DNAに惑わされ 13

久し振りというか、ようやくというか鮎川パパ登場。

翔五郎監督のこと覚えてますか?

駿君主演のCMの監督ですよ~。

さてさてここからお話はどう動く? 

*

「駿く・・・」

ベランダから僕に手を振ろうとしていた鮎川の動きが止まった。

影になって見えない口元はパパって動いてると思う。

「そういうことか・・・」

ジロリと冷たく突き刺さる視線。

「すまんな、わざわざ送ってもらって」

グッと何かをこらえて、飲み込んで浮かべる監督の笑顔。

目が笑ってない。

「どうして、パパが居るの!」

空の上から聞こえた声は意外と不機嫌。

「帰国したからお前の顔を見に来ただけだ」

鮎川の話じゃ両親は長年別居状態。

鮎川の母親は誰でも知ってる超有名女優。

両親の仲が悪いわけじゃなく仕事上顔を合わせる時間が少ないってだけのことらしい。

鮎川もこのマンションにほとんど一人暮らし。

「だから小さい頃から自立してるの」

一瞬鮎川が見せた諦めた寂しげな表情。

すぐに強気な瞳の中にそれを隠す。

強がってる鎧の中に、繊細な君がいることを僕は知ってる。

「いつもはすぐにママのところに飛んで帰るでしょう」

ベランダを見あげたまま無言の監督の腕が僕に向かって動く。

「駿、一緒に来い」

えっ?

ムンズと監督に掴まれた右腕。

そのまま僕は捕獲された野良犬のように監督に引っ張られて、なすがままにマンションの玄関をくぐった。

すぐに開いた部屋のドア。

鮎川のマンションに入ったのは初めて。

シンプルな家具に落ち着いた色合い。

部屋の感じは鮎川らしいって思える。

監督と僕が並んで対面に鮎川が座る。

鮎川の隣に座っても僕は落ちつけないって思う。

「これ、土産だ」

テーブルの上にどさっと置かれた紙袋。

お土産と言うには多すぎるブランド名の入った袋がいくつも並ぶ。

「要らないっていってるでしょう」

プッーーーッ

吹き出しそうになる口を押えた。

何時も自分チで見る見慣れた光景。

父さんのうれしそうな顔とは対照的に呆れた表情を浮かべる母さんと舞。

「要らないっていってるのにッ!」

「少しは嬉しそうにしろ」

こんなやり取りが続く。

わざとらしく舞が「ありがとうパパ」と言えば、その場は丸く収まる我が家の法則。

うちだけが特別じゃなかったんだと思えたのがなぜか嬉しかった。

「駿君も呆れてるじゃない」

少し照れて怒った視線を鮎川は監督に向ける。

「呆れてなんてないから、うちも父さんも良く舞に買ってきてるから」

舞に向ける甘さの十分の一でも、父さんが息子の僕に向けてくれたら、僕の生活は断然過ごしやすくなるって思える。

「コーヒーでも入れるね」

僕と監督をリビングに残して鮎川は席を立つ。

肩が監督と触れあいそうな距離感。

腰を浮かせて合間をとる様に身体をずらした。

その距離を生めるように監督もまた身体をずらす。

「おい、逃げるな」

「窮屈だと思っただけですから」

「心配するな。俺はお前をみとめてるよ」

「一緒に仕事をして、レンズを通すと演技だけじゃなく人となりもわかるもんだ」

「だからって娘とのことを認めてるわけじゃないからな」

撮影中に響いたダメ出しの声と被る凄みのある声。

張り合う様に必死で何度も演技をした。

「認めてもらうまで頑張りますから」

フッと監督の口元が息を漏らす。

「甘やかされた坊ちゃんかと思ったら意外に根性あるんだよな」

その言葉に思わず監督に視線を向けた。

頭を左に傾けた監督の視線とぶつかる。

「美作社長が新人の撮影の度に、顔を出すなんて特別扱い異常なんだよ。

何かあるって勘ぐりたくもなる」

美作社長に隠し子の噂とかなって、監督はイタズラっぽく僕に笑いかける。

その噂は父さんの耳に届いてたのだろうか?

父さんが知ったら僕は即座に連れ戻されていたって思う。

撮影の時から気がついても監督は僕に対する態度を変えなかったってこと?

道明寺司の息子だって気がついた途端にちやほやされて、特別扱いが嫌で英徳から離れた。

何度も怒鳴られて、ダメだしされて、バカだとまで言われながらの撮影。

周りで必死で働くいくつもの職種。

たった数分のCMを作るために、その何十倍、何百倍もの労力と時間を費やされる現実。

一つのものを一緒に作り上げていく歓びがあることを肌で感じていた。

監督との仕事は嫌いじゃなかった。

「まさか、スポンサーの息子だとは思いもよらなかったよ」

「才能あるのに次回の起用ができないと知って残念に思ったのは本当の気持ちだ」

はじめて見る穏やかな監督の表情が僕の胸を熱くする。

「どうだ、また一緒に仕事をしないか?」

肩にポンと置かれた大きな掌。

掴まれた肩が熱い。

「ガシャッ」

テーブルに置かれたコーヒーカップの中身がユラユラと揺れる。

「仕事をやるから別れろって言うのはお姉さんの時に使った手だよね」

感情をあらわにする鮎川は珍しい。

「その手が駿には仕えないのは分ってる」

監督の言葉に鮎川がキョトンとしたまま僕を見る。

「僕が、道明寺司の息子だって監督は知ってるみたいだよ」

クツクツと笑い声が楽しそうに響く。

娘をやり込めたのが無性にうれしいって感じの監督。

「パパッ!」

親子の関係は思ったほどギクシャクはしてないみたいだ。

拍手コメント返礼

goemon 様

司 VS 翔五郎~♪

この対決面白そうですよね。

どうなるんだろう(*^_^*)

おーじ 様

お疲れ様です♪

高校生の駿君と小学生の駿君。

リミットの無邪気さから年月を重ねるとこんなお話に♪

『我儘~』の頃の二人はどうなってるんでしょうね。

なんとなくドキドキ。

一緒に暮らしてたりして~♪

やなぎ 様

もう一人のパパが~。

翔五郎さん道明寺の名前にひれ伏す様な性格じゃないのでおたがい気にくわないと

火花を散らさせたら面白いかと思うのです。

あずきまめ 様

監督は意外と理解のある人の設定にしてしまいました。

これで障害はないと思わせてパパ同士が気が合わなかったら?

なんて考えてます。

芸術肌の人に司は無理だと思いませんか?(笑)

アーティーチョーク 様

駿君親に似て一筋なんですよ。

このまま突っ走るような無謀さはないと思いますけどね。

お知らせ、いつもありがとうございます。(^_^;)