千葉君の憂鬱な一日 2
このお話は別館連載中の千葉君の憂鬱な一日の4~6のお話の移行になります。
From 1
「出せと、言われても今は無理」
「根こそぎこの店ぶっ壊してもいいんだぞ」
代表の目が本気モードで俺達にやれと今すぐにでも命令を出しそうな雰囲気で光る。
無理ですって!
せいぜいテーブルと椅子を壊す程度しかできません。
「今ここにいないんだって、いないものは出せないでしょう」
ドカッと丸テーブルの前の椅子に腰をすえた代表は納得してない表情であたりを見渡してる。
レーダービームを発して壁の向こう側を見通してるような気合を感じる。
もしかして特殊能力あり?
「卵がナなくなっちゃって、つくしが外に買い物に行ってくれてるの」
「そんなことに牧野をこき使ってるのか?」
ここで男性の相手をしてるつくし様を見るより健全な気がします。
まずは接待してるところに代表が見なくて良かった。
見知らぬ男性のオムライスに名前とハートをケチャプでにっこりと書いてるつくし様を見られた日には、この店はゴジラの襲撃を受けた残骸になると思う。
「ただいま」
カランと音をたてて開くドア。
「暑いのに荷物させてしまってすいません」
「当たり前だろう、つくしちゃんに重いもの持たせられないよ」
デレッとした顔で答える男。
ぼさぼさの髪の毛にチエックのシャツ。
背中には黒色のリュックを背負った男。
見た目の冴えない男が彼女が目当てだと明らかな態度。
両手には卵のパックがいくつもいったビニール袋を提げてる。
もう・・・
代表を見れない。
「ちょうどご主人様に会っちゃっ・・・て・・・」
明るく言いかけた声が店の一角を見つめて固まった。
クルリと向きを変えて背中を向ける。
「逃げんじゃねェよ」
グサッ!
確かに鋭利な槍が背中から胸に突き抜けたのが見えた。
「誰がご主人様だ」
「お前のご主人様は俺だろう」
冷気が盛り上がってだんだんと距離を縮める。
「なんでここにいるの」
そう言ってチラリと俺達に向けられて視線。
なんでしゃべったの!
無言で責める視線。
俺達のせいじゃありませんて!
代表に知られたくないのは俺達が一番です!
「見届けてやるよ」
「えっ?」
つくし様の声に思わずのっかって代表を見る。
「この二人にオムライス食べさせたんだろう?俺も同じの」
「同じって・・・」
「ハートとか書いたってやつ。相葉や千葉に食べさせて俺に食べさせられない訳ねェよな」
それ以上の迫力で脅さないでほしいと切に願う。
「あのさ、滋ちゃんも作れるんだけど」
「お前のはいらねェ」
滋さまの顔も見ずに冷たくあしらう代表。
「それじゃさ、つくしの作ったオムライスに私が書くハート」
「私が作ったオムライスにつくしが書くハートだったらどっちがいい?」
「どっちがいいって決まってるだろうがぁ。全部こいつに作らせろ」
思案する時間は0,1秒もかかってない即答。
「無理、だってうちの料理のシステムがそうなってるんだもん」
「滋、お前本当に店を営業させ無くするぞ」
「司さ、つくしを返さなきゃどうせ店をつぶすつもりでしょ」
うわ~。
にらみ合いの中になんとなく面白い雰囲気が織り込まれてる。
不思議な感覚。
不機嫌悪魔と悪戯天使のにらみ合い。
「両方持って来い」
「だから両方はダメだって」
「一つは千葉に食わせるから文句ねェだろう」
それって・・・
どちらを食べても俺は代表の恨みをかうんじゃないんですか?
断れるものなら断りたい。
出来れば相葉先輩を指名してほしかった。
先輩!
笑ってないで助けてくださいよ!
目の前に出された二つのオムライス。
右がつくし様の作ったオムライスで左のオムライスが滋様が作った奴。
俺の前に出てきたオムライスの上につくし様がケチャプを絞る手つきで構える。
震えてた指先が決心したように力を入れるように動く。
「ちょっと待ってください」
何の試案もないのに思わず止めたのは本能。
「おい」
「はい」
威圧感満載の声がこの短い言葉にどれだけの威力を持たせられるのだろう。
心臓が凍る。
「お前の卵を俺のと入れ替えろ」
あっ・・・
なるほど!
即座に言われた通りにスプーンとフォークを使って卵を剥いで代表の入れ替える。
「これなら文句ねェよね」
「司、ずるくない?」
滋さまの声が笑ってる。
俺、本当に命が助かった。
「つくし、こうなれば、徳大の熱いハート書いてやれば。そのケチャプ全部使い切っていいから」
「全部つかったら何が何だか分かんなくなるわよ」
慣れた手つきでつくし様が代表の卵に描くハート。
その横には可愛い感じのイラスト。
髪の毛のクルクル具合はどう見ても代表。
「よし、私のハートを書く権限もつくしに譲っちゃう」
この人は何を言い出すつもりなんだ!
助かった命がまた危険なサメの泳ぐ海に投げ出された気分。
「俺、何もいりませんから」
ガツガツとすばやくオムライスをスプーンで突き刺してすばやく口に運んだ。
数口で食べきる勢い。
「お前、ほかの奴にもこんなの書いてたのか」
怒りを鎮めるどころか火に油を注いだ様な熱の上昇。
「千葉、お前・・・それ食べたんだよな?」
「吐き出せ!」
立ち上がった勢いのままに首を絞め上げられた。
From 2
「道明寺、なにやってんのよ!!」
意識が遠くなる寸前で聞こえた声は天使の響き。
遅いですよ~
なんて贅沢は言えません。
首が折れそうな力が代表の指先から抜け落ちる。
って!
まだ俺の身体には代表が馬乗りのまま。
折角の策略で作らせたはずのオムライスはべチャッと床に落ちて楕円形のカタチは崩れてる。
まるでそれは頭を割られて血が飛び散ってるように見えた。
俺の運命?
ああなるのかな?
「千葉さんのせいじゃないでしょう。
お客さんで来てくれたんだから。責める相手が違うよ」
「ああ、そうだな根本的に間違ってたよ」
ゆらりと蜃気楼のように立ち上がった代表がつくし様と対峙。
「なによ」
代表の何時もとは違う凄みのある様子につくし様の声がわずかに動揺を見せる。
俺・・・
目を開ける勇気ないです。
「もともとはお前が悪いんだよな」
「大体この猿女の口車にノッてしなくてもいいバイト始めたんだからな」
「しなくてもいいって・・・バイトするのは何時ものことでしょう」
代表の気に押されてつくし様も言葉を噛みそうだ。
反論出来るだけまだ賞賛に値する。
「だったら、なんで俺に内緒なんだよ」
「それは・・・」
今にも人一人殺しそうな殺気。
冷酷、無慈悲の奴隷商人って見たことないけどこんなかな?
人を人だと思わず動物のように扱う姿。
整った容姿はそれを格段に冷ややかに見せる。
内緒にした気持ちわかります。
それはたぶん俺の方が数倍もあったんですから!
代表は究極つくし様に自分以外の男と話をするな!見るな!触れるのは論外って態度ですからね。
SPの俺達だって睨まれることたびたび。
このお店でつくし様に「いらっしゃいませ」と言われて瞬間に俺の運命は決まったようなもんだよな。
タダじゃ済まない。
「千葉、後はお前たちが始末しろ」
始末って・・・何を?
お客はとうの昔にいなくなった。
倒れたテーブルに倒れた椅子。
もうこの時点で営業には微妙な支障。
「こい」
「ちょっと、ダメ」
目の前を通り過ぎようとする代表の脚が見えた。
その後を代表の二倍の歩数で歩く足がギュッと踏ん張った。
「俺にまだたてつくのか?」
たてつかないでください~
心で必死に祈る。
俺はまだ床に倒れたまま起き上がれずにいる。
「あのね、いくらなんでもこのコスチュームで外を歩くのは恥かしんだから」
「だったら、そんなもん着るな」
確かにミニスカートに胸元がハートの形でひらひらのレースでふちを縫い取ってるメイド服。
街を歩けば男の視線を集めるのにはなんの苦労もいらない。
「更衣室はどこだ?」
代表が滋さまが教えた奥の部屋に視線を移す。
更衣室につくし様を引っ張る様にして二人で歩いて行った。
「ちょっと、なんで道明寺がついてくるのよ!」
「逃げられると困るからな」
「ぎゃー」
羽交い絞めにされた雰囲気で二人はドアの向こうに消えた。
「すぐに出てくるかな?」
「無理じゃないですか?」
滋さまと桜子さまの会話。
「つくし、しっかりカギかけとくのよ」
注意というより声援に近い明るい声。
「さぁ、ここは司の好きにさせて帰りましょ」
そのまま店からみんな追い出された。
「先輩・・・俺達外で待ってますか?」
「千葉、お前にその勇気あるか?」
ないです・・・。
From 3
「つくし、しっかりカギかけとくのよ」
聞こえて滋の声。
お留守番をしてる子供を気にして声をかけるそれとは全く別物。
「カチャッ」
カチャ?
私の後から入ってきた道明寺がドアのカギを右に回した。
日頃他人の言うことなんて無視する道明寺がここだけ言うこと聞くな。
「なんで、鍵かけんのよ」
睨み付ける私に「逃げられたら困るからな」と余裕の笑みで道明寺はドアに背を持たせて立つ。
カギ以前に逃げるドアはそこしかないんだから。
「なんか、いろいろあるんだな」
部屋に飾られてるコスチューム。
メイド服だけじゃなくCAとか、看護師とか・・・セーラー服とか・・・
道明寺の目が怪しく光った気がした。
「早く着がえろよ」
「道明寺がいるからでしょうが」
「それ、本気で言ってるのか?」
グッと近付いてきた精鍛な顔がなにを考えてるのかわかるにやけ方。
エッチ!スケベ!変態!
そんな言葉くらいじゃへこたれそうもない。
「後ろ向いててよ」
「俺のもの見て何が悪い。減るもんじゃねぇし」
「黙っていた罰だ」
もう!
ここまで言いだしたら曲げないよな。
ため息交じりにロッカーを開ける。
ロッカーの扉に掛けられた鏡に映るのは私を見つめる道明寺の熱い眼差し。
見守られてるような雰囲気が照れくさくてしょうがなくて鏡から視線を逸らした。
あっ・・・
背中に伸ばしたファスナが下がらない。
どうにかしようともがけばもがくほどファスナーは頑なで私の思うとおりに動いてくれそうもなかった。
「道明寺・・・」
「なんだ?」
振り返った私に道明寺がゆっくりと近づく。
「あのさ・・・脱がしてくれないかな?」
「えっ?」
呆けた顔が期待してる顔に変わる。
「脱がすんじゃなくて、ファスナーが壊れたみたいなの。助けて」
「紛らわしい言いかたすんじゃねェよ。
喜んで損した」
損って言うなッ。
道明寺の指先が肩に置かれて、もう片方の指先がファスナーを下ろしていく。
「これ、壊れてるな」
そう言った声が首筋に息を吹きかけられるように肌に触れた。
ワザとじゃってないよね。
唇から零れそうな声を出さない様に唇をかんで耐える。
「早くしてよ」
「ちょっと待てよ」
ビリッ
ヒャー
「破れた」
破れたって・・・
はらりと足元に落ちたコスチューム。
下着一枚の姿を思わず両腕で隠す。
それより先に道明寺に抱き着かれた。
「ギャー、ダメ、道明寺落ち着いて」
「ここまで手伝わせて大人しくなれるか」
「すぐ終わらせる」
「すぐ終わらせるって・・・」
ギャー!バカ!どこ触ってる!
道明寺の唇がチュッと音を立てて首筋に吸い付いてる。
「ここは冷静に、相葉さんたちも待ってるでしょう」
「あいつらならほっとけ」
「やだよ」
ここで時間を食ったら何を想像されるか・・・
もうあの二人がSPに付くだけで落着けなくなりそう。
「今、我慢してくれたら、この後、道明寺の言うこと聞くから」
「ホントだな」
うんと必死で首を縦に振った。
だからって・・・
どうしてセーラー服?
「あの頃はずいぶんとお預け食らわせられたしな」
車のハンドルをもつ道明寺の助手席に座らされてしまってる私。
横から伸びてきた腕は私を肩越しに抱いてセーラーのリボンの先を指先が弄んでる。
なんだかその仕草がなぜか艶を彩って、焦る。
微妙にドキドキしてる自分が許せないよ。
もう!
あそぶな!