我儘な僕に我儘な君 18

憶えてらっしゃるでしょうか?

このお話の始まりを?

翼君の恋バナから始まったんですよね。

少しは進展させてあげないとかわいそうなので舞ちゃんと佑君のお話はしばしお休みということで(^_^;)

*

放課後誰もいなくなった教室。

校庭からボールを打つ音と掛け声が聞こえる。

家に帰るまでのわずかな時間の合間に音楽室に向かう。

以前は音楽室のすみに椅子を並べて寝たふりをしていた。

槇が音楽室に来るのを知っていたから。

ドアを開ける前に聞こえてきたピアノの調べ。

相変らず音程を外してる。

へたくそ。

心の中で舌打してた以前の俺。

今は外した音も、槇らしくて、心をくすぐる。

槇の間違った箇所を弾いて見せていたのがつい昨日のようだ。

今は、槇の後ろからそっと手を添えて一緒に鍵盤をたたく。

少し照れくさそうに俺を見上げた槇が、すぐに視線を落として重ねた指先を見つめる。

「ちょっと、ソコまで指が開かないんだからね。もっと優しく教えてよ」

親指と小指を懸命に広げても俺の小指までは指一つ分の長さが足らない。

「難しい曲をやるからだろう」

「だって、この曲好きなんだもん。何年かかってもいいんだから」

高校生活が何年あると思ってるんだ。

「弾けるようになるまで翼が教えてくれるでしょ?」

あんまり深くは考えてない表情で意味深なセリフ。

「5年でも、10年でもいいぞ」

「あっ!バカにしてるでしょう、そこまではかかんないって」

少し膨れた頬が、弾けるように笑う。

俺が喜ぶような意味合いじゃないってすぐに答えが分る槇の態度。

ずっと一緒にいてって、意味じゃないのかよ。

槇の華奢な背中のラインが胸に触れるたびにドキンとしてんだぞ俺!

今までの女なら、この状態になれば、身体を回転させてすぐに俺の胸元に飛び込んできたんだけどな。

槇は俺よりピアノに夢中。

甘えるとか、俺を気にしてドキッとするとかないのか?

それでも・・・

さらっりとしてる槇の態度が気になって、俺を落ちつきなくさせる。

絶対、そんな弱さを俺から槇に見せられるか!

「舞、美作君と二人で夜の街に出かけたんだって?」

「なんで槇が知ってるの?」

週末の出来事は月曜日には舞から槇に報告済みらしい。

「ゲームセンターで楽しかったらしいよ」

舞は俺になんも報告してくれてない。

それより俺たちの間では母さんの妊娠発覚が話題の中心。

今日あたり母さん病院に行くって言ってたっけ。

「はっきりさせる必要あるもんね」

照れくさそう微笑む母さんを愛しそうに見つめる父さん。

はっきりしなくても二人がまだやってるってことは、はっきりしてしまった。

相変らずのイチャイチャぶりは健在。

兄弟が10人に増えても不思議じゃない光景。

つーか、やるよな親父。

男としてはちょっと尊敬。

「舞が美作君と仲がいいと嫌なの?」

「えっ?」

鍵盤から視線を上げた槇が眉を顰めて俺を見上げてる。

「あいつら、昔から仲はいいぞ」

「そんなんじゃなくてッ」

ムッと本気で槇の機嫌が悪くなった。

槇は舞が佑のことを好きなのを知っているんだと思う。

「あいつらのことより、俺達とのことを気に掛けてくれた方が、俺としては嬉しいんだけど」

腰を折って槇をそのまま背中から抱きしめて左肩に顔を寄せる。

頬に触れる槇のしなやかな柔らかい黒髪。

鼻先に流れ込むシャンプーの香り。

このまま時間が止まればいいって思えた。

拍手コメント返礼

アーティーチョーク様

この二人は親に合わせるのはまだ考えてないんですよね。(^_^;)

翼君は他の2人と違ってお付き合いは初めてじゃなさそうですしね。

3人3様の恋バナをお届けします♪