逃走中!

おはようございます。

短編「失踪!」のお話の続きとなります。

*

「最近お疲れのようですね」

気が付いてくれたのは西田さん。

「そうでもないですよ」

作った笑顔がヒクヒクと痙攣気味に頬を振るわせるのが分る。

うるさいというか、最近束縛気味の道明寺に辟易中。

今日も優紀との約束をキャンセルさせられてムカついてる。

「私も用事があるんだから」

「俺様がわざわざ来てやったんだぞ!」

誰も頼んでないってッ!

そりゃ、悪かったわよ。

誘われてることに気がつかなかった私が悪い。

気さくに声をかけられて、気さくに声を返していて、何だかヤバイ方向にいってるって途中で流石に気がつきました!

だからって、道明寺がいないときはSPを私に張り付かせるってやり過ぎでしょう。

止めてって言っても聞き入れてくれそうもない頑固さ。

「信用できない」って、なによっ!

私を信用できないやつとなんて付き合えるか!

それが言えたらどんなに楽か・・・。

私のことを道明寺なりに考えて心配してくれてるって分るからギリギリのところで我慢できている。

『私・・・

道明寺のことが・・・

本当に・・・

本当に・・・大好きで・・・

ほんとはいつも・・・

いつもずっと・・・

あいつのことで頭がいっぱいで・・・

考えれば考えるほど・・・

アイツがいない生活なんて・・・

考えられなくて・・・』

高校のころ道明寺と別れて感じた思いは今もきっとそのまま心の奥に秘めている。

でもね、時には一人になりたくなるのよ――――ッ。

「もっと心配させればいいんですよ」

西田さんはそう言って、その日のうちに私たちをどこかに運んでくれた。

秘境の温泉宿。

一日5室の限定宿。

そこを私たち家族で貸し切って宿泊中。

1日目は高級感漂う和室と日本庭園を眺めて家族ではしゃぐ。

出された料理もこれまで食べたことのないようなおいしさ。

パパもママも50年は寿命が延びたって喜んでいる。

そうなると夫婦で100歳は超える長寿も夢じゃない。

家族でいなくなったと気が付いた道明寺は心配してるかな?それとも怒鳴ってる?

西田さんが動いているから道明寺に私たちのことがすぐにばれることは無いって思う。

時間がたつごとに・・・

朝を迎えるたびに・・・

確実に道明寺を思い出す時間は増えている。

朝、ママと一緒に入った温泉。

「淋しんでしょ」

つまんなそうな顔になってると笑われた。

気がつけば、あいつのことばかり考えて、淋しくなって、ため息を付く。

道明寺のいない生活なんてやっぱり無理みたいだ。

「一週間は、ここにいていいって言われてるけど、どうする?」

私の答えは知っているって、表情のママ。

今すごく一緒に居たいのは道明寺だって分ってる。

機嫌の悪い声も・・・

横柄な態度も・・・

強引に私をしっかりと抱き寄せる力強い腕も・・・

ぜんぶが懐かしくって恋しい。

「先に帰るね」

風呂場から上がって着換えて、まだ髪も濡れたままで部屋を飛びだした。

・・・?

「道明寺・・・」

旅館のロビー入り口で、腰を折った長身。

膝に両手をついて肩で息をする見慣れたクルックル。

私に気が付いて頭を上げた。

「ここ、どんだけ秘境なんだ!獣道しかなかったぞ!」

もしかして山道を歩いてきた?

確かにそのよれた疲労感は山歩きの感じだ。

髪の毛に茶色の葉っぱは、ついてるし・・・。

「入り口まで車でこれるはずだけど・・・」

玄関前に数台は止まる駐車場のスペースに視線を向けた道明寺が悔しそうに唇をかむ。

「クソッ!西田に騙された!」

天井を見上げた道明寺が屋根を吹き飛ばしそうな勢いで叫び声を上げた。