ＤＮＡ で苦悩する 49

「名前なんだったけな・・・」

眉を寄せて田中さんが悩む。

それって、思い出したうちに入るのか？

「社長の奥さんと良く一緒に見かけるんだよな」

そう言ってまた田中さんは考え込んだ。

これなら僕にたどり着くまでにはまだ距離がある。

「次行くぞ」

何度となく繰り返されるリハーサル。

徐々に相手役との距離も縮まってる。

「シュン」なんて呼び捨てにされてるし。

腕に抱き着くように回された彼女のほっそりとした腕。

はにかんだ笑みを作る表情。

「好き」と小さくつぶやく口元。

演技だと分かっていてもドキッとなる。

これは、彼女に興味あるとか好意を持ったからじゃないから！

鮎川許せ！

側にいない鮎川に許しを乞いながら彼女を抱き締める。

なんでこんなＣＭなんだ。

それもそれを撮ってるのは鮎川の親父さんで・・・。

「もっと力強く！」

「彩音を彼女だと思って！」

「そこで、照れくさそうに笑う！！」

メガホンから次々に声が飛ぶ。

「そこで、顔を寄せ合って！」

この後キスする雰囲気で見つめあうってシーン。

ゆっくりと彼女の靴が床から離れて背伸びをした。

視線いっぱい、ＵＰで迫る唇。

キスをせがむように艶やかな色合いに軽く開いた口もと。

雰囲気だけのはずじゃないのか？

カメラのアングルから隠す様に首を傾ける。

撮りようによっては重ねてない唇が重ねたように見れるはずだ。

「これでいいですよね」

数秒の沈黙の後、彼女から離れた。

「本当にキスしても良かったのに」

クスッとした笑みを浮かべた彼女。

すぐに女性が近づいて彼女のメークを直してる。

監督のＯＫの声にバタバタと動き出すスタッフ。

「いいのが撮れたよ。楽しみにな」

監督の満足気な声。

それだけ？

鮎川に聞いた話じゃ、スターにしてやると話を持ちかけるんじゃなかったのか？

僕への興味は薄れたという態度にしか見えない鮎川の親父さん。

「思ったよりうまくいったな」

一人取り残されていた僕の肩を美作のおじさんがポンとたたく。

「駿、すごい、胸がキュンとなるくらいに、いい雰囲気が出てた」

手放しの賞賛。

完成したＣＭ見る前の感想じゃ親の欲目じゃないのと言いたくなる。

「牧野、自分と司を重ねてたんじゃないよな？」

「どちらかと言えば私たちはドタバタしてたからね」

「高校の頃に戻れるなら平和な恋愛を選ぶ」

「どっちみち、司となら平和な恋愛は無理だろう」

「相手は違うかもしれないじゃない」

現実から離れた話で盛り上がるってるのは道明寺ホールデングス代表夫人で僕の母。

その母を相手にしてるのは美作グループの社長。

この会話は誰にも聞かせられない。

「このＣＭを見たら、鮎川さん嫉妬すると思う？」

突然母親から飛び出した鮎川の名前。

鮎川が嫉妬・・・する？

「あっ！そうか！」

漠然と鮎川の親父さんの目論みが分った気がした。

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拍手コメント返礼

アーティーチョーク様

翔五郎さんの計画は上手くいくのか！

駿君が知らないところでいろいろ画策してたりしてね。

なんだかみなさん司の登場を楽しみにしてらっしゃる節があるような気がします。

登場したら大変でしょうね。

あずきまめ 様

どんな可愛い女優さんが来てもぶれないですよね。

でもつくしのＤＮＡがあるからなぁ～

押しには弱いかもしれませんよ。

やなぎ様

道明寺の跡取りとしては読みが甘い！

司に説教される駿。

それを横で見ていたあきら君に「司、おまえ、それを駿に言えるか？」

「付き合ったの牧野が初めてだったよね。デートの仕方も分らないで俺に聞いてきたのどこの誰だ」

なんて虐めてほしい。

あっ・・・話がずれてきた。(^_^;)

ことり 様

お仕事お疲れ様です。

現場が変わると慣れるまではたいへんですよね。

お話の結末は交際を破局させるのは難し結果になると思います。

翔五郎さんをどうなっとくさせるのか！

いの 様

家族ゲームの翔君なら策士ですよね。

>一挙手一投足にワタワタする駿君が見たいです。

それじゃ、つかつくと一緒じゃないですか♪

でもその方が面白いですよね。