千葉君の憂鬱な一日 1
別館で連載中のこの物語。
長くなりそうなのと、もしかしたらパスワードが必要になる?
アメブロはキビしいのでこれ以上は書けないかもしれない・・・(^_^;)
ということでこちらに移行させていただきました。
From 1
「千葉、先に食事行って来い」
ここのランチおいしいぞと相葉先輩は俺に割引チケットまで渡してくれた。
昼間の護衛の空いた時間で交代で食事に行くことが多い俺達。
渡されたチケットに印字された文字はメイドドリーム。
その横には単純な線で描かれたエプロンをした女の子のキャラクタが描かれてる。
何時もの定食屋とは違った感じだと思いながらも場所を確認してからスラックスのポケットにチケットを押し込んだ。
ビル街の歩道を歩きながらメイドドリームの看板を探す。
嘘だろう・・・
入り口の前にはピンクの看板にメイド喫茶の文字。
相葉先輩ってこんなとこで食事とるのか?
俺には無理。
背中を向けようとしたところで扉が開いて「帰りなさいませご主人様」
音符のついた明るい声が俺をとられた。
「あっ・・・間違い」
そんな俺の声は無視したように店の中に引っ張り込まれる。
昼休みのスーツ姿の男性もちらほら。
俺に興味を示す客は誰もいない。
「初めてですか?」
奥のテーブルに案内された俺はすでに断るタイミングを失ってる。
こうなれば昼飯食って帰る。
店の色調は赤と白。
天井にはミラーボール。
正面には20センチくらいの高さの小さな舞台。
ここでご飯を食えるのか?俺?
若い数人の女の子はアニメやメイドの恰好で接待。
サブカルチャーの世界は俺には未知数。
一時間500円のワンオーダーとか説明されて渡されたメニュー。
「メニューが決まったらおよびくださいませ。ご主人様♪にゅあん」
彼女の顔の前で高さ違いで拳を作った両手。
ネコの真似って・・・
どう反応していいのかわからない。
俺の隣りのテーブルの男は同じように手招きでネコになって「にゃん」と返してた。
「オムライスでお願いします」
注文してすぐに運ばれてきたオムライス。
「お待たせしました」
その声に聞き覚えがある。
ドクンと心臓が跳ねあがった。
「千葉・・・さん?」
固まった表情を浮かべたのはつくし様。
おーーーーーッ
その後は飲み込むようにオムライスを口の中に詰め込んでその場を逃げ出した。
「先輩!」
持ち場に戻って相葉先輩の胸倉を締めあげたい気分だ。
「びっくりしたろ?」
びっくりしたなんてものじゃない。
「代表は知ってるんですか?」
「知ってたらあの店つぶれてるぞ」
「俺、オムライスを頼んだらつくし様がケチャップで卵にハートですよ」
「俺はご主人様って何度か言われた」
ポンと相葉先輩の手のひらが俺の肩を叩く。
「先輩、共犯にしたでしょう」
「俺一人の胸に秘めるのは辛すぎるとは思わないか?」
「俺とお前は運命共同体だろう?」
それ!
代表とつくし様のセリフでしょう。
俺達の関係はただの同僚、先輩と後輩だけです。
「その話、詳しく話せ」
ボキボキと指を鳴らす音が背中から響く。
冷ややかな空気の流れは足元を白く覆う。
代表・・・
先輩も俺も身体が固まった動けなくなった。
From 2
いない!
まかれた!
逃げられた!
司様と違って何時もはこんな意地悪しないじゃないですか!
つくし様!どこ行った!
通勤者も途切れる時間帯。
それでも人波が途切れることのない大都会。
青い信号が赤に変わる寸前で横断歩道を突き抜けるように目に前からいなくなった。
しまッたと追いかける俺の前を車が途切れることなく通りすぎていく。
車の進む方向の信号が赤に変わったのを確認して横断歩道に飛びだしていた。
右折する車がクラクションを鳴らしてもこの際無視だ。
歩道を渡って右に曲がったところまでは目で追ってる。
ここって・・・いわゆるオタクの街・・・
玩具にキャラクターグッズが並ぶ店先。
つくし様にこんな趣味あったか?
それを知られるのが嫌だ逃げた?
豆電球に縁取れたピンクの看板。
アニメ系のキャラクターのかわいい顔は微笑を浮かべてる。
メイド喫茶・・・
「無理!帰る!」
カランと鈴の音が響いて開く扉。
そこから出てきたのはつくし様。
その腕を中から伸びてきた腕が掴む。
「こんなの聞いてない!」
振りほどく素振りを見せて嫌がるつくし様。
「失礼します」
自分のするべき仕事を思い出した俺はその中に割って入る様に身体を横から入れ込んだ。
えっ?
大河原滋・・・
「相葉さん・・・」
詰まった声は俺を意識して呟く。
状況が呑み込めず焦ってるうちに店の中に俺もつくし様も連れこまれてしまった。
「相葉ちゃん、君も同罪だよ」
俺の目の前30㎝に迫るご令嬢。
相葉ちゃんって・・・年上に言うか!
同罪って・・・
俺はまだ何もやってないですけど・・・
「つくしのこんな恰好を相葉ちゃんが見たって知ったら司暴れるだろうな・・・
丈の短めのワンピース仕様の黒のメイド服。
ひらひらハート方のエプロン付き。
「こんなの着なきゃいけないなんて聞いてないから」
膝上20センチのスカートの裾を引っ張っても伸びるはずがない。
ウッ・・・
確かにヤバイ。
もう二度と瞳に映さない様に視線を天井に向けた。
でも・・・
普通気がつかないですか?
外の看板もどう見ても普通の喫茶店とは違います。
服を着る前に渡された時点で気がつくでしょう!
「つくし、バイト探してたんだよね?」
「居酒屋、司が暴れて止めさせられたんでしょう?」
「別に道明寺は暴れてないから・・・夜は止めろって言われだけだし」
「昼間の時間だけでいいんだよ。ここなら居酒屋のバイトの二倍は出せるから」
なんか・・・
大財閥の令嬢が時給の話をしてるのは新鮮。
って、感心してる場合じゃなかった。
「でも・・・」
「何言ってるんですか、これは趣味と実益を兼ねたバイトですよ」
「この前の仮装パーティ―もたのしかったじゃないですか」
横からそう説得にかかったのは三条桜子。
この二人が引きこんだのならつくし様が逃げ切れるすべはないと俺は悟った。
「それじゃ相葉ちゃんを使って練習」
えっ?俺?
「にっこりと笑顔で、ご主人様おかえりなさい。ですよ」
明るくにっこりとスカートの裾を指先がつまんであげて品を作る桜子様。
それをつくし様にされた日には俺は殺される。
「いい、相葉ちゃん、割引チケット1年分上げるから協力するのよ」
一年分どころか1か月分も入りませんって!
司様が知ったら数分後には営業できなくなってると思いますから。
俺一人に胸に秘めとくには事が多きすぎる。
ここは頼りになるはずの俺の相棒千葉と秘密を分かち合おう。
許せ!千葉!
From 3
「正直に話せば許してやる」
許すの声がかすんで聞こえる。
ネクタイを締め上げら息が出来ないような錯覚。
ボキボキと鳴らしていた代表の止った指の動きの中に俺の命の炎が燃える。
相葉先輩の声も聞こえない。
なに固まっちゃってるんですか!
元をただせば先輩が俺を引きづりこんだんじゃないですかぁぁぁぁ。
胸倉をつかみたいのは代表じゃなくて俺の方です。
「つくし様、また新しいバイトを始めたみたいですね」
必死で笑おうとする頬はケロイド状に引きつってる。
「俺が知ったら店をつぶすってどんなバイトだ?」
代表・・・
何処から聞いちゃったんですか?
ケチャプでハートとか・・・
確認するのが怖い。
貧血おこして意識を失った方が楽だ。
「飲食店・・・関・・・係・・・ウェートレスというか、メイドというか・・・」
自分の声も聞こえなくなりそうな緊張感。
「連れて行け」
やっぱ、そうですよね・・・。
今の時間なら昼時よりは空いてるかもしれない。
男性客が一人もいなければ・・・
儚い希望。
リムジンが横付けされるメイド喫茶。
それでだけで何事かと道行く人が足を止める。
ドアが開いて登場するのはそれ以上に視線を集める代表だ。
道明寺HD代表 道明寺司。
お気に入りはメイド喫茶!
週刊誌一面の題名まで浮かんできた。
ここでこれ以上の注目度は上げたくない。
店で暴れないでくださいと祈る。
「ガチャン」
ドアの開く音。
「いらっしゃいませ♪ご主人様」
つくし様の声が紛れてないことに安心して小さく息を漏らす。
「俺が、いつお前らのご主人様になった」
その場を一瞬で凍らせる冷気が一気に店の中に吹き込まれる。
「代表、この店はそれが挨拶なんです」
相葉先輩の遠慮がちな声には興味ない態度でずかずかと店の中に代表が足をすすめた。
辺りを見渡す視線。
きっとつくし様を探してるはず。
「あれ~司来てくれたんだ」
はしゃいだ声が右サイドから突然聞こえてきた。
「し・・・げる・・・」
一度飲み込みかけた声を絞り出す様な代表の声。
「なんで、お前がここにいるんだ。牧野がいるんじゃねェのか?」
「あら、ここ私の経営なの、ちょっとつくしを借りてるけど文句ないわよね」
「勝手に俺のを使うんじゃねェよ」
「つくしはものじゃないでしょ」
「独占しすぎるとつくしに嫌われちゃうぞ」
代表の鼻先数センチのところまで迫る滋さまの顔。
その力に押されるように代表が一歩足を引いた。
俺の足先を踏む手前5センチ。
「千葉」
「ハイ!」
予想外に名前を呼ばれたことに動揺を隠せない。
声が裏返りそうになった。
「なんで、滋の店だって黙ってんだ」
黙っていたって、代表聞かなかったじゃないですか!!!!
言いたいことは飲み込んですいませんと謝る情けなさ。
「牧野を出せ」
気を取り直したように代表が叫んだ。