生れる前から不眠症 22
祝佑君誕生といきたいところです。
21で書いた佑君の名前の由来。
ユウ君だと思ってお話を読んでくださっていた方が意外と多かったことを知りました。
タクス君ですよ~。
でも確かにユウって読むのが一般的ですよね。
今は読むのに困っちゃう名前を付ける方も多いからまだ読めるとは思うのですが・・・(^_^;)
最近、なんでそう読める?的な名前をキラキラネームと言うことを知りました。
一生ちゃんと読んでもらえそうもない名前を付けるのもかわいそうと思う私は古いのかな?
*「行ってくる」
「あっ、何かあったらすぐに連絡入れろよ」
玄関のノブをまわしながら振り返った俺に、もう分かったからと呆れた表情が葵に浮かぶ。
両手を俺の背中に押し付けて今にも外に押し出されそうな雰囲気。
最近、前にせり出したお腹に妙な貫録が葵に付いた気がする。
「いってらっしゃいって、何度言わせるつもり」
非難気味に膨れた頬はすぐに弾けて穏やかな笑みを浮かべる。
「じゃ」
頬に軽く触れるようにキスした後で、葵の身体に回しそうになった腕を無理やり引っ込めて玄関を出た。
迎えの車に乗り込んで窓から名残を惜しむように出てきたマンションの入り口を見つめてため息を付きながら、
後部席の皮張りの椅子に身体を沈めて我ながら飽きれると苦笑した。
あと何日、俺は子どもが生まれてくるのをハラハラと待たなければいけないんだろう。
俺の方が気が気じゃない。
俺がいないときに陣痛が始まったどうなる?
葵は一人だぞ。
俺ばかり不安でしょうがない。
「大丈夫だから、陣痛が始まってもすぐに生まれるわけじゃないんだから」
葵にそう言われても、今にも弾けそうな大きくなったお腹を見てると無性に落ちつけなくなる。
「予定日はもうそろそろですよね?」
秘書の一之瀬が珈琲を俺の前に差し出して微笑む。
俺以上に子どもの誕生を楽しみにしてる一人。
「生まれたら、すぐにスケジュールの調整はしますから」
俺が指示するまでもなく気を利かせる一之瀬。
出来たら今の時期でも真っ白な予定表を作ってくれ。
「10時から大阪に飛んでもらいます」
微笑んでそう俺に告げる一之瀬が悪魔に見える。
「しばらくは本社から離れない予定だったろう」
葵から連絡があったらすぐにでも駆けつけられる体制。
「会長からの業務命令ですから」
生れるって葵から連絡があったらどうすんだ!
「今すぐ陣痛が始まったって連絡があってもすぐには産まれませんから」
家では葵に、会社では一之瀬に軽くあしらわれてる気がする。
ヘリポートから飛び立つヘリ。
雲一つない清々しい青空。
何処までも広がる空にヘリのプロペラの音だけが響く。
小さくなる都会のビルを見つめながら俺達の住むマンションを探す。
見つけたからってどうなるものでもないのに、葵とどこかでつながっていたいと思う子供じみた感情。
以前の俺はこんなことを考える人間じゃなかった。
仕事の合間に浮かぶのは全部葵のことで、生まれてくる子供のことで、3人で作り上げていくはずの輝く未来。
仕事を頑張らなきゃな。
午後9時。
仕事を終えて帰宅。
何時もなら笑顔で出迎える葵が玄関に飛びだしてこない。
不安を感じて飛び込んだリビング。
「葵っ!」
床にうずくまってる葵に駆け寄った。
「始まった見た」
「生まれるのか?」
スーツの裾を握りしめてクッと痛みに耐えるように歪む表情がハァーと大きく息を吐いた。
「まだ、陣痛の間隔が長いから大丈夫だけど」
10分間隔になったら病院だったよな?
「今何分?」
「まだ20分くらいかな・・・」
荒い息を落着けるように何度も呼吸を繰り返すお葵。
「洗濯を終らせちゃおうと思ってたんだけど」
この状況で洗濯って・・・・
「俺がやる」
というか、そんなの別にほっといてもいいだろう。
「まだ、時間あるし、しばらく帰れないから」
「動くな」
立ち上がろうとする葵の肩を押しとどめてリビングをでる。
寝室から入院の準備の入ったバックを持って葵の元に戻った。
「すぐに、病院に連れて行く」
「えっ?でも、まだ・・・入院させてもらえないよ」
「そんなの、どうとでもなる」
予定日1週間前に入院させる様に融通を利かせることだって出来るんだよ。
病院について通されて特別室。
ベットの置かれた部屋の奥には付添い用の部屋もある。
ホテルのスイートルームに負けない造り。
「ここって病院だよね?」
「産まれたら、この部屋には入りきらないくらいの見舞い客が押し寄せるぞ」
本気にしてない表情で葵が笑う。
「イタっ・・・」
今日何度目かの陣痛の痛み。
俺まで腹が痛くなってくるような錯覚。
夜が明けて昼過ぎに葵は陣痛室から分娩室に移された。
滅菌の予防着に使い捨ての帽子をかぶせられて葵の横に付く俺。
こんな恰好あいつらには見せられない。
「似合うね」
苦しいとぎれとぎれの息の中でかすかに頬を緩める葵。
こんな時に俺を笑わせようとしなくてもいい。
きっと俺の方が死にそうな表情を浮かべてるんじゃいんだろうか。
握り合う手の平。
子宮が収縮を繰り返す痛みを直に俺につたえてくる握力。
葵のうめき声と痛みに耐える乱れた息遣い。
最期の力を振り絞るような長いいきみ。
産声が上がった瞬間に葵が大きく息を吐いて握っていた掌から力が抜ける。
「頑張ったな」
額に汗を浮かべながら柔らかな笑みがこぼれる。
胸元に差し出された生まれたばかりの赤ん坊。
小さな手足は元気に動いてすぐに自分の存在を俺達に印象付ける。
「小さい・・・」
満足に微笑んで葵の指が子供の肌の温もりを確かめるように触れる。
「赤ちゃんをきれいにしますから」
俺達から引き離れた赤ん坊は慣れて手つきできれいになってすぐに産着にくるまれる。
穏やかに寝息をたてる赤ん坊を抱いて分娩室から葵より一足先に待合室に出た。
見慣れた顔はすぐに俺を取り囲む。
「蕩けそうな顔して出てきたぞ」
ふざけた物言いで総二郎が類にふる。
「あきらも親ばか決定みたいだね」
類が俺と司を同等に並べて見てるのは釈然としない。
「これで俺のことバカにできねェだろう」
鼻で笑って司が俺の腕の中の赤ん坊を覗き込んだ。
駿が生まれた時に司が感動して泣いたの覚えてるぞ。
子供が生まれた祝福より先にいうことじゃねーつの。
「生れたたってってこんなに小さかったっけ?」
「司のとこだってもうすぐだろう?」
「そうなんだよな。生まれるまで気が気じゃないのは俺も分かる」
俺より先に父親になった余裕を司が見せる。
「美作さんおめでとう」
最初に俺に祝福の言葉をくれたのは牧野。
牧野・・・
お前もすぐに生まれてもおかしくないお腹をしてるぞ。
佑が生れるまでの必死な思いをまた思いだしてしまった。
ついさっき葵が経験した痛みは半端じゃねぇぞ。
牧野をここまで連れてきて、司、大丈夫かよ。
まあ、ここで陣痛がはじまっても問題はないか・・・。
「かわいいッ」
急に騒がしくなった待合室。
横から伸びてきた腕にすぐに佑を奪われた。
あわてて横から飛んできた看護師にすぐに佑は助けらてホッと胸を撫でおろす。
「母さん!」
責める俺の声に動じない、はしゃぐ三人。
「おにい様、もう、思いっきり可愛がってあげる」
ハモる双子の声。
葵には聞かせられない・・・。
拍手コメント返礼
c4 様
なんだかおめでとうと祝福を受けると照れますね。
佑君誕生にたくさんのおめでとう頂いてます。
そのうち電報でも届くんじゃないかと、ドキドキ。(笑)
そうなんですね。翼と書いてタクスとも読むこと初めて知りました。
ヤッパリ名前って奥が深い。
Gods & Death 様
私も出産のとき旦那は邪魔!と思った口です。(笑)
帝王切開だったので本当に何にもならなかったなぁ。
今はほとんど付き添う方多いですもんね。
私には無理です!
もう産むこともないでしょうけど。(^_^;)
機嫌が悪いと滅入っちゃいますよね。
うち週末婚みたいなものだから2日の辛抱だと思うと旦那様に優しく出来ます。
それでもたまには愚痴りたくなりますよ。
goemon 様
この後舞ちゃんと翼君生まれるんでしょね。
3人の幼児期、学童期もたのしそうですよね。
司とあきらが一緒になって行事に参加してるレアな場面がいっぱいありそう。