楽室を出た。

嫌いなはずの槇の横に並んでる自分が居心地が悪いはずなのにソコから離れられないでいる。

「よっ、邪魔だったか?」

「佑、帰ったんじゃないのか」

にこやかに手を上げた佑がいた。

「俺は槇に用があったの」

俺と槇の間を裂く様に割り込んだ佑。

気に食わねェ。

「話って何?」

佑が槇のカバンを持つよって受けとって、僕の前に二人で並ぶ。

すこし耳に唇を近付けて聞こえない会話。

佑の口元が動くたびにクスッと槇が笑う。

「素直じゃないからね」

佑のその言葉だけが俺に聞こえた。

だから嫌いだ。

佑も槇も。

自分たちだけ分かったような態度で、腹が立つ。

嫌いだ!

笑うな!

喋るな!

コッチを見るな!

ムカッとする感情を閉じ込めるために不愉快だと繰り返す。

まるで暗示をかけるみたいに繰り返す。

そうしないと無理だって自分で分ってる。

何で槇が気になるのか。

何で槇のやることに腹が立つのか。

何で槇が佑に笑いかけるのが嫌なのか。

今、槇の視界に入らない事実がこんなにも俺が苛立つのか。

佑はモテる。

俺と違って女の子にやさしく接する態度。

話を聞くのも聞き出すのもうまい。

佑!

槇の相手をするな。

好きになられたら困るのはお前だぞ。

違う・・・。

心の奥が佑に笑顔を向ける槇にざわついて落ちつかない。

困ってるのは自分だ・・・。

分ってるはずなのに心が勝手にうそをつく。

佑に親しげな態度を見せる槇が嫌いだ。

「じゃあな、俺先に帰る」

俺の気持ちを乱すだけ乱したまま佑が消えた。

「佑と、なに話してたんだ」

「道明寺には関係ないでしょ、言う必要もないと思うけど」

「付き合ってとか言われたとか?」

付きあってるって佑が告白してたら、あいつの趣味はわかんねェって、笑ってやるよ。

実際に笑える余裕が俺にはあるのだろか。

そんな自分にまたむしゃくしゃする。

「だったらどうする?」

おどけた表情で槇が俺を見た。

「佑も趣味が悪いよな」

「道明寺は私のことキライだもんね」

僕の横を通り過ぎながら槇が笑う。

僕の大っ嫌いな笑顔が淋しそうな影を作る。

心が揺らぐ。

キライ・・・

槇に言われると心がぐらつく。

「・・・ウソだよ」

槇の背中を見つめながら喉の奥から絞り出す声。

槇の歩きが止まった。

嫌いだと自分の気持ちを否定しなきゃ、いつもの自分でいられないところまで来てしまってると気がついてた。

気がついたら繕うことなんてできなくて・・・

もう無理だって分かった。

音楽室にいたんだって槇を待っていたのが本当の理由。

そこだけが二人になれる空間。

ぎこちないピアノを旋律が、一生懸命な槇の性格そのもので好きだ。

僕が指摘するたびに嬉しそうに笑って真剣になる横顔。

「どう?」

僕の指の後を追って弾き終えたたびに俺に向けられる笑顔がいつも可愛くてしょうがなかった。

「俺、入学の時からずっと好きだった」

黙ったままじっと見つめる槇。

沈黙の時間の中でドクンと心臓が悲鳴を上げる。

あと数秒、槇が反応を見せなきゃ僕は口から心臓を吐きそうだ。

「知ってるよ。入学の時から」

困ったような、戸惑った様な、ホッとしたような・・・

泣きそうになった顔が目の前で笑顔になった。

音楽室で魅せられた笑顔より10倍はとびきりのやつ。

「美作君が俺が動かなきゃ翼は素直になれないだろうからって」

今なら佑のあの笑った意味が分かる。

「お前ら、ホントに腹が立つ」

すこし縮めた距離で向き合った。

「道明寺ってホント遅いよね」

「なにが?」

「自分の気持ちに気が付くの」

目の前に迫った小憎らしいセリフ。

僕の自分の感情に鈍感なのは父親譲りかも知れない。

父さんも最初は母さんをいじめてたって言うし。

それもとてつもなくエゲツナイ方法で。

それに比べれば俺のは可愛いぞ。

ランクD。

もう言葉なんていらないから・・・

憎たらしいその唇を、塞いだら、槇はどんな表情を僕にみせるのだろう。

楽しみいただけたら応援のプチもよろしくお願いします。

 ブログランキング・にほんブログ村へ

いきなりですが駿君とは味の違った翼君の恋バナ。

ほぼ私のイメージどおりの翼君でお届けしました。

舞ちゃんはどうするかな・・・

司が絡むから難しいだろうなぁ(^_^;)

拍手コメント返礼

captain様

駿君とは違った恋のお話が楽しめそうなですよね。

そうか、帰省の時期ですものね。

気を付けておかえりを~。

我が家も大みそかから旦那の実家で年越しの予定です。

それではメリークリスマス♪

良いお年を~。

アーティーチョーク 様

このカップルのその後は~まだ全然考えてないのさ♪

「槇」

名字です。

牧野に似た名字で『槇』

時々『まきの~』と翼君が呼ぶことないかなとか思いつつ名字を決めました。