西田さんの坊ちゃん観察日記 (画策中!)

ここはやっぱりこのかたの登場がないと終われません。

結局三部作が5話まで来てしまいました。

予定では6話かなぁ?(^_^;) 

このお話は『短編3部作 失踪!逃走中!』の番外編となります。

*

「御疲れのようですね」

虚ろな表情のつくし様にそう声をかけた数日前。

何時もは爆弾娘の様な元気さで、坊ちゃんに食って掛かるつくし様を頼もしく眺めてる私がいる。

今回は大丈夫かと危惧してることが現実となったようだ。

小さい頃からプライベートがプライベートでない生活を強いられていた坊ちゃんにはわからないストレス。

危機管理の中に置かれる必要性に慣れることも道明寺の一員となるには必要なこと。

分ってますが、いきなりの上級者コースでは、つくし様じゃなくても悲鳴を上げると思ってりました。

私なら・・・

分らない様にSPを配置して、つくし様が気が付からないところから護衛を張り付かせることから始めます。

大学の構内、自宅の通学から、バイト先まで、ダークスーツ半ダースがついて回って、一般人が側に近寄ることを躊躇する様な雰囲気がつくし様の周囲を取り囲む。

私でも嫌です!!

慣れてるのはご幼少の頃から慣れている坊ちゃんだけです。

それでも流石に年がら年中見張られてる状況に、一人の時間がないと、高校時代の坊ちゃんがぐずったのはつい昨日の出来事の様に私は覚えております。

今のつくし様から排除しなければいけないのは坊ちゃんの嫉妬心。

それはSPでは無理。

「もっと心配させればいいんですよ」

私の言葉に戸惑ったような表情をつくし様が浮かべる。

身近にいすぎる関係は、不自由を感じないと気が付かない場合もあるものです。

二人が離れた時間を作る。

それも互いの連絡を断ち切ることでもう一度じっくりと考える時間を持つことができるでしょ。

どちらが先に根をあげるか、答えは分ってますけどね。

忽然と姿を隠す様に秘境の温泉宿に牧野家ご一行を送り届けて3日目。

坊ちゃんのイラッとした表情は、苦悩する表情にかわり落ち着きの無くなった態度で、指先がコツコツとデスクの上を忙しげに叩く。

今日の朝から全く手が付けられてないデスクの上の書類。

数は減ることなく、その上に代表を無視するように書類を重ねた。

「代表・・・」

「代表!」

何度かの呼びかけでようやく私に向けて首をもたげる代表。

なんだ、西田だじゃねぇか・・・的な、見るからに落胆する表情で見るのはやめていただきたい。

大体職場では一番顔を合わせる相手は私なんですから。

いまさら落胆する必要性はないと思います。

これは・・・

完全に代表の心はつくし様に飛んでいると分かる態度。

少しクスリが強すぎたか?

「坊ちゃん、何かあったんですか?」

「あっ!」

何時もなら坊ちゃんと呼んだ時点で不服そうに唇をゆがめられる。

代表から坊ちゃんに名称を変えてもてんで気が付いてない様子。

「そう、ウロウロされるとそばにいる私も落ち着けません」

意外に落ち着きのない坊ちゃんを見るのは心が躍る高揚感がある。

冷淡で、横柄で、威圧的で、他人を抑圧するオーラ。

硬い殻が外れて、人間味が垣間見えるこの瞬間がたまらなく愛しいのです。

「西田、俺が英徳をやめさせた相手を全部調べろ」

威嚇的に発せられた声。

命令口調に戻った坊ちゃんは人を指図するために生まれてきたような威厳をもつ。

「今からですか?」

「悪いか」

「今さら贖罪・・・」

つくし様に出会う前の坊ちゃんは乱暴の言葉だけじゃ表現できない無法地帯。

警察沙汰にならなかったのは道明寺の力。

坊ちゃんの気分次第で暴行を受けて英徳を去った生徒は数知れず・・・

つくし様も状況によってはその中に入った可能性もあったはずで・・・

今のお二人の関係は奇跡に近いなれ初めがある。

心を入れ替えた坊ちゃんが自分の非を認めて頭を下げる気になった!

これはプライドの高い坊ちゃんには無理がある。

「・・・って、わけじゃなさそうですね・・・」

「牧野がいないんだよ」

「・・・」

あぁ・・・

坊ちゃんが考えをたどり着かせたのは、自分の代わりにつくし様に危害を加えられたとの結論だと納得。

その方が坊ちゃんらしい考え方だ。

「家族ごと失踪して、3日前から連絡が取れない・・・」

「俺に原因があるとしか考えられない」

「さっさと調べろ!」

つくし様に坊ちゃんが張り付かせたSPをお忘れですか?

あの護衛を振り切ってつくし様をさらうのは特殊部隊でも無理だと思います。

道明寺の前に泣き寝入りしてる輩には到底無理!

本当に・・・つくし様のことになると・・・

思考が単純になり過ぎです。

ため息を隠す様に眼鏡の位置を直す様に指先で鼻の上のフレームを押し上げた。

「坊ちゃん・・・」

私の声に期待する様に坊ちゃんがゴクリと喉を鳴らす。

「つくし様なら、ご家族と秘境の温泉ツアーにお出かけです」

「携帯もつながらない人里離れた静かな場所だそうですから、連絡が取れ無いのも致し方ないと・・・」

予想外の私の言葉に間の抜けたお顔になってます。

そこから見る間に真っ赤に高揚。

「なんで、お前が知っていて、俺が知らねんだよ」

爆発寸前の怒りのこもった声。

怒鳴り声には慣れてます。

「坊ちゃんに知られると邪魔されると思ったんじゃないですか」

「最近つくし様を坊ちゃんは束縛気味でしたからね」

つくし様に手を貸したのは私。

これを理解できれば坊ちゃんは冷静さを取り戻せるはず。

つくし様を迎えに行く気にはなるでしょうけど。

それと引き換えに坊ちゃんは仕事の能率を上げる必要性を感じてるはず。

「つくし様と過ごせない間、たっぷりと仕事に専念出来るはずです」

コツコツとデスクの上に詰みあがった書類の山を人差し指で叩く。

これが終ればお送りしますの意思表示。

「俺はまだ、道明寺フールディングス代表と大学生との二足のわらしだぞ」

わらし・・・?

二足・・・。

二足のわらし・・・?!

「代表・・・」

「・・・二足のわらじです」

「座敷童の方がいい仕事してます」

私の訂正を無視するように坊ちゃんが私を睨む。

この仕事を終らせてからです。

もう一度デスクの上の上を指先でコツコツと打つ。

渋い顔を向けた後小さく舌打ち。

詰みあがった書類の束から一つと取り出してその文字を代表の目が追う。

ダダッッと言う、効果音を背中に背負う勢いで、代表が仕事を片付け始めた。

西田さん日記はもう一話続きます。

一話じゃ終らなかった・・・(^_^;)