恋の駆け引きは密室で 11

司君自分の策略でドツボにはまってしまってますが・・・

どうなることやら。

*

「室長、最近の代表どうしちゃったんですか?」

「あんなに機嫌が悪いのは久しぶりですよね」

俺の噂なら俺に聞こえないところでやれ!

勢いのままに扉を力任せに開けた。

ギクッとなった気まずいいくつもの表情は一度重なった視線をすぐさま俺から外す。

そして、すぐに表情を変えない西田を会議室に一人残していなくなった。

「つくしを焦らせる作戦は上手くいかなかったんですか?」

牧野から一切連絡がない事は知ってるだろうがぁぁぁぁッ。

ムカつく俺にとぼけた西田の態度。

普段は『つくし』と呼び捨てにしないやつがわざとらしく『様』を付けない。

わざと俺のイラつくところを攻めてくる。

俺もまだ呼び捨てで呼んだことねェぞ!!!

とに、ムカつく。

「連絡ねぇの知ってるだろう」

俺に背を向けた西田が肩を大げさに上下させて、ため息を漏らしたのがわかる。

呆れた感情だけは隠そうとなんだな。

西田ッ!

「失礼します」

会議室からそのまま西田は頭を下げて出て行った。

ガシャッ!!

蹴り上げたパイプ椅子は高い金属音をたてて床に転がった。

このくらいじゃ足りない。

「類、お前、牧野となに話していた?」

公園から牧野と類を見失った後にかけた電話。

「司はさ、牧野と距離を置くんでしょ?」

「あっ?まあ・・・」

やっぱり俺の相談か?

泣きつく相手は類じゃなく俺だろうがぁ。

ボタンのかけ違いはそこから始まってる。

「牧野の面倒はしばらく俺が見るから心配しないで」

おい!まて!類!

切れた携帯の画面を食い入るように見つめる。

床に投げつける手前でグッと堪えた。

近付くなって言ったのは司だよね。

類は俺に釘を刺してきやがった。

撤回!

無理!

牧野を取り戻す!

類に任せられるか!

俺が会いたいって言ったら、それ優先だろ?

牧野に距離を置きたいって言ったことは忘れてやるよ。

「代表にお客様です」

ノックの後に開いた扉。

西田の部下の新米秘書。

「面会のアポイントなんて聞いてないぞ」

西田なら相手の重要性を即座に判断して入れ込むこともあるが、それはほぼ牧野に限る。

牧野が俺より先にしびれをきらしたか?

それとも俺の機嫌を取るのに西田が先に手をまわしたとか?

いや、ここは喜ぶなッ!

俺は機嫌が悪いからなッ。

何時までも待たせんじゃねェよ。

ゆっくりと足もとから徐々に影が消えて、短めのスカートからほっそりとした白い脚が浮かび上がる。

少し高めのパンプス。

牧野より高めの身長。

あいつじゃない。

「予定外の面会は無理だ」

「すいません。牧野様のことで、どうしてもお話がしたいと、室長にも許可はいただいてます」

早口で用件だけを言ってパタンと閉められたドア。

「5分だ。手短に済ませろ」

まだ若い女性。

ブランド物で着飾った相手は腐るほど見てる。

牧野との結婚を決めてこの手の女が俺の周りに近づくのは少なくなってきてたはずだ。

今さら自分を俺に売り込むとかしても無駄だぞ。

しょうもねぇ話ならすぐにこの部屋から叩きだす。

テーブルに腰を落として腕組みをしたまま相手を見据えた。

「牧野さんは道明寺様にふさわしくありません」

速攻叩きだす。

テーブルから腰を浮き上がらせて女の前に突き進む。

「これを見てください」

落ちついた声が差し出す写真数枚。

男に組み敷かれてる女性の写真。

男の腕で隠された口元。

つぶったままの瞳。

それでもそれが牧野だってことは一目で分かった。

勝ち誇ったような微笑を浮かべる女。

「何がいいたい?」

「浮気されて、それを許すんですか?」

にじみよせる身体をそのまま獲物を逃がさない様に壁に背中を押し付けるように追い込んで両手を壁に付く。

息のかかる距離。

媚を売る表情がそのまま艶を浮かべる。

カン違いすんなよ。

「俺が浮気されるわけねぇだろう」

凄む声は何時もより冷気を多く含む。

あのバカ!また騙されて、眠らされて、写真を撮られたってとこだろう。

以前桜子からやられたことまたやられてるだけだろうが。

あの事があったからすぐにこんな写真を見せられても疑いも起きない。

だからってムカつく感情はそのまま沸々と湧き上がる。

こいつ!牧野のどこ触ってんだツ!

胸の辺りとか、頬に触れそうな位置にある唇。

右手は腰の下あたり?

写真が切れててそれ以上見れない。

「この写真の構図から考えたら最低でも撮影した奴とこの男と牧野、3人はいたってことだよな」

「案外、この写真を撮ったのはお前じゃないのか?」

「この男に、言っておけ。すぐに探し出してやるから、首を洗って待ってろってな」

目の前で粉々に破り捨てた写真はそのままパラパラと床の上に散る。

「この、写真の画像を一枚でもばらまいてみろ。この地上で生きてられると思うなよ」

全ての怒りが燃え盛る炎となって体中の血液が逆流しそうだ。

ゆるゆると壁からずり落ちるように床に座り込む女。

唇から失せる色。

女を無視したままに会議室から出ようとドアを開ける。

「おっ!いたのか。びっくりさせるな」

俺の目の前には西田。

チラリと中を除いて、「壁に血のりがついてるかと思いました」

冗談を言いそうもない真面目な顔が真面目な口調でつぶやく。

お前の方が気味が悪い。

「西田、その女のこと徹底的に調べろ」

西田とすれ違いながら小さくそう指示をだした。

拍手コメント返礼

みなみ 様

司君もつくしのことは思いっきり信用してますよね。

俺を裏切るわけがない。

「俺と別れて生きていけるわけないだろう」

これくらい軽く笑って言える気がします。