生れる前から不眠症 25

気がついたら続きを1月から書いてませんでした。(;_;)

そんなに長くほっといたつもりはなかったんですけどね。

すいません~

やっと更新です。

お待たせしました。

*

濡れた路上が街灯に反射されて浮かび上がる二つの影。

寄り添って歩く影をもっと近付けるように俺に絡ませる葵の腕がギュッと強く力を入れた。

「雨が降ってたの気がつかなかったね」

見あげた空は真っ暗で、今にもまた雨が落ちてきそうな空気の冷たさを肌に感じる。

「急がなきゃ、雨が降り出しそう」

そう言った葵がもう一度俺の腕をギュッと掴む。

「重い」

俺の片側に葵の重みを感じながらからかう様に言って笑った。

「あっ・・・ごめん」

「冗談だよ」

本気にして俺から離れようとする葵を逃がさない様に肩に腕を回す。

葵を束縛する俺に今度は葵が歩きにくそうにぎこちなく不安定にヒールの靴音が響く。

それでも、しっかりと俺に体を預けてくる葵が可愛くてしょうがない。

「行こう」

葵の肩に置く指先まで軽くハミングしそうだ。

「あっ」

葵が目を止めて立ち止まったのは子供服の飾ってあるショーウインドウ。

ガラス張りの窓の奥に小さなくせ毛の黒髪の子供のディスプレイ。

「これ、駿君に似てない?」

黒髪の男の子の周りには一回り小さな赤ん坊のマネキン。

坐ってるのとハイハイしてるのとつかまり立ちをしようとしてるしてる三体のマネキン。

「駿に、舞に翼に佑・・・」

そう思ったらそう見えなくはない気もした。

「似てねェよ。司なら眉吊り上げて否定するぞ」

俺の返事なんて気にしてない風に葵はジッと見つめてる。

「お店の中に入っていい?」

コクリとうなずく俺に極上の笑顔を見せて葵が扉を開ける。

折角のデートなんだけど・・・

大人のデートの予定。

俺の計画からすると外れてるんだけどな。

このまま最上階の夜景の見えるレストランとかでゆったりと楽しむディナー。

静かに落ちついた音色の音楽の流れる空間。

今、聞こえるのはどこかで聞いたことのあるテンポのいいアニメ映画の主題歌。

一気に家族向け。

佑が着るにはまだ数か月は先のはずの子供服。

右と左にもった服をどっちがいいと俺に見せる葵。

自分の服を買う時より輝いてる。

「あれもこれも欲しくなっちゃうよね」

店のもの全部買い占めても俺は全然困らないけどな。

「あっ、全部買えばって思ってるでしょ」

店員の驚いた表情に葵が慌てて声を小さくした。

全部筒抜け。

「買っても問題ないけどな」

「買っても全部着られないから」

音量を落として俺に聞こえる程度の葵の声。

「どっちか一つだけ買いたいだけなんだから」

俺に決めろと葵がベビー服を胸に押しつけた。

葵のドギマギとした表情がおもしろくてしょうがない。

オーバーオールにポロシャツのベビー服を選んで、そして、目に付いた木製の温もりを感じるおもちゃを一つ

会計をすませて店を出る。

「あっ・・・雨」

空に向けた葵の手のひらにぽつりと雫が落ちる。

街灯に照らされてオレンジに浮かび上がる雨はまだ降り出したばかりのようだ。

「急がなきゃ」

「寄り道したのお前だけど」

脱いだ上衣を二人でかぶって雨を避けるように駆けだした。

案内されたレストランの奥。

久し振りにゆっくりと向かい合って座る。

物静かに窓を眺める愁いを帯びた横顔。

かすかに唇から洩れる吐息。

「佑寝ちゃったかな?」

一日の大半は寝て過ごす赤ん坊。

俺も起きてる佑を見る時間は少ない。

子供を生んでから透明感を増した肌。

潤んでしっとりとした色気が漂って綺麗になったと思うのは俺の欲目じゃないって思う。

「佑のこと心配?」

「そうじゃないけど、離れたの初めてだから気になっちゃって・・・」

ごめんと動き出しそうな唇の動きをテーブルの上に置かれた葵の左の手の甲を握って止めた。

「佑のことから離れて、今だけ目の前の俺を見てくれると嬉しいんだけど」

ほんのりと色付いた頬はそのままワイングラスを口に運んで誤魔化す様に赤い液体を喉に流し込む。

「熱くなってきた」

グラスをテーブルの上に戻した葵が手のひらを団扇にして数度顔を煽いだ。

一気に昔の葵に戻って、その葵に安心してる。

笑を止めようとして振るえる唇を噛む。

喉の奥から我慢してた分の息が、ぷっと頬を膨らませる。

自然に零れる笑みはもう誤魔化しようがない。

何がおかしいの?

そんな非難する葵の表情にも笑いの神が降りているようだ。

「ごめん、葵じゃなくて自分が可笑しいんだ」

「いつも自然体の葵が好きだって再認識しただけだから」

「それで笑えるの?」

可笑しくて笑うのとは違う。

嬉しくて、幸せで、楽しくてほころんでくる頬。

君を見てるだけで・・・

そばにいてくれるだけで・・・

俺は幸せなんだって思う。

もうどうでもいいと言う様に葵が諦めた表情で料理を口に運んだ。

怒るなよ。

そう言いたいのにまた口元がほころんだ。

拍手コメント返礼

せんくま様

この二人の御話は連載というより短編的なUPになってきてます。

ふと二人で思いついたお話をポツポツとUPしていく感じになるかな。

甘い~お話を書きたくなってきちゃいました。