生れる前から不眠症 16

女性陣の気持ちは聞けたところで今回は男性陣に視点を移したお話です。

情けない事にはなってないだろうなぁ・・・(>_<)

*

「悪いな、俺の子供だ」

本社から一時間車を走らせて、たどり着いたもう一人の父親候補の前に俺は立つ。

俺を出し抜いたとでも言いたそうに満足そうに微笑んでるそいつがいた。

俺はドヤ顔を見せつけられるような感情をお前に持ち合わせてない。

タダ確認したかっただけ。

葵の為に・・・

葵をこれ以上悲しませない為に・・・

これ以上のトラブルはごめんだ。

「気付かなかったろう、裏切られてたのはお前の方だったんだ」

子供の頃から、何かと俺に敵意向きだしに対抗してくるやつだった。

英徳じゃ2才上の上級生。

司に、総二郎に、類と俺。

F4と中等部から騒がれて続けた俺達、影が薄くなったことを俺たちのせいだと、いまだに根に持ってるようなやつ。

相手にするつもりも、したつもりもない。

「お前の悔しがる顔を見たかったんだよ」

ムカついてるのは二股をかけられていたことじゃなく、お前らに振りまわされてしまったこと。

俺の過去で葵を泣かせたこと。

笑い声は天井を抜けて歓びの表情とともに風間修一郎は視線を俺に向ける。

俺に一泡ふかせたいと橘 理紗に俺を騙せと指示したことは聞きしている。

調べればすぐにわかりそうな無駄な計画を実践するあたりが、いまだに俺の爺さん、会長からも信用されてないことにこいつは気がついていない大バカだ。

俺がグループトップに就けば、すぐに追いだしたい給料を無駄に浪費する一人。

バシッ!!

突き出した右の拳が鈍い音をたてる。

床にしりもちをついた修一郎は俺が殴ったことも嬉しそうに頬を歪めたまま笑い声をあげた。

俺に一泡ふかせたと思ってる歓びは一発殴られても消えないらしい。

カン違いをさせたままの方が無駄に争いを作らなくて済む気がした。

「一発でいいのか?司なら止めに入らなきゃいけない事柄だぞ」

黙って、俺についてきた総二郎が俺の肩に腕をまわしてクスッとした笑みを漏らす。

「お前が、最初に余計なことを俺に吹き込んだんだよな」

「俺なりに焦って心配だったんだよ」

本気で心配して、今は本気で安心したって表情を浮かべる悪友の右わきを肘で突く。

「それは自分も他人事じゃないからだろう、総二郎」

俺の言葉に分ったかって正直な表情が顔を出す。

「それより、あきら、司の凶暴性が移ってねェよな」

「俺が、司に感化されたとしたら愛妻家だってことだけだ」

俺の横で軽く跳ねた総二郎が肩に軽く体重をかけるように乗っかって首を絞める。

「今日はお前のおごりな」

「俺は、いろいろ忙しんだ」

「忙しさは俺も一緒だ」

総二郎にしては強引な誘い。

常連の店で椅子を並べてグラスを重ねる。

時間を置いて類も司も集まった。

「4人だけというのも久し振りだね」

「俺は、今回何もできなかったな」

不満を漏らすわけじゃなく、つまんなかったと類が呟く。

「つくしが、絡んでなかったからだろうがぁ」

ここで一番不服そうな表情を見せる司。

結局、司は類が牧野のために動いても、動かなくても嫉妬するわけだ。

「迎えに行かないのか?」

嫉妬を見せてたと思ったら、一番痛いとこを司がついてくる。

「俺に、触れられたくないって言われたんだよな」

時間が空いた方が冷静な感情を取り戻してくれる気がする。

ケンカした後に強引につれもどせる司の行動力。

欲しいものが欲しいと言える感情のままに動くのは俺には無理だ。

葵が橘 理紗を見た時の表情が忘れられずにいる。

傷ついて、捨てられた子猫が足を引きずって、よろける姿を、俺の前から駆けだす葵の背中が映していた。

司なら行かせないって追いかけて抱きしめたはずだ。

あの時、葵を止めたら、今以上に葵を傷つけそうで、泣かせてしまいそうで、慰める自信がなかった。

だから一人で行かせてしまった。

それも・・・後悔してる。

「つくしと一緒に居るぞ」

「一番あきらが探しやすいところに隠れてるわけだ」

司の言葉に総二郎がグラスに口を付けながらつぶやく。

「本当に探してもらいたくなければホテルに泊まればいい訳だからね」

類の言葉がグンと胸に突き刺さる。

葵は俺が迎えに行くことを望んでるのだろうか。

もちろんこのままジッとしてるつもりはない。

葵が俺の前から姿を消して5時間の時間経過。

半日にも満たない時間でも数日経過した時間の長さに感じてしまってる。

こいつ等と酒を酌み交わしても酔いは一向に回らず、気がつくと葵のことばかり思ってる自分がいる。

「連れ戻しにくるの待ってるんじゃねぇの?」

「会いたくないって言ってもつくしの場合は俺に会いたいって思ってるのが本音だからな」

司、お前は昔から自分に都合のいいように解釈する奴だった。

自分本位な愛情も時として空回りしてたことも知ってる。

きっと牧野だから全部受け入れてくれたんだ。

葵だって、俺が選んだ女だ。

会いたくないって言われても、触れられたくなっいって言われても。

俺が・・・

全身全霊で葵を求めて、

体中の感覚が葵を追い出せずにいる。

「今度、こんなことがあったら許さないから」

半べそかいて、俺の胸の中に顔をうずめる葵を想像しながら席を立って店から飛び出した。

いつの間にか降りだした雨が路上を濡らす。

水たまりが靴音とともに跳ねる。

革靴が汚れるのも、裾の汚れるのも気にならない。

今はその音も早く葵を取り戻せと応援してるように聞こえていた。