秘密な内緒の話 3(DNAに惑わされ  番外編)

この短編も3部作とするつもりでしたが、タイムセールに奮闘する司君が見たいというリクエストに心が動いてしまいました。

なかなか、本編が進まない(/_;)

*

池の中に一つかみ投げ入れた餌に群がる鯉の集団に見えなくもない。

玉ねぎに飢えてるやつらって・・・

それが主食じゃねぇよな?

「私も!」

目の前を玉ねぎ山積みのワゴンめがけて突入するピラニア集団からつくしを守る様に抱きしめた。

俺に感謝するわけでもなく、興味は俺よりタイムセールだとつくしが身体全身で訴える。

「行くつもりか?」

「玉ねぎって料理で良く使えるし、長持ちするしね」

道明寺家の食糧事情。

一つ一つが高級食材で産地直送だぞ。

そのへんに売ってるものに目の色を変えるなッ!

未だに金銭感覚は平行線のまま。

1円10円の安売りに目を輝かせるお前の夫は、今日も100億の金を動かしてる。

「怪我するぞ」

「大丈夫だよ。早くいかないと終わっちゃう」

湖から飛び立とうとしてる水鳥の足を抑え込こむとこっちが怪我させられるんだよな。

顔に引っ掻き傷を作って駿に会いたくはない。

「欲しいのか?」

「欲しい」

うまいもんを食って満足してる微笑に弱い。

瞳もいつもより輝いて俺を見てる。

お願ぃ~って、甘ったるい表情が俺を見つめる。

「俺が行ってやる」

つくしの肩を押しやって、つくしの前を離れる。

数歩歩いて振り返ったつくしの間の抜けた顔が笑えた。

半分口を開いて、ぽけっとしてやがんの。

駿のマンションを見た時と一緒のリアクションが笑える。

目の前に迫るいくつもの背中。

「どけッ!」

殺気だった気配を放出中の背中は俺の声も届かない壁。

クソッ!

どけって言ってるだろうが!

つけ入る隙間もない背中に見つけた数ミリの隙間。

指先を押しこんで開こうとした瞬間にはじかれて外に飛び出した。

よろけて尻を突きそうな体勢をこらえて肩で息を吐く。

上等じゃねェか!

絶対玉ねぎを掴んでやる。

俺より数十センチ低い肩に目がけて身体ごと飛び込んだ。

イツ!

鼻先に玉ねぎの茶色い皮。

息をするたびにひらひらと鼻の穴をふさぐ。

もう少しで玉ねぎの中に顔を突っ込むところだった。

つくしなら怪我してんぞ。

上から伸びた手はビニール袋を広げていっぱいいっぱいに玉ねぎを詰め込んでる。

玉ねぎのタワー?

まだ詰め込むのかよ。

ビニール中から玉ねぎが飛びだしてねぇか?

それで落ちてこないいのが不思議。

「なにぼーとしてんの」

「ハイこれ」

差し出された逞しい腕のさきにはビニール袋。

目の前で二の腕がぷにょっと震える。

せかされてその袋を受け取る。

「兄ちゃん」

兄ちゃん?

「速く、詰めないと無くなるよ」

兄ちゃんって呼ばれたことに驚く暇も許されず袋に玉ねぎを一つ、また一つ詰め込む作業を繰り返す。

「駄目だね。ほら、ここ!ここも!隙間が空いてるじゃないか」

劣等生を前にダメだしの呆れたため息。

道明寺ホールディングス代表のこの俺が、世界でも抜群の経営手腕を振るう俺。

こんな単純な作業で、知らないおばはんに見下された上から目線で見られてたまるか。

闘争心に火がついた。

片手でムンズと玉ねぎを掴んで力任せに上から押しこむ。

バシャッ!

ドシャッ!

ゴロッ!

ビニール袋が破れてワゴンの白い底に転がる玉ねぎ。

俺の詰めた玉ねぎは四方から伸びてきた手が掴んで俺の元から離れて消えた。

「もうちょっと馴れないと駄目だね」

「ほら、今日はこれ持って帰んないよ」

両手に押し付けられた玉ねぎは袋から数個分高さを山積みして胸で支えてバランスをとる必要がある不安定さ。

俺に玉ねぎを押し付けたおばはんは余裕でカートに押してレジに進む。

レジの中には玉ねぎだけじゃなく人参にきゅうりの詰まった袋が入っていた。

「大丈夫だった?」

ポツンと取り残された様にワゴンの横に立ち尽くす俺の横でつくしが「すごい」と感嘆の声を上げる。

「きれいに詰めてるじゃん。

司のことだから袋を破いてるとか、一個しかとれなかったとかあるかと思てたんだけどね」

破れたよ。

一個も残ってなかったよ。

クソッ!

この俺を憐れんで、知らないおばはんがから玉ねぎを譲られたんだぞ。

それも高級品を譲られたようなドヤ顔でだぞ!

この喪失感はなんだ。

ゴロッ。

身体に力を入れた途端に袋の口から玉ねぎが足元に転がった。

もう知るかッ!

玉ねぎが飛びだすのも気にしないでカートの中に袋ごと玉ねぎを投げ入れた。

二度とタイムセールなんてやらねェッ!

「今度はもっと現実的な願いをしろよな」

玉ねぎなんてねだるな。

「なに、怒ってるの?」

「怒ってねェよ」

「怒ってるよ」

「怒ってねェって言ってるだろうが!」

俺の腕にぶら下がる様に腕を絡めたてきたつくしの頬。

腕に頬をそのまま押し付けて下から俺を覗き込む甘える瞳。

「馴れないことに付きあわせてごめん」

謝ってる表情じゃなくて嬉しそうに笑みを作る口もと。

触れ合う腕から伝わるつくしの温もり。

不機嫌さは自然と熱から伝わる労わりが昇華させてくれる。

俺の感情は上手くつくしに操られてる気がしてきた。

拍手コメント返礼

アーティーチョーク様

高級食材での肉じゃが、きんぴらはもったいないですよね。

フルコースでいただきたい。

りん 様

次の段階はヤッパリ料理♪

どんな調理時間になる事やら~

はるとん 様

司をこれ以上弄っていいんですか?

嬉しいなぁ~

どう料理しよう♪