我儘な僕に我儘な君 45

わ~ん 

随分ほったらかしてました佑君。

早く舞ちゃんと仲直りしたいよね。

翼君と椿さんのフォロならきっと大丈夫~。

「今日、翼の家に泊まるから」

連絡を入れた俺に母親は「分ってるから」と軽めの声にクスッとした笑みを混ぜる。

後部席が無人の車を帰して翼の方の車に乗ったことは運転手から報告は受けてるはずで母さんが心配するはずもない。

時には反対に翼が俺ん家に車に乗り込んでくる場合もあるのだから。

「その真面目さは父さん譲りよね」

「なにが俺譲りなんだ」

「佑が今日は帰らないって」

近くに父さんもいる様子で声が聞こえる。

「相変らずお前んとこも仲いいよな」

俺の手から携帯を取った翼が「お久ぶりです」と勝手に会話を始める。

「翼のとこの方が仲いいと思うけどね」

「もうすぐ翼もお兄ちゃんになるんだろう?」

チラリと俺に向けた視線。

翼が切った携帯を俺に放り投げてきた。

「良かったな夢が叶って」

小さい頃から一番下は嫌だって言ってた翼を知ってる。

「この年で、妹か弟が出来るってハズイぞ」

ベッドの上にうつぶせにダイブした翼が足をバタバタとバタつかせる。

「もうすぐ生まれるんだよなぁ」

「なぁ、もし女の子が生まれたら親父、舞よりも過保護になると思う。絶対そうなる」

起き上がった翼はベッドの上に胡坐をかいて自分で言った言葉に自分で確信してる。

忙しいやつだ。

俺には関係ないだろう。

「佑、気がつかないのか?

父さんの舞への関心が薄らぐってことだろう?」

輝く翼の表情。

翼、お前の方が喜んでるように見えるのは気のせいか?

なんでお前が喜ぶ。

突っ込みたくなった。

今は、父親より、舞との関係の修復の方が一大事業。

舞と向き合う覚悟。

逃げる舞を俺はどこまでつなぎとめておけるのだろうか。

悲しい表情を向けられたら掴もうとした腕を離してしまいそうな自分がいる。

もう絶対に舞の震える瞳の中に映し出される自分を見たくはないんだ。

「佑、大丈夫だよ、心配するな」

何度となく翼から繰り返される慰めの言葉。

「わかってる」

言葉とは裏腹な不安な感情。

そう簡単には抜け落ちてくれない。

小さな棘は突き刺さったまま時々思い出させるようにチクリと鈍い痛みを与えてくる。

この痛みを取り除けるのは舞だけなんだと今さらながら思ってしまう。

翼の言葉に笑ってる自分を冷めた目で見てる自分がどこかにいる。

「外の空気を吸ってくる」

翼の部屋から出て行こうとドアを開けた。

カチャリと開いた音が二つ重なる。

ならんでる部屋のドアが偶然にも同じ時間に開いた。

空気の微妙な流れを感じてる。

翼の隣りの部屋は舞の部屋で・・・

開いたドアが壁になって見えないはずの相手が舞の確率は高い。

そこから一歩足を踏み出せずに立ち止まる。

「佑、どうかしたのか」

「いや、別に・・・」

翼の声に反応するように舞の部屋のドアが微妙に揺れた。

「佑君?」

クン?

舞が俺を君付けで呼ぶはずはない。

舞じゃない?

姿を見せたのは翼の伯母の椿さん。

あっ・・・

落胆と安ど感が混じる不思議な感情。

「舞」

出てくるようにと促す声がいきなり鼓膜の側で増大してきた。

ドクンと心臓が大きく跳ねて全身に伝わる。

ザワッとした感覚が小さな波となって喉の奥まで広がって足先から指先まで冷たさを感じてる。

指先からしびれて感覚を奪うほどの緊張感。

握りしめた爪の感じてるはずの手のひらまでもあやふやな感触。

両脚で立っているのが不思議なくらいだ。

「佑・・・ごめんね」

ちいさく聞こえた舞の声。

どうして、舞が謝るのか、謝るのは俺の方。

腕を延ばして舞の部屋のドアの縁を掴む。

これ以上に開くはずのないドアを引き寄せていた。

ドアに半分身体を支えてもらう様に踏み出した一歩。

「私が、悪かったの」

ギュッと目をつぶって何かを堪えるように舞がつぶやく。

その舞の両肩をポンと押した椿さんはそのままドアを閉めて舞の部屋の中に入っていった。

「舞が謝ることじゃないよ」

椿さんがいなくなって二人になった廊下に聞こえるのは僕ら二人の息遣いだけ。

美術館の人気のない静けさの中に入るみたいだ。

悪かったのは嫉妬心を抑えるすべが見つからなった自分。

「私・・・全然気がつかなくて・・・ドジで・・・鈍感で・・・」

「舞が謝ったらダメだろう。俺が謝れなくなる」

舞の腕がゆっくりと俺の方に伸びてシャツの端を指先が掴む。

そのまま舞を抱きしめたいのにまた怖がらせるんじゃないかと躊躇して思う様に動けない。

「バタン」

俺の後ろでドアが閉まる音が大きく締まる。

見てたな翼!

延ばそうとした腕を引き戻して、握った指先をそのまま口に当てて緩みそうになった口元を隠した。

拍手コメント返礼

goemon 様

お待たせしました。

やっと更新できました。

気になってはいたのですがのびのびになってしまってました。

佑君忘れるわけないですよ。(笑)

末っ子生れてもやっぱり司は舞ちゃんを簡単には手放さないでしょうね。

かよぴよ様

子供達の恋愛はつかつくとは違って見守るような心境になってしまいます。

つかつくとはまた違った楽しみですよね。

妹が生まれたら可愛がられるだろうな。

舞ちゃんと佑がベビーカーで散歩しながら「若いママとパパね」なんて勘違いされて

それを目撃する司君なんておいしんですけど、どうでしょう?

ゆきこ 様

司が目撃したら獲物を狩る猛獣の獰猛な目つきになりそうですけどね。

鞭をピシャリと鳴らして服従させれるかなつくしちゃん。

今は椿さんもいるから~

婚約、結婚とトントンと~

そこまでお話が書けるのか。

まずは高校生の恋愛を楽しんで、一気に学生結婚させますか?

司が狂うぞ(笑)

akko

遠慮せずにさぁ~行くのよ!

行かせねェよと両手を広げて邪魔をする司君。

いつこの対決が見られるでしょうか?

近い気はしますけどね。