PHANTOM 7
つくし~早く司の誤解を解いてやってね。
そう思ってる方は挙手をお願いします。
上がらない・・・
なんてね。
もう少し一緒に楽しませてほしいかな。
コンコンと聞きなれたリズムで聞こえたノック。
「つくし様が見えられました」
告げた西田の後ろに感じる気配。
「もう少し待ってろ」
デスクに落としたままの視線を上げずに俺はそう答えた。
黙ってつくしの言うことを聞くだったよな?
目の前には30分前から眺めてる書類。
内容が全然頭に入ってこない。
それでも目で文字を追う。
言葉の意味を理解しない脳。
思考のすべては離婚の言葉に支配されてる。
あいつが俺と本当に別れたいと思ってるのだろうか?
そんなそぶりは見せてなかった。
それとも・・・
俺が気づいてなかっただけ?
いきなり夫に離婚届を突きつける妻。
そんなことを西田は言ってたよな。
あいつに相談するんじゃなかった。
俺の苦悩は収まるどころかでかくなってる。
「もう道明寺とは暮せないから」
いきなりか!
「道明寺・・・ねぇ、聞いてる?」
書類の上に被る影。
えっ・・・
「道明寺?」
視線の先で華奢な手のひらが左右に振られてる。
「どうかした?」
「どうかしたって!今お前はとんでもないこと言ったろう!」
「とんでもないって・・・道明寺を呼んだだけでしょう。
呼んでも返事もしてくれないかったのはそっちだからね」
怪訝な表情はそのまま眉をしかめて眉間に浮かべる不愉快な感情。
白昼夢?
やばかった・・・
考え込んでるから余計なことを幻覚で見てしまう。
まずはつくしの話を聞くってことが大事だ。
「俺に言いたいことあるんじゃないのか?」
「あっ・・・」
少し戸惑いを浮かべた声。
「昨日は、ごめんね。先に寝っちゃって、朝も・・・その・・・一人でイッちゃって・・・」
頬を赤らめていっちゃうとか言うなっ。
先に寝てとかのつながりだとすげー欲求不満に聞こえる。
こいつのイッタの意味はたぶん俺を残して会社に行ったって意味だ。
ここに離婚のりの字も出てこない。
俺を油断させてのまさかの逆転狙ってねぇよな?
「俺たちの間に遠慮とか嘘とかないはずだ」
何でも言えよ。
正直に・・・
そう思いながらもドクンと心臓が跳ねる。
体中に走る神経がすべて張りつめたような緊張感。
絶対お前とは別れない。
「偶然だから・・・」
偶然てなんだよ。
偶然に離婚届持ってることがあるのか?
「俺がしっかり見てるのに偶然でごまかすつもりか」
吐いた言葉は冷ややかな声。
あっ・・・
黙ってうなずくだけのつもりだったが俺には無理。
西田もわかっていたはずだ。
・・・
西田には俺じゃなくあきらって言ってたんだった。
あきらならうまくやれるだろうけど聞き役に徹するなんて最初から無理な注文。
「本当だから、会社の前で偶然ばったりとね・・・」
離婚届が路上に落ちていて拾ったなんてこと・・・
ねぇよ。
「公平は私に用があったわけじゃなくて玲子さんに仕事で会いに来ただけだから」
???
一瞬目の前のこいつが何を言ってるのかわからなくなった。
公平って・・松岡か?
離婚のこと松岡に相談中?
「松岡と今まで一緒だったのか?」
ぐんとつくしに詰め寄った俺。
そのままガシッとつくしの両肩を掴む。
指先に入りすぎた力にかすかにつくしの顔が痛みにゆがんだ。
俺の心臓のほうがお前の肩の痛みよりイタイ。
「相談する相手間違えてんじゃねぇよ。
お前が悩んでるんなら真っ先に言うべき相手は俺だ」
そのままつくしを胸元にだ抱きしめた。
つくしは微動だせず黙ったまま息を潜めてる。
物音ひとつせず流れる沈黙。
「本気じゃないよな?」
俺の声に促されるようにゆっくりとつくしの顔が上を向いた。
潤んだ瞳はきらきらと輝いて俺をしっかりと見つめる。
「道明寺・・・」
俺の名を呼ぶ声は甘い色に染まって俺を誘う。
まだこいつは俺を愛してる。
肩から離れた腕は目の前の柔らかい頬を包み込むように触れる。
「あのね・・・」
これ以上こいつの口から言い訳は聞きたくなくて、黙らせることばかり考えてしまってる。
強引に引き上げるように指先に入る力。
キスしやすい角度に顔を傾けながら俺は目を閉じた。