生れる前から不眠症 24

高校生の佑君は舞ちゃんに必死になってますが・・・

こっちはまだまだ無邪気です。

*

「た~ちゃん♪」

佑が生れてから、何度目かの美作邸本宅の訪問。

たーちゃんて・・・

タクスを略してたーちゃんは分かるけど・・・

物心がつく前には佑と呼んでくれ。

諦めの境地で葵と顔を見合わせる。

この前は本宅に来た時は寝返りも打てなかった佑が、今はしっかりと一人で座ることが出来るようになった。

赤ん坊の成長の速さには身を見張る。

仕事に行く前は座らせても後ろに引っくり返っていた佑が仕事から帰宅したらしっかりお座りが出来るようになっていた。

成長が進むたびに携帯に葵から送られてくる動画が俺の携帯の容量を侵食中。

生れて一か月は泣いた、笑った、あくびした、くしゃみした。

なんでも送られて、なんでもないこと当たり前のことも佑に関しては楽しみで・・・。

葵と二人で親ばかを楽しんでる。

「たーちゃん♪すごい♪」

佑の前に座り込んで眺めてる母親と双子の妹

拍手して瞳を輝かせる姿は当たり前の赤ん坊の成長を喜ぶにしては大げさ。

好きな歌手にコンサートでキャーキャーと興奮した名前を叫ぶファンの姿と見間違えそうだ。

佑に声をかけるたびに佑の目の前でひらひらな相変わらずのメルヘンチックな作りのレース満載のドレスがひらひらと動く。

その動きが気になるのか、佑は小さな腕を伸ばしてレースの端を掴もうと指を曲げる。

オムツで重そうにおしりを上げた拍子に重点はずれて倒れ込む佑。

「キャー、たーちゃん、私のこと一番好きなのね」

母親の膝に倒れ込んだ佑を抱き上げて頬ずり。

それ・・・

単に体勢を崩しただけ。

佑が気になるのは光を反射してキラキラ光るその派手なドレスだから。

掴んだレースはそのまま佑の口まで小さな腕が運ぶ。

吸ってるし・・・。

なんでも口に入れて確かめようとするのは生物の本能らしい。

「食いものじゃないぞ」

「お兄様ずる~い」

抱き上げた佑は直ぐに右から左に妹たちにさらわれる。

「私たちは居なくてもいいみたいだね」

俺と一緒に妹たちにあやされる佑を柔らかな表情を浮かべる葵。

「ムッとしてるかと思ったけど」

「どうして?」

冗談でしょうと言いたげな表情が俺を下から覗き込む。

「たーちゃんて呼んでるし、佑はおもちゃだぞ」

妹達が葵にしょうもない意地悪をしたのは結婚前。

まぁ、元をただせば俺の女性遍歴が悪いんだけどな。

佑が生まれる前の隠し子の騒動の件も・・・

わすれかけたことを思い出しそうになって焦る。

「佑は幸せだって思うよ」

「いっぱい、かわいがってもらえるから」

葵が幸せな笑顔を俺に見せる。

胸の奥からこみあげる熱い思い。

「俺、お前と結婚できて良かったって思うよ」

肩を抱く寄せるために回した腕。

「お母様たちいるんだけど・・・」

少し困ったようにつぶやく口元。

「別に見られても困らないだろ」

これ以上何かしたら逃げるからって瞳で睨むまれてもその奥に見える甘い囁き。

左の肩に置いた俺の左手に葵の右の手のひらが重さなった。

本気で俺から離れるつもりはないの丸わかり。

「なぁ、このまま佑を預けて二人で出かけないか?」

キョトンとなった表情は驚いたように目を見開いて俺をみつめる。

「冗談で言ってるんじゃぁ・・・ないみたいね」

マジな視線で熱く俺は葵をみつめてる。

「俺のパパぶりにも、そろそろ、ご褒美をもらえてもいいと思うけど」

最近俺達が話すことも生活の中心も佑。

恋人に戻る時間を楽しむのは悪い事じゃない。

「育児のご褒美がもらえるの私の方だと思うんだけど」

妹たちを相手に佑の機嫌はすこぶるいい。

そんな佑を眺めてから葵は視線を俺に移した。

「YES?NO?」

「YESしか受け付けないんでしょ」

まんざらでもない様子で葵が俺の腰に右手をまわして微笑んだ。

拍手コメント返礼

あずきまめ 様

赤ちゃんは見ていてあきないですよね。

子育てしてる最中はイライラもしますけどね。

あきら君ならしっかり助けてくれるんだろうなぁ。