生れる前から不眠症 15
拙宅では珍しく今回は総ちゃんが大事な役どころになってます。
F4の中でもこの二人はまた特別な意味で類や司とは違う友情がありますからね。
どう片を付けるのだろう~。
*
「いいの?出なくて?」
何度も葵さんの携帯を鳴らす着信音。
「今は声も聞きたくない」
携帯の主電源を切って葵さんは携帯をバックの奥に押しこめる。
「ごめんね。迷惑かけちゃって」
淋しげな儚い声で葵さんがため息をつく。
「出ていくつもりはなかったんだけど、今は冷静にあきらの顔を見れそうもないから」
「ヤッパリショックだよね」
私も気の利いた言葉もかけられずに深いため息をつく。
「付き合う前からいろんな女性が側にいたのは知ってたから・・・
つくしちゃんを彼女にしてたこともあったよね」
「あの頃は女ったらしってムカついただけだったんだけどなぁ」
高校時代からF4の中でも西門さんと美作さんは遊んでたのは周知の事実。
でもね、葵さんほど本気で愛してる女性は美作さんにはいなかったから。
今、こんな言葉を言っても下手な慰めにもならない気がした。
ただ黙って葵さんの言葉に耳を傾けて聞き役に徹してる。
「あの後、相手の女性を見たの」
「見たって、子供の母親?」
コクリと葵さんが頷く。
よりによって会社に呼びつけるって美作さん何考えてるのよ!
葵さんと直に合わせるって傷口に塩を塗るようなものじゃないか。
「きれいな人で・・・あの人と関係があったって思ったら、同じ腕で手で私に触れてほしくないって思っちゃって・・・」
「こんな気持ちのままじゃ一緒に居られないでしょう」
確かにそれは分かる。
もし・・・
司が私以外の人を抱いた腕で、キスした唇で、触れてほしくない。
他の人に触れた身体で触らないでほしい。
それは理屈じゃなく感情の支配。
相手を見ればその気持ちはとめどもなく流れてくると思う。
昔のことだからって言われても受け入れられない嫉妬。
それは、相手を思えば思うほど、愛せば愛すほどに強くなると思う。
葵さん・・・
美作のことを許せないほど好きなんだって思う。
「美作さん心配してるよ」
「私が頼るところってつくしちゃんのところしかないって分ってると思うから」
「実家は?」
「実家に帰ったら兄貴があきらのところに怒鳴り込んじゃうわよ」
顔を見たくないって言うわりには美作さんの立場を悪くするような行動は控えてる葵さんがいじらしい。
「葵さん!今日は飲もう!」
妊娠してなきゃとことん付き合うのにッ。
乾杯したのはミルクティ―。
「飲もうじゃなくやけ食いかな」
葵さんの分まで明るい声を上げて笑顔を作る。
食欲もあるはずないよね。
「葵さん、思ってること全部吐き出そう!」
「私も言う!」
アルコールは入ってないはずなのにアドレナリンが分泌過剰気味。
今日も今後のことをじっくり美作さんと話し合うつもりだったのに司がついてきちゃうしッ。
仕事をドタキャンした影響はしっかり今日の残業ンに上乗せされている。
「今日は徹夜だ」
メールが来たのは葵さんが家に来る数分前。
妊婦に睡眠不足は悪いんだから!
私の邪魔をする暇があったら仕事に集中してほしい。
「モテるのがいけないんだよね」
「容姿が50%割り引いていたなら心配いらなかったって思わない?」
「美作さんの気遣いとまめさは顔がそこそこでもモテると思うけどな」
司のあの傲慢な我儘な性格は顔が良くてもマイナス要素になると思う。
普通の女性じゃついていけないややこしい性格。
私じゃないとダメだって変な自信は一緒に居る時間が長くなればなるほどついて来てる気がする。
「ちょっとはスッとしたかな」
茶目っ気な笑顔を浮かべて葵さんがつぶやく。
「一晩寝たらすっきりすると思う。出来なきゃダメだよね」
それはまるで、自分に言い聞かせる様な切なさ。
「私を裏切ってるわけじゃないんだし、子供も生まれるんだし、強くならなきゃ」
十分に葵さんは強いと思う。
あの美作さんが惚れた女性だから。
どんな女性にも目もくれない奥さん一筋に美作さんを変えたのは葵さんあなただよ。
美作さんを責めれば楽なのに、自分の感情を持て余しながらも出口を探そうとしてる葵さんは素敵だって思う。
「葵さん、好きだから」
「えっ?」
「いつまでもうちにいていいから!」
葵さんにガシッと抱きつきたいがちょっぴり妊婦体形にせり出してきたお腹が邪魔をする。
妊婦同士で抱き合えるものじゃない。
「それは困るかな・・」
美作さんが恋しくなってきた表情を葵さんが浮かべていた。