DNAに惑わされ 15

ポケットの中でつなぎ合った手と手。

その温もりはそのままじんわりと心の中まで染み込んでくる。

二人の手でいっぱいに膨れた上着のポケット。

その重量感をいつまでも感じていたいって思う。

指先は絡まったまま離れないで二人で歩く放課後の歩道。

触れあう肩がくすぐったくて、目と目が合うたびに笑顔がどちらからともなく零れた。

いいな~

微笑ましい帰宅風景。

高校の頃の甘い思い出は皆無な寂しい青春を過ごした私です。

列車で通学してた私は列車の中で女の子の友達とトランプしてただけでした。

駿君♪節度を持ったお付き合いをしてね♪

総ちゃんやあきら君のような乱れた高校生活は送っちゃダメだぞ~。

*

鮎川をマンションまで送り届けて帰るのが僕の日課になった。

僕の姿が見えなくなるまでベランダから姿を見せる鮎川を当たり前のように振り変えって見上げる僕。

夕日に照らされて琥珀に色を変える鮎川の黒髪。

キラキラと輝く髪を右手で掻き上げたその手を鮎川が僕に振る。

時々急に大人びた仕草を見せる鮎川にはドキッとさせられて困る。

キスしたのって何時だっけ?

立ち止まって振り返る僕に鮎川が大きく手を振るのが見えた。

ベランダに半身を乗り出す仕草は殺気と違って子供っぽい鮎川を僕に見せる。

「じゃ、また明日」

鮎川に聞こえるように腹から声を出して、僕は駆け出した。

「ただいま」

誰もいないはずの部屋に挨拶してしまうのは、きっと子供の頃からに身に付いた習慣。

返事のない反応にも慣れた。

「おかえり」

え?

思わず脱ぎかけたクツをもう一度はき直してしまった。

僕の部屋だよな?

部屋を間違えていたら僕のキーで開くはずはない。

ヒョコッとリビングのドアから見慣れた顔がニッコリと飛び出した。

母さん・・・っ。

「来るなら、来るって連絡入れてよね」

「駿の生活を偵察するためには突然の方がいいでしょう」

穏やかな表情で偵察って・・・

真剣さはほぼゼロ。

冗談にしか聞こえないよ。

「僕を信用してないの?」

「駿を一番信用してるわよ」

ニッコリ笑顔を振りまく母さんに何か用事?と聞こうと思って動かそうとした口がそのまま固まった。

リビングの床に置かれたスーツケース。

海外旅行1週間分の荷物が詰め込める大きなやつ。

ちょっとよっただけじゃないって事は直ぐにわかる。

「ケンカしたの?」

カバンをソファーの上に置きながら僕は違うと言って欲しい願望をため息とともに吐き出した。

「気がついたら飛びしちゃってた」

「しばらくは帰りません」

帰らないって、それで父さんが納得するはずないでしょう。

直ぐに父さんがこの部屋に飛び込んでくるんじゃないかと玄関を凝視。

なんの音も立てないドアから目が離せそうもない。

「今回は何が原因なの?」

僕らのことが原因で母さんが飛び出してくることはまずない。

父さんが母さんに贈ったプレゼントが高すぎるとか、要らないとか・・・

スケジュールの空いた父さんに母さんがつきあえなかったとか?

スキンシップが少ないと父さんが拗ねてるとか?

今回もイチャイチャが度を越しただけじゃないの?

他人が聞いたら呆れられる原因だって聞く前から僕は決定してる。

生れた時からそんな両親を見てきてるんだからいまさら心配する気持なんて湧いてこない。

「もう本当に我儘なんだから、私の言うことなんて全く聞いてないし」

我儘は結婚前から知ってるんでしょう。

母さんの言葉を聞かないって言われたらあの西田さんも吹き出すって思う。

お母さんの発言が一番父さんを慌てさせるって自覚ないの?

母さんの不機嫌になった表情はそのまま素直に不機嫌の意味を語りだす。

一人の女性と二人でホテルに消える父さんの姿が映るスクープ写真が載った週刊誌。

母さんは気がつかなかったから、何も父さんに聞かなかったらしい。

「何も言うことないのか」

「嫉妬心もわかないのか」と、いきなり週刊誌を父さんは母さんに投げつけた。

普通は、隠そうとするのが浮気の対処法だと思う。

周りは父さんが母さん一筋だって知ってるか、らねつ造された記事だってことは理解してる。

だから「またやられたな」くらいで騒ぎにもならないし話にも上がらない。

たまに話題に上がっても、母さんが「司を信じてるから」って、にっこりとほほ笑んで終焉するのがいつものパターン。

今回は違ったんだ・・・。

「いちいち、こんなんで嫉妬してたら、結婚生活がここまでつづくはずないつーの」

いや・・

父さんは嫉妬の裏返しが自分に向けられる愛情だって思ってる節があるから。

母さんが見せる嫉妬心に嬉しそうにニンマリする父さんを僕は何度も見てるんだよね。

意外に男は単純なんだって、鮎川を好きになって僕も気づき始めた。

「司が来たら追い返してね」

そう言い残して、ごろごろと母さんはスーツケースを引っ張って奥の客間に消えた。

僕が母さんを連れ戻そうと躍起になってる父さんをどうやって追い返せっていうの!

ポケットで携帯の着信を伝える振動。

ほら!

もう父さんから来た!

どうするんだよ!

自分で蒔いた種は自分で刈り取ってよ。

夫婦げんかに僕を巻き込むなッ!

拍手コメント返礼

理子 様

夫婦げんかに子どもを巻き込んじゃいけませんよね~

と思いつつ巻き込ませたかった私です。

離婚の危機にはならないから駿君も落ち着いていられるんでしょうけどね。

goemon様

「こんなことでケンカするなよな、親父」

駿君に言わせてみたいセリフの一つです。

この後、親子でのんびり過ごせるのかしら?(^_^;)

アーティーチョーク様

浮かれて帰宅したらパパとケンカしたママがいた。

一番テンション下がるパターンでしょうね。

このあとは確実にパパもやってくる♪

かよぴよ 様

二人のケンカはいつもこんなもん。

どうせ、仲直りするんだから、僕のマンションまで来なくても・・・

何て愚痴が聞こえてきそうです。(^_^;)

うんうん親子で男同士の話ってさせて見たいですね。

ちょと感動する様な会話。

司に出来るのだろうか・・・。

もみじ様

ケンカじゃなくじゃれ合いとで思っちゃってる?

子供も呆れるくらいやり合ってると思います。

道明寺一家は今日も平和です。