DNAに惑わされ 25

早く追いかけなきゃ駿君。

もたもたしてるとフラれるかもよ~。

ロスと言えば椿おねぇさま。

つくしちゃんもいっぱい椿おねェ様には助けてもらってますからね。

*

「何も言わずに行くつもりだったの?」

柔らかなレーザーの席にゆっくりと腰を下ろした。

驚いた表情を見せた鮎川は直ぐに感情の読めない表情を作る。

今日の夕方の便で出発予定。

監督から聞いた直後に連絡を取ったのは父さんの秘書の西田さん。

直ぐに鮎川の乗る便を調べてもらってその便の座席を取ってもらった。

理由を何も聞かずに動いてくれるのは西田さんだけだと思うから。

父さんや母さんに頼むには理由を言わなきゃいけない。

ロスに行く鮎川を追いかけたい。

両親にに告げるには気まずい思いがある。

西田さんなら鮎川の名前を出しても僕の気持ちは察知してくれるはずだ。

父さんの思いを母さんに内緒で教えてくれたのが西田さんで、二人の心をつなげてくれた。

父さんと母さんの恋を裏であれこれと支えてくれた話は母さんから聞かされてるから。

空港で西田さんが僕のパスポートとロス行きのチケットを渡してくれた。

飛行機に乗り込んでシート番号を確認して進む。

それと鮎川の姿を探しながら。

僕のシートの横で鮎川を見つけた。

きっと西田さんがそこまで手をまわしてくれたんだと思う。

「椿様に御連絡してありますから何か困ったらご連絡を入れてください」

これだけの手配を短時間で済ませる手腕はさすがに父さんが絶大な信頼を寄せてる意味も理解できる。

「父さんと母さんには帰ってきて説明するから」

「ご心配なく」そう言った西田さんに僕は見送られて出発ロビーに向った。

「鮎川にとって僕の存在はそんなものなのか?」

不機嫌になった鮎川を追いかけなかった負い目なんて可愛いものだ。

「よくわかったね」

窓をみつめて呟く鮎川。

息で白くガラスが曇る。

窓に映った鮎川の表情が暗く見えるのは

淡いライトの光の影の為だと思いたい。

「監督に聞いたんだ。母親の元に行ったって」

僕の声に鮎川がようやく僕を見た。

「父さんに聞いたの?」

「まあね」

僕があまり監督に連絡を入れたくないことを鮎川は理解してくれてる。

直ぐに次回の撮影に使いたいと勧誘されることを鮎川は知ってる。

鮎川と監督の勧誘を天秤にかける必要はないほど直ぐに連絡をとったと鮎川に言ったら喜んでくれるだろうか。

「お父さんたら・・・」

渋い表情は「はぁー」と長めに息をつく。

それって、わざわざ監督に鮎川の居場所を聞き出して迷惑だとか?

「ごめん」

鮎川の口元が小さくつぶやく。

「駿君、パパに騙されてる」

騙されるって何を?

現に鮎川はロス行きの飛行機に乗ってるぞ。

「ロスに行くのはママを説得して日本に連れて帰るためなんだけど・・・」

僕には飛行機に乗る前に連絡入れたのにつながらなかったと告げられた。

監督の言いぷりは鮎川がロスに住む様な口ぶりで・・・

「母親と一緒に住む事と関係あるんですか?」聞いた僕に 「今日から母親のところに行ってるはずだよ」

と、住所がロスと教えられて・・・

思うだろ!普通!

鮎川がロスで母親と住む事になったんだと!

だから僕があの時、事の重大性に気がつかず呑気に「一緒に暮らせるんなら悩むことないんじゃないの?」

なんて言葉に鮎川が見せた不愉快さも理解できた。

後悔したんだぞ!

「追いかけて来てくれたんだ」

クスッと小さく微笑みを見せる口元。

「当たり前だろう」

監督にノセられてここまで来た僕はそれだけ鮎川に必死なわけで・・・

バレバレの自分の行動を鮎川に見られて・・・

照れくささにわざと不機嫌な口調を作った。

飛行機は飛び立つために滑走路をゆっくりと進んで動き出す。

「ロスに着くまで一人で寂しいと思ってたんだ」

鮎川の笑顔に救われた。

10時間弱の飛行時間。

二人でいればあっという間だよ。