PHANTOM 3
落ち着けない司君。
あたふたするのは君らしくないぞと思いつつあたふたする司君を見たいと思うんですよね。
最後はかっこよく決めさせてあげるから~♪ ← 本当か!
「つくしちゃん本当にいいのか?」
今にも手をぎゅぅとつかんきそうな真剣なまなざしの甲斐さん。
でもここで私に触れるようなことは絶対にしないというか躊躇して伸ばしかけた腕を甲斐さんはひっこめた。
新米の私の先輩弁護士で教育係の甲斐幸太郎さん。
道明寺に睨まれて動けなくなるのに私のことはよく面倒見てくれる人のいいお兄さんで信頼を寄せられるタイプ。
裏表のない人に対してはすぐに好感をもてしまう私。
裏表がないっていえば道明寺もそうなんだけどね。
裏表がないタイプにも違いがあるんだと甲斐さんの人なっこい真ん丸目玉を見ながらしみじみと思う。
道明寺の場合は裏を見せる必要がないだけでただ傲慢なだけだから。
「新婚の君に離婚の調停させるのも気が引けるんだけど」
「仕事ですから大丈夫です」
ドンと胸を叩くこぶにし必要以上に力がいる。
「結婚が楽しい時期に夢を壊すことにならないかと思ってさ」
私の能力を心配してるわけじゃないところはよろこんでいいのかとしみじみと甲斐さんの顔を眺めてしまった。
「イタイすよっ」
何するんですかと横に顔を向けた甲斐さんの耳たぶをつまんでるのは玲子さん。
「結婚もしてない甲斐が心配すること自体に笑えるとおもうけど」
私がうなずくのを促すような微笑みを玲子さんに向けられてる。
そこはどう反応したらいいのか二人の後輩としては悩むところ。
「ちぎれたらどうするんですか」
「ノリでくつっければもとよりいい男になれるわよ」
「くっつきません」
玲子さんから離れた甲斐さんは大げさすぎる態度で耳たぶを両手で触って確かめてる。
二人のやり取りは一気に部屋の空気を明るく変えた。
今から事務所を出て調停の相手と会う約束の時間まで1時間を切ってる。
昼に帰ってくるのに間に合うかどうか。
今日のお昼も道明寺がランチの誘いにくるかもなんて頭の中をよぎっている。
来ないはずないのよ。
今日は一日中本社からでないって予定は西田さんから聞いてるもの。
昨日はなんだか変な空気のまま寝ちゃって朝も一人で出社しちゃったし、あいつの機嫌を損ねることは少しでも減らしたい。
機嫌のいい道明寺の笑顔を見るほうが断然いいに決まってる。
きつい表情がわたしを見つけて自然にほころぶ時の道明寺の和らいだ表情にキュンとなって私も自然と笑顔になってる自分い気が付く。
「あの・・・
そろそろ時間が迫ってるので私は行きますね」
この二人に合わせていたらまだ仕事に慣れていない私はお昼どころか定時に仕事が終われるとは思えない。
鞄をわきに抱え込んで事務所を飛び出した私の前にドンとぶつかる障害物。
いたっ。
タイミングよく開いたドアからの訪問者の胸とたいして高くもない私の鼻がぶつかった。
「つくしちゃん、大事なもの忘れて・・・る」
背中越しに聞こえた甲斐さんの声がわずかに戸惑って息継ぎが乱れてる。
忘れてるというより吐いた息の代わりの空気を吸えなくて固まった。
固まって動かなくなった甲斐さんの手に握られてるのは封筒に入るくらいの長方形に折り曲げてある離婚届。
大事なものを忘れた。
「ありがとうごさいます」
頭を下げた私より肩越しから伸びてきた腕がその紙を奪い取ってしまった。
あっ・・・
その腕の描く線を追いかけるように私の視線が追う。
道明寺・・・
見慣れてるはずの整った顔立ちなのに今なぜここにいるのかが分からず頭の中が拘束に回転を始めてる。
今ようやく甲斐さんの言葉が途切れた意味を悟った。
「なんだこれ?」
簡単に道明寺が開いて眺める薄っぺらな用紙。
「離婚届だけど」
自分でもおかしいと思える明るい声でしらないの?の意味を込めて答える。
「お前、これが大事なのか?」
眉間に刻まれたしわはいつもの数倍に増えてる気がした。
今回はこれにサインさせるのが仕事だから一番大事なものには違いない。
「今は、これ以上に大事なものないから」
え・・っ?
私の声に反応して私の行く先を阻むように道明寺の腕が壁をつくように伸びてドンと壁に音を立てる。
「行かせねぇからな」
不機嫌さを通り越して怒りを満たした道明寺が目の前に迫っていた。
なんで・・・?