恋の駆け引きは密室で 1

このお話は数話分が頭の中では出来上がってます。

すぐに吐き出さないと忘れそうなので連続で投稿させてください。

子供達のお話がただいますっぽりと抜けてしまってます。

*

「今日中に結果を出させ、できなければ首だ」

緊張気味の社員と入れ替わりに執務室に姿を見せた西田。

その後ろには隠れる小さいやつ。

遠慮がちに西田の背中からヒョコッと顔を出す。

さっきまでの冷たい空気に一瞬で柔らかい風が入りこんできる。

「牧野・・・ッ」

なんで、今、現れるんだ。

胸の奥から零れるうれしさを隠す様に口もとを引き締めた。

同情するように俺の前から立ち去る社員を見送った視線が俺に突き刺さる。

「もっと言い方があるでしょう」

批判の色あいを乗せる瞳がそう俺に告げてくる。

お前には関係ねェだろう。

心の中で舌打。

俺を見て嬉しそうな表情を作るのが先じゃねェのか?

「これ、タマ先輩に頼まれたから」

強気な口調で胸元に押し付けられた紙袋。

「着替えが入ってる」

「なに、怒ってんだ」

「別に」

気のないような冷たい返事。

「連絡をしなかったこと怒ってるのか?」

「日本帰ってきても家に帰れないほど働いてるんだ」

「社員を脅す時間はあっても私に連絡をする時間はないんだね」

「あぁ、忙しくてお前を思い出す暇もなかったよ」

ふと書類から視線を離して時計を眺める。

そんなわずかに時間に思い出すのはただ一人。

牧野が俺に向ける笑顔と俺の名を呼ぶ声。

早く会いたいって気持ちをどれだけ押さえつけてきたわからない。

仕事が一区切りついたらすぐに会いに行って抱きしめる。

それが今の俺の原動力。

牧野の攻撃的な態度が俺を頑なにさせるって理解しとけ。

「どういうつもりだ」

荒げた声を俺が向けてのは西田。

着がえなんて、邸から持ってくる必要性も牧野に持ってこさせる必要性もない。

執務室の奥に作られた仮眠室には必要なものはほとんそろっている。

「つくし様、お持ちいただいたものは奥の部屋に持って行っていただけませんか」

俺から一秒も視線を離さずに言葉を続ける西田。

「代表と話が済むまでそちらでお持ちいただきたい」

俺の胸に押し付けた荷物を奪い去った牧野がズンズンと大股で歩いて仮眠室の中に消えた。

「怒っていらっしゃいますね」

「あれじゃ、しばらくは機嫌が直りそうもない」

他人事のようにつぶやく西田。

「わざわざ、牧野を寄こす必要がどこにある」

「そろそろ限界かと思いまして・・・」

「はぁ?仕事は予定以上に進んでるだろうがぁ」

「仕事は順調ですが、代表の周りに居るものの身が持ちません」

その割には四六時中俺の側にいる西田は涼しい顔をしてるじゃねぇか。

西田を困らせる態度も取ってねェし。

「日が進むにつれ不機嫌に人を寄せ付けないオーラがほとばしってますから」

「先ほどのように社員を脅すのはやめていただきたい」

・お茶の入れ方の温度がちょっといつもより低いだけで粉々にされたカップ。

・メールの返信が遅いと割られたパソコンの画面。

・提出が遅いと1分の遅れが許されずに、見もせずにゴミ箱に捨てた種類。

箇条書きで、次々と頭の中からとりだして告げる無表情な声。

「最近、執務室に入室してくる社員の表情が暗くて・・・」

俺には西田の方が暗いって思えるがな。

「会社のTOPでも、時にはチームワークの大切さを理解していただきたい」

それで牧野が登場って安易過ぎだろう。

あいつが側にいると逆にムカつくこと多いんだぞ。

素直じゃねぇし。

俺の言うことにいちいち反抗するし。

抱き締めると脚けられっるし。

すぐ剥れるし。

可愛くねェ態度しかとらねェからな。

「坊ちゃん、顔が緩んでます」

西田の声に手の平で顎の輪郭をなぞる。

緩んだ頬の筋肉をその指先で抑え込んだ。

牧野に会えなかった一か月近く。

声もこの一週間聞いてなかった。

俺に怒った牧野の姿と声。

甘い響きも感情も見せないつれないあいつがそれでも、愛しいって思えてくる。

『結婚もしてない相手との取引は出来ない』

日本に帰ってくる前に取引先のトップにとられた態度。

20過ぎたばかりの男が結婚してる方が少ないはずだ。

簡単にあしらわれたことにムカついた俺は反抗するように叫んでいた。

「日本に婚約者がいますので、近いうちの結婚する予定です」

牧野が承知するはずはねッ!

大学卒業までの婚約期間は牧野が俺と結婚するための行儀作法を身につけるための準備期間でもある。

道明寺ホールディングス代表の俺の妻として牧野がやっていけるとお袋が認めるまでは、結婚の許可は出ない予定。

仕事が絡めばおふくろの方はなんとでもなる。

その辺の計算高さは会社がいまだに優先。

問題は牧野の頑固さ。

あいつにうんと言わせるのは骨が折れる。

「絶対頑張るから」

俺以上に時間に追われながらも笑顔で頑張って弱音を吐かない牧野。

最近お袋に褒められることを生きがいにしてる気がする。

お袋を巻き込むか?

ダメだ。

お袋に弱みは見せられない。

日本帰ってきて、牧野に結婚のことをどう了承させるか模索していたら連絡も出来なかった。

会えばすぐにでも、強引にでも、無理やりにプライベートジェットに乗せてしまいそうだったから。

俺なりに遠慮してたんだぞ。

「西田、しばらく誰も部屋に通すな」

椅子から立ち上がって俺は仮眠室の扉を開けた。

拍手コメント返礼

ココア 様

タイトルから想像してもらうと私としてはドキドキもので~。

密室はどこだーーーーーッ。

恋の駆け引きもこの二人には無理というか無意味かな?

Gods & Death 様

司君つくしを懐柔できるでしょうか?

そこが楽しめるお話になると思います。

メグリン様

楽しみが増えたとコメントいただけてまた頑張れます。

アーティーチョーク様

この二人は相変らずで~

支えるのじゃ西田さん。

司君がそれをうま~く利用できるといいんですけどね。

あさみ様

仮眠室が大変なことにならなければいいですけどね。

見るも無残になるのはどっちかな?(笑)

ことり 様

スマホのブログ表示が可笑しくなってましたね。

私もスマホで確認したら変でした。

なんにもしてないんですけどね(^_^;)

スマホ版のデザインを急きょ変えて対処してみました。