俺の話を聞いてくれ(ウエディングベル~ 番外編)
まずはお☆様と行きたいところですが・・・
まだ心構えができてないの~
一文字かきだすまではドキドキするんですよね。
今回はブレークタイムということで公平君のお話からお届けします♪
最上階のホテルのバー。
バーテンダーの後ろに並べられて透明なグラスに移りこむ摩天楼の輝き。
薄暗いオレンジの光の空間に流れるジャズの音楽。
アイ・シュッド・ケア
今の自分にはぴったりの曲だ。
バーテンダーに頼むロックの水割り。
英語の歌詞を軽く唇が口ずさむ。
訳せば・・・
もっと落ち込んでいいんだとか・・・
眠れない日が続いてもいいんだとか・・・
君みたいな素敵な人と出会うなんてたぶん、一生起こらないからもっと落ち込んでもいいんだ
そんな失恋ソング。
そう、この歌にあるとおり落ち込んでいいのに落ち込んでない俺。
出会った瞬間に失恋したから。
それだけが理由じゃないんだ。
牧野つくし、君みたいに俺の心をとらえる女性には今も出会えてない。
居心地がよくていつも笑っていられた。
恋人同士にならないんだったら今のままがいい。
きっと今も俺の気持ちには君は無頓着。
君の瞳にはいつもあいつしか映ってないから。
「お客様、結婚式の帰りですか?」
にっこりとほほ笑んだバーテンダーは横の椅子に置いた引き出物を袋を見ながらそうつぶやく。
「そういえば、珍しくうちのホテルの代表も出席されようです。騒ぎになりましたからね。会いました?」
人の好さそうな笑顔で結婚式は一組しかありませんでしたからと、一番会話がつながりそうな話題をこのバーテンダーは俺に提供したのだろ。
「ああ、見たよ」
短く答えて指先で揺らしたグラスの中の氷がカランと小さく音を立てる。
あの後もみくちゃにされなかっただけましだったと公平は振り返る。
「つくしも、愛されちゃってるな」
最終的にはそんな結論で盛り上がった。
イケメンでセレブでつくし一筋って女性の憧れ願望独り占め。
つくしでそうなら私たちだってって話題で盛り上がるシンデレラストーリー。
結婚した後が大変なんだぞ。
童話にはそのあとの結婚生活書いてない。
まあつくしならそれなりに戦って克服して幸せをつかむ。
つくしにべたぼれの道明寺がついてればなおのことそうだろう。
しかし・・・婚姻届けだしていてないって・・・
何やってんだ?
ホテルのキーを落として俺に拾われて顔を真っ赤にしてるやつ。
しっかりしてそうでちょっと抜けてるとこかわいいって思ってるのは俺以上にあいつなんだろうけど。
少し離れた窓辺のソファーの席。
3人の男がグラスを傾ける。
静かな雰囲気なのに輝かしいオーラ。
大学時代から目立つ存在。
道明寺と並ぶ御曹司集団の通称F4。
いまだに英徳では忘れられない存在。
その一人と視線が重なった。
つくしのことでちょっとつながりがる花沢類。
案外こいつのほうが道明寺より敵意向きだしで俺に突っかかってきたと公平は思う。
「司、うまくやってるかな」
「もう、けんかしてるとか?」
「あいつらにはほんと苦労させられるよ」
愚痴ってるというよりは酒の肴にされてる感じだ。
嫉妬の感情よりほっとしてる感情。
つくしの相手が道明寺司で・・・
熱烈にストレートに感情をぶつける性格のやつだからほっとけなくて、見届けたくなる。
案外道明寺司も俺は気にいってる気がする。
乾杯と空に向けてグラスを上げる。
それに答えるように花沢がカランとグラスを傾けた。
「おい、類、知ってるやつか?」
「牧野に振られた同士ってとこかな」
唇に称えるほほえみ。
それはまるでうまく協定を結んだような穏やかな笑み。
「あいつのこと司は知ってるのか?」
西門総二郎と美作あきら二人だけが不安の色を俺に向ける。
「司は牧野を独り占めしてるんだから今更問題ないよ」
「あいつの嫉妬は底なしだからな」
ぷっ。
口に含んだ濃い目のアルコールを思わず吹き出しそうになった。
つくしに嫉妬する道明寺に対抗するように抵抗を見せるつくし。
飽きないんだよな。
俺はいつからこんなことを面白く思う人間になったんだろう。
これもきっとつくしと道明寺だからなのだろう。
あと少しで俺たちの司法修習も終わる。
弁護士と検事。
会う機会はめっくり少なくなるって思う。
失恋よりそのほうが寂しく思えてきた。
俺の話を聞いてくれ。
出会った相手にはもうとっくに付き合ってる奴がいて。
相思相愛で・・・
それでも君みたいな素敵な人にはいまだに俺は巡り合えてない。
もっと落ち込んでいいはずなのに、落ち込んでいない。
「乾杯・・・」
小さくつぶやいた唇にグラスからアルコールを流し込んだ。