いくつもの嘘を重ねても 17

梅雨ですね。

こちらは週末は雨の予報です。

つくしちゃんの心中が晴れやかになるのはあとどのくらいの時間が必要か。

すぐに晴らしてあげたいんですけどね。

私の居るべきところはここじゃない。

記憶は無くなってるはずなのに、心の奥底からそう自覚できる。

そう教えてくれたのはこの人のまっすぐに私に注ぎこまれる熱。

省吾さんの優しさとは別次元の温もり。

包み込む愛情というよりは強引すぎる我儘な一方的すぎる愛情。

必要以上に強気な感情。

逃がさないと束縛する執拗さ。

ソシテ・・・

時折、瞳の奥に見せる孤独で愁いの帯びた瞳が悲しげに私を見つめる。

見捨てられなくて・・・

離れたくなくって・・・

傍にいたいって思った。

道明寺 司。

彼が記憶を取り戻すきっかけをくれるそんな気がする。

「とにかく、ここで待って!!」

道明寺にそう告げた時には、ここを出よう。

私はそう決心していた。

「命令されるの好きじゃないんだ」

強気な口調とは相反する優しさを見せる瞳。

道明寺の腕を掴んでた私の手を包み込むように添えられた大きな手の平。

そこから伝わる熱は私の全身を覆い尽くす。

これくらいでなんでドキドキなるのよッ。

「見返りは?」

下から覗き込むように首を傾げた横顔。

頬に触れそうな息。

ちょっぴりと余裕のある微笑みを浮かべて私を見てる。

整い過ぎた顔立ちはきれいすぎて目のやり場に困る。

「何も持ってないし、お金もないし・・・」

こんな陳腐なセリフを言うほど私は焦ってる。

相手は天下の道明寺財閥の息子だぞ。

私からなにを奪うって言うのよ。

「これで、我慢してやるよ」

抵抗するまもなく胸の中に抱き寄せられた。

頬から伝わる道明寺の鼓動。

少し早くなってきたって分る心臓の音が私だけドキドキしてるんじゃないって安心させる。

わずかに移動した道明寺の腕。

ふわりと頭の上に降りてきた手のひら。

真綿を包み込む優しさで頭をなぞる。

指先が髪の中に滑り込んできて髪の毛を梳く。

触れられることで感じる安らぎ。

身体が覚えてる気がした。

「・・・牧野ッ」

牧野って・・・?

道明寺だけが私をそう呼ぶ。

真央と呼ばれる違和感が牧野という名前にザワツク。

私・・・牧野なの?

確かめるために道明寺の胸を押して首を上に向けた。

ゆっくりと近づく唇がクローズアップされてくる。

これ以上道明寺と触れあったら心が壊れそうな気がした。

「とにかく、ちょっと見てくるから」

道明寺から逃げるように飛び出した部屋。

次にあいつに会う時、どんな態度を私はとればいいのだろう。

浮つく足取り。

ぼっとした頭のままに降りる階段。

数段降りたところでスラックスの下半身が視線の先に見えた。

「あっ・・」

「めずらしいね。こんな時間に部屋から出てくるの?」

上げた視線の先で省吾さんの姿が浮かび上がる。

書斎から出てきたばかりの様子で一息ついて肩を上下させた。

「喉が渇いたから何か飲もうかと・・・」

本当にそれくらいの用事がなきゃ1階に降りてくることは無い。

「少し話さないか」

落ちついた声の響きが嫌だと言えない雰囲気を作る。

チラリと道明寺が気になる様に2階の自分の部屋に向けた視線。

2階に誰かいるってばれたらダメだ。

すぐさま視線をもとの位置にもどした。

省吾さんは私の微妙な態度には気が付かないまま私の前を数歩進んでリビングに向う。

「なにを飲む?」

「・・えっ?いいです」

テーブルに向かい合って座ったまま頭を軽く下げた。

「喉が渇いてたんだろう?」

「あっ・・・そうでした」

ククッと小さく省吾さんに笑われた。

差し出されたカップにゆるゆると白い湯気が上る。

慌てて口をつけた唇から喉の奥に広がるアップルティーの香り。

「何か思い出した?」

「えっ?」

「記憶が戻ったというか、なんとなく私はここにいちゃいけない気がしてきて・・・」

「それは、道明寺に会った影響かな?」

いきなりの確信にカップを落としそうになった。

まさか、今この2階に道明寺がいることばれてる?

言葉に詰まる口元を隠す様に俯いてもう一度カップの液体をごくりと喉に流し込む。

ちらりと上目づかいで盗み見る省吾さんの表情。

ふっーと長くため息を付いた口元が、その後に、苦笑するのが見えた。

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拍手コメント返礼

まい2 様

つくしちゃんの気持ち聞いたら力が入っちゃいますよね。

省吾君はつくしちゃんをどうしたいのか、話し方の持って行きようによってはつくしちゃんの気持ちも変化するでしょうしね。

同情心を煽られたらお話の行方はどうなるのか。

続きはゆっくりな時間があるときに書き上げたいと思ってます。

やなぎ 様

司なら本能のまま突き進みそう。(^_^;)

省吾さんをどう動かすか。

この駒の一手大事なんですよね。

あずきまめ 様

司君大人しく二階にいると思います?

なにかやらかしてくれたらそれはそれで面白そうなんですけど~。

つくしちゃん司の元に帰れるかなぁ。

アーティーチョーク 様

記憶が戻ったら簡単にお話は終わるんですよね。

どうやって司はつくしを取り戻すのか!

気持はほぼ取り戻してるんですけどね。