ウエディングベルは二度鳴らす 19

おはようございます。

雨のあとは温かい春の日差しの今日。

このまま温かくなるといいですね。

冷静に考えたら私・・・

結婚式の招待って初めて。

同級生の中で結婚したのは私が一番最初だった。

それも花嫁抜きで結婚式の準備は進められちゃってた。

場所を私と道明寺の思い出のあの場所を選んだのは道明寺で、その場所だけ指示したってことはあとで西門さんから聞いた。

道明寺と重なるわたしとの大事な思い出はどのくらい一緒に重なってるのだろう。

それだけのことがうれしくて、うれしくて・・・

勝手に進められた結婚式が最高のサプライズになって感動しちゃってた。

それでもなんでも私抜きにあの3人には相談するんだから!

今日の婚姻届にもあの3人が集まるって!

私たちのことはどこまで筒抜けなのだろう。

まさか!ここにも!

思わずくるりと視線を回したその先で公平が私の前にワインの入ったグラスを差し出した。

「結婚おめでとう」

カチンと重なったグラスが音を鳴らす。

「やっと結婚できたみたいだから、一応お祝いを言っておく」

誰にも聞かれてないからと公平は悪戯ぽく小さく口元をほころばす。

その笑顔がさわやかだから私も素直に「ありがとう」と口にできる。

「もう、公平には恥ずかしいとこばかり見られちゃってる気がするよ」

愚痴るように言った私を「今さらでしょう」とポンポンと公平の手のひらが頭を撫でた。

「あっ、見られたらヤバいかな」

ビクンと腕を引くしぐさで私の頭から離れる公平の手のひら。

あたりをうかがう視線を向けながら「あっ!」と言って公平は口をつぐんだ。

えっ!

まさか!

思わず飛び跳ねる様にピョンピョン飛んで公平の肩から顔を出して確かめる。

「うそ」

笑った顔が唇を引き締める。

「もうッ」

「ごめん、でも一瞬うれしかったろう?」

「道明寺が来たかと思って・・・」

うれしくないというつもりの声は言えなくて数秒のでき間。

そのなかに公平のほうから私の本音を投げ込まれてしまってた。

「もうからかわないでよ」

そう言いながらポケットからハンカチを取り出す。

その拍子にポケットから何かが零れ落ちた。

あっ・・・ホテルの部屋のキー・・・

わたしより先に気が付いた公平がそのキーを拾って私に差し出す。

カードキーにはくっきりと印字された文字が映し出されてる。

Forever Happy の文字とその下にはWishing you much love to fill your journey。

公平に差し出されたカードキーを左右で互いの指先が握り合ったままで固まった。

「あっ、悪い」

顔を少し赤くしたのは公平のほうが先で・・・

一瞬遅れた私はすぐに公平の数倍は体温が上昇してるはずだ。

ぴかっ!

まばゆい光に思わず顔を上げた。

目の前には高そうな一眼レフのカメラを抱えたカメラマンが「もう一枚!笑って」と私たちにカメラを向ける。

何も言う間もなくもう一枚写真を撮られた。

「いいの?」

「なにが?」

「写真撮られて?」

「みんな撮ってもらってるからその流れでしょ」

ダメだというのはこのノリじゃ無理。

「おめでとうと」か「ピース」とかみんな楽しそうカメラに収まってるし。

「写真撮られるなら公平より花嫁さんと撮りたいかな」

冗談ぽく笑って公平に視線を向けた。

「つくし・・・のんきだな」

「何が?」

そうう言った公平の視線は斜め下45度を示す。

私たちは互いにカードキーを握ったままだ。

「勘違いされなきゃいいけど」

つぶやきながら公平の指がカードキーから離れた。

勘違いって・・・

まさか・・・

え?

「俺がつくしを部屋に誘ってるって思われたらどうなる?」

真面目な表情が私を見つめる。

「これ以上俺はお前の旦那に恨まれたくないしな」

考え込む素振りを見せる公平は道明寺の威嚇にひるまない強靭な精神の持ち主。

恨まれてくないとか本気で思ってるとは思えない。

「ぷっ」

吹き出した公平がそんな心配しなくても大丈夫かって微笑む。

部屋で待ってるんだろうって言われた。

あっ・・・・

いや・・・

このキーのこと・・・

道明寺は知らないんだった。

でもここに道明寺はいないし、写真を道明寺が目にする可能性は低い。

それに私たちが何を握り合ってるかだなんてとられた写真じゃ確認できない大きさだと思う。

たぶん大丈夫!

大丈夫じゃなきゃ困る。

テンポのいい音楽が流れて結婚パーティーは楽しく進んでる。

「飲み物を持ってくるよ」

私の手から空になったグラスを受け取った公平が離れていくのをぼんやりと見送っていた。

大丈夫だよね・・・。

公平!

強いお酒持ってきて!

言いたくなった。